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くだらないメール 3

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 俺はいつも通り授業を終え、雑学部の部室に向かっていた。夕暮れが差し込む廊下を歩く俺は昨日のこと思い出す。
 昨日雑学部のサイトに存在しない出席番号44番を持つ生徒(性別は今のところ不明)の宛名でメールが送られてきていた。俺とレイア先輩で本文を確認すると1つの英文が書かれていた。

 「……」
 「先輩これどういうことですか? 電気をつけなくてよかったなって」
 「これは都市伝説のワンフレーズだ」
 「はぁ。都市伝説ですか」

 ますますいたずらじみてきたんだが。

 「この送り手、よく見れば長谷川ってトイレの花子さんの本名とされているものじゃねーか」
 「花子さんって、苗字があったんですか?」
 「そりゃあ、あるだろうよ。兵庫県の花子さんは家族でトイレに住んでいるらしいしな」

 へぇ……。家族でトイレに住んでたんだ。なんかほっこりするのはなぜだろう……って今はそうじゃない。

 「じゃあ、ブラッドライトも何か由来が?」

 話を戻すため尋ねると、神妙なレイア先輩は「あくまで私の推測だが……」と答える。

 「多分、本文にある英文を文字ってる。もしくは同じく都市伝説ブラッディ・マリーの文字を使っている。まぁ、前者の方が強いと思うけどな」
 「あの……この英文ってなんの都市伝説なんですか? 俺、海外の都市伝説は調べたことなくて」
 「『ルームメイトの死』ってやつだよ。他の都市伝説と少々違って実際に起こった事件を元にしているらしい」

 そこから簡単にではあるが、レイア先輩がしてくれた『ルームメイトの死』の説明を聞いた。
 ルームメイトの死。
 それはある2人の女性の話だった。1人の女性が夜遅くに帰るとルームメイトであるもう1人の女性が眠っており、電気をつけるのは申し訳ないと思って彼女はつけなかった。朝起きてみると、先に眠っていたルームメイトは死んでいて、死体の付近の床に「電気をつけなくてよかったな」と赤黒い血で書かれていたという話。亡くなったルームメイトは女性が帰ってくるまでに家に侵入していた犯人よって殺され、帰ってきた女性が眠った後犯人は文字を書いたらしい。

 雑学部の部室の前まできた俺は聞いたレイア先輩の話を思い出す。
 うん、あれはきっとただのいたずらだ。
 そう思いながらながら雑学部のドアを開けた。すでにレイア先輩は来ており(というかきっと授業をサボって、ずっとここにいたのだろうけど)、先輩はデスクで珍しく自分のパソコンと向き合っていた。

 本当に珍しい。いつも紙がいいって言って、ちょっと見るだけのサイトの資料であってもわざわざ印刷するのに。
 部室にはレイア先輩以外に、今日は短縮授業だと言っていた遠藤君がすでに来ていた。
 俺は「お疲れ様でーす」と声を掛け、自分の席に着く。

 正面に座るレイア先輩の隣の席には「米倉、陸上部」と丸文字で書かれたプレートが置いてあった。ああ、今日は米倉先輩陸上部だっけ?? なら、俺がサイトを確認しないとな。
とパソコンを起動させようとした時、「夏海」と正面のツインテール先輩の声を掛けられた。

「どうしました?? レイア先輩」
「今日も長谷川なんちゃらからメールが送られてきてるんだ」
「えっ」

 パソコンを放置した俺は立ち上がり急いでレイア先輩のパソコン画面を見る。そこには確かに奇妙な出席番号を持つ長谷川ブラッドライトからのメールであった。受信された日付は4月26日。どうも今日の深夜に送られてきたようだ。
 レイア先輩はすでにメールを開いており、本文に目を通す。

 「『君たちならルームメイトの死のワンフレーズぐらい知っているんだろ??』って……この人何言っているんですか??」
 「私に分かるわけなかろう」

 そんな他人事みたいに言っちゃって……。
 しかし、レイア先輩が自らパソコンを開き確かめていたってことは、先輩は何かしら引っかかるものがあったから見ていたのだろうけど。でも、やはりいたずらじゃないのか。都市伝説なんて伝説なわけだし。フィクションであるのには変わりないだろうし。

 「先輩、やっぱりこれいたずらじゃないですか?」
 「じゃあ、なんで44番なんて出席番号を使っているんだ」

 確かにそうですけど。
 この雑学部にメールを送るには、学園の全てのパソコンに設置されている読み取り機を使って、学生証を読み込ませてがなければ、自分のアカウントにログインすることはできず、メールを送ることもできない。
 当然ながら学生証は学園が発行するため、決して誰も持つはずがない出席番号が書かれたものは存在しえないのだ。でも、このメールは存在することのない44番の差出人。

 もちろん、先輩が昨日教えてくれたクラッピングというものをすれば架空の出席番号を作ることは可能かもしれない。しかし、遠藤君が管理する学園のセキュリティは完璧。異常があればすぐにでも彼は報告してくるはずであるが、彼は今のところ何も言っていない。

 「も、文字化けじゃないですか……」
 「そんな奇跡のような文字化けなんてあるか。大体このサイトだって遠藤が管理しているんだ。文字化けなんてあり得るか」

 そうですよね。学園のネットワークを管理する遠藤君がそんな単純な問題は直していますよね。
 俺が渇いた声で笑うと、レイア先輩ははぁと溜息。

 「まぁ、どうせこれはいたずらなんだろうな」

 先輩はそう言うと背もたれにもたれ、画面に映るメールを閉じた。
 でも、俺らに生まれてしまった警戒心は閉じることはなかった。



 ★★★★★★★★



 午後10時。お子様ならすでに夢の中にいる時間に彼らはビルの上で集まっていた。
4月の風はやっぱり春風で夜でも暖かった。そんな気温であるのにも関わらず彼ら4人は暑そうな分厚い紺のコートをまとっていた。フードを深く被っているせいで彼らの顔は見えない。

 「今日も奴らは来るんだな」
 「あの人たちも仕事だろうからね。かわいそうに」
 「そんな彼らを相手する僕らもかわいそうじゃないですか? 僕ら戦いたくもないのに」

 3人は色とりどりの光を放つ騒がしい街を目の前に落ち着いた声で話す。その3人の背後には一言も話さない人が1人で手に炎を宿していた。ライターなど火を生み出すものなしで。

 「お前らはさ、復讐とかは望んでいないのだろう」
 「そうりゃあね。でも……私たちの故郷を戻せたらっていう願望はあるかも」
 「それはやっぱ倒さないとできないですかね」
 「和解って手段があればよかったのにあの人たちはその考えはないみたい」

 4人の向かいのビルからは複数の人の影。その影はぴょんぴょんと飛んでこちらに向かって来ている。まるで忍びのように。

 「じゃあ、戦うしかねーな」

 彼女がそう言うと彼らは走り出した。
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