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第3ラウンド

第42話 仮面の下

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「よくも壊してくれたわね――――?」

 通気口の蓋の隙間から出てきたハエ。

 ………ああ。
 こんなハエ如きに壊されるなんてッ。
 あの方が見ているというのに。

「よくも私の顔に泥を塗ってくれたわねェッ!?」

 怒気を吐き、憎き蚊を殺すように両手でハエをパチンと潰した。

「アハハァ――ッ!! オソイゼッ!! トロイゼッ!!」

 だが、聞こえてきたのは甲高い嘲笑の声。開いた私の手にハエの姿はなく、ハエは通気口へと戻って逃げていた。
 
 追いかけて通気口のカバーを足蹴りで壊し、私も通気口へ滑り込む。そして、変形魔法をかけて、自分の体を縮小。リ〇ちゃん人形の大きさになり、カンカンとヒールを鳴らして駆けた。

「このハエが――――ッ!!」

 ハエ叩きとして大杖を振り回し、時には魔法で攻撃。寒いと虫の動きも鈍るはずだが、ハエもどきは瞬間移動のように素早く動いていた。季節は肌寒い秋に設定しているのに………ほんとムカつく。

 だが、永遠にハエと鬼ごっこなどする気などない。

 私が今しているのは敵の追い込み。
 悔しいけど、今回ハエにチェックするのは私じゃない――――。

「!!」

 通気口を抜けた先で待ち構えていたのは、水のボール。ハエは急ブレーキをかけて回避しようとしたが、間に合わず勢いよく水の中へ飛び込んだ。

「おかえりなさい」

 透き通った水で球体を作り出し、笑顔で待っていたのは――――そう、ベンジャミン。

 彼はハエが入り込んだ水魔法を解除すると、弱ったハエをバチンと両手で叩いた。同時に、コアの破壊音が響く。ハエに大ダメージが入ったため、1つコアが壊れたのだろう。

 しかし、ハエは完全には潰れず、ぺちゃんこペラペラの状態で飛び、私たちから距離を置く。通気口から脱出し元の大きさへと体を戻した私は、ハエと向きあうベンジャミンの隣に立った。

 警戒を緩めず、大杖を構え直す。
 光魔法を使ってきた奴だ、油断はならない。

「休戦中に不意打ちしないでね」
「………………あなたこそ」

 隣のベンジャミンを睨みながら、念を押す。

 そう。私はベンジャミンと一時的に休戦協定を結んでいた。期限はハエのコアを全て壊すまで。全破壊した後に、戦いに戻ると約束していた。突然邪魔が入り、コアも消失した私もベンジャミンもかなりムカついていた。

 ほんといいところだったのに…………全部このバカハエが悪い。最悪な気分だ。

「それで、あんたはどこのどいつ? ハエなんかになってないで、人間に戻りなさいな」

 ぶっきらぼうに言い放つと、力なく飛んでいたハエは体を風船のように膨らませ、狼へと変化。そして、二本足で立って紳士のようなお辞儀をした。
 
「ごきげんよう、お2人さん。俺の名前はコニー・ラングレイ。あんたらを倒す人間だ」
「………………」
 
 コニー・ラングレイ………………は? コニー・ラングレイですって?

 コニー・ラングレイ――――いたって普通の男子生徒。別クラスの子。全てにおいて中の中だったモブキャラみたいな前髪あげ男。印象に残っていることが正直前髪しかない。

 凡人キャラ、たまにイベントで声を上げるモブキャラみたいな、とにかく印象がないやつだった。

 そんなやつにコアを1つ壊された――――?

