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試し事と頼み事

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 「試しごとって、これか??」
 「そうよぉ」

 結局、魔女夜宵の家に向かった俺は真っ白なキャンバスの前で丸椅子に座らされていた。
 横にも同じような椅子があり、その上には何色か絵の具が出されたパレットと筆が置いてある。

 「そのキャンバスに絵を描いてくれるぅー?? 私の家宝にするわぁ」
 「あのな……………………」

 俺は文字も書けないが、当然絵も描けなかった。全ての俺の作品は魔法陣になる。俺が筆やらペンやらを持つっているのはそういうことだ。

 「いいから、描いてみてぇ。はやとくんが書けないのに、何度テストに挑むように、絵を描こうとしていたら、いつか描けるようになるかもしれないじゃなーい」
 「そうかもしれないがな…………」

 窓の外を見ると日は落ち、徐々に暗くなってきている。このまま夜宵コイツの言うことを聞いて魔法陣を作っちゃって、移動先で何かあったら夕食に間に合わなくなる。

 「ほら、はやとくんが好きな緑でも嫌いな紫でもいいからぁ、描いちゃって」

 なんで俺の好きな色を知っているんだと言いたくなったが、どうせストーキングでもして知ったんだろうと思い、仕方なく筆を持った。
 筆は何かの動物の毛でできており、プラスチック製のものより柔らかい。
 筆先に緑の絵の具をつけ、キャンバスの方に向く。

 「今回だけだぞ」

 そう言って、俺は白いキャンバスに脳内で思いついた景色を描こうとした。
 描こうとしたが、やはり手は魔法陣を描いていた。

 「やっぱダメか……………………」
 「ダメじゃないよぉ」
 「はっ??」

 横に立っていた夜宵の方を見る。ブレザーのポケットに両手を突っ込んでいる彼女はニヤリと小悪魔のような笑みを浮かべていた。
 描いた魔法陣は緑色の光を放ち、暗くなっていた部屋を照らしている。

 「今回は大成功。私の作戦はねぇ」
 「何っ!?」

 作戦ってなんだ!? コイツまさか俺に何かを仕掛けているのかっ!?
 すぐさま周囲を見渡し、後ろを向いて、席を立つ。すると、左腕をガっと掴まれた。掴んでいるのは夜宵の手。

 「おい、何をすんだっ!!」
 「この魔法陣ねぇ、私が仕込んでおいたんだよぉ」

 猫のように満面の笑みを浮かべる夜宵。嫌な予感しかしない。
 
 「ちょっと頼み事されたのぉ。『隼人を異世界に連れて行ってくれ』ってねぇ」
 
 頼み事?? この魔女にか??
 
 「誰に頼まれたんだっ!! こんなこと!!」
 「それは大好きなはやとくんであっても答えられない質問ねぇ」
 
 魔法陣の光がさらに増していく。もうすぐ、どっかに連れていかれてしまう。この魔女がやったことだ。転送先あっちに何かあるに違いない。きっとまともな世界じゃない。
 夜宵魔女がいた世界のように。
 夜宵はキャンバスの方に手をかざす。全力で抵抗するが、彼女の方がなぜか力が強かった。

 「じゃあ、行きましょうかぁ」
 「行きましょうっ!? って、お前も行くのかぁ!!!!」

 この危険な魔女と異世界に行くなんてまっぴらだっ!!
 こんなことなら、泉とどっか行ってればよかったぁ!!!

 「因みにいうと、例の場所っていうのは異世界だからぁ」

 彼女の言葉を聞き、冒頭のように俺は叫ぶのである。
 俺は何を考えているか分からない魔女の夜宵ともに緑の光に包まれていった。
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