「『私を倒す』だなんて、隠れていたわりに、生意気なことを言うじゃない」
「ハッ、隠れるのも奇襲をしかけるのも立派な戦法だろ? 隠れていたからって臆病者じゃない。闇雲に攻撃を仕掛けないあたり、俺は冷静な戦術家だろう?」

 そう言って、肩をすくめて煽るように笑う狼。

「コアは壊されちまったけど、1つぐらいどうってことないぜ………それで、早速再戦と行きたいところだが、その前に1つ聞いていいか?」
「………………何かしら」

 ギラリと灰色の瞳を怪しく光らせる狼。彼は心底ムカつく笑みを見せた。

「凡人の俺にコアを壊される気分はどうだった?」
「「最悪よ(だ)」」
「アハハッ!! そりゃあ、よかったぜッ!!」

 どこが良かったのよ。
 どこも良くないわよ、クソが。

 狼の大笑いに煮えたぎるような苛立ちが募る。嘲笑うのは私なのに。上から見下ろすのは私なのに。

 すると、狼人間コニーは右手を横へ大振りし、狼から姿を猿へと変える。くるりと翻ると。

「じゃあな! 俺はここで一旦退散退散――ッ!!」

 逃げ出していた。コニーは移動するたびに、目まぐるしく別の生き物に切り替っている。私たちも走り出し彼を追いかけた。

 コイツのコアはどこ――――?

  目を凝らして、コニーの命を探す。
 しかし、彼の近くにそれらしいものはない。

「俺のコアを探したって意味ないぜ――――!! あんたらには見えないからなッ!! アハハッ――――」

 愉快そうに笑いながら、コンクリート地面を駆けるコニー。彼の高笑いにエコーがかかり、構内に響いた。

「攻撃するなら、してみろやッ!? アハハッ!!」

 コアはどこに隠しているのだろうか。持っていない、ということはない。所持していなければ、プレイヤーでもなければ、生者でもない。どこかには必ずあるだ。

 見つからないのなら、全て燃やしてもいいかもしれない。

 でも、次は1つずつコアを壊していく。
 絶望していく彼らを見ていきたい。

 レイモンドの時は、一気にコアを壊してしまったから、絶望顔は見れなかったし。コアを壊されたからこそ、彼は絶対に苦しめたい。

「こ、これは………」

 そうして、変化へんげするコニーを追いかけて着いた新宿駅南口。そこには床を埋め着くほどの大量の猫がいた。愛らしく「にゃあにゃあ」と鳴いている。

 ああ………可愛い。モフりたい………。

「でも、あなたたちも敵だものね――――」

 猫エリアの先で走るコニーを追いかけ、猫のテリトリーに一歩侵入。すると、先ほどまで可愛い120%だった猫たちは突如化け、可愛い姿からクマサイズの大型狂猫に変身。爪をとがらせ、一斉に襲い掛かる。一種のホラーだった。

 愛でたいという気持ちは冷め、私は爆発で猫たちを爆散させていた。
 
 そうして、天国か地獄か分からない猫エリアを切り抜け、新宿駅から地上へと出ると、嘲笑う声が響いていた。道には走っていく少年の後ろ姿。顔だけ振り向いて、目下を指で引っ張り、舌をべーっと出している。ホント生意気なガキだわ。

「俺ばっかりみてると、またコアを壊されちゃうぜ――――!!」
「クソが………」

 あまりのムカつきに、走りのスピードをもう一段回上げ、マンホールを踏んだ瞬間だった。見えていなかった魔法陣が光り、起動。

「あ」

 爆発した。だが、私は察知した瞬間に防御魔法を展開。間一髪のところで負傷を逃れたが、後ろへと吹き飛ばされ、体は宙に浮く。防御魔法をかけたおかげか痛みはない。闇の空をクルクルと回って、コンクリートの地面に可憐に着地。

「あのガキっ………………」

 トラップぐらい予想できたのに、アイツを殺すことで頭いっぱいになっちゃってた。幸い、怪我もなく、コアにも影響なかった。
 
 にしても、コニー。
 あんた、変身魔法とかしか使えなかったんじゃないの?

 ほこりを払うと、隣のベンジャミンを確認する。
 彼も爆発を回避できていたようだ。

「あなた、仮面………………」

 その拍子で外れたのであろうベンジャミンの仮面。
 隠されていた彼の顔が露わになっていた。

「………………」

 だが、そこに綺麗な顔はなく、代わりにあったのは醜い顔。皮を剥がされ、筋肉が直に見えている。見るのも耐え難い不気味な顔だった。



  ――――――

 すみません。もう1話増えて、全57話になります。
 明日は2話更新日です。第43話は明日10時頃更新します。時間がずれているので、ご注意ください。よろしくお願いいたします。
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