【R18】お飾り皇后のやり直し初夜【完結】

無憂

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一、納后儀礼

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 この国において、皇帝は太陽に、皇后は月に喩えられる。

 わたし、皇后・章詩阿しょうしあは、家柄は建国の功臣の子孫で、輔国侯の爵位と食封を受け継いできた。祖父の章欣亮しょうきんりょうは国子学祭酒(国立大学学長にあたる)を務めたが、すでに故人。父の章岳しょうがくに至っては、長く無位無官だった。兄の章礼文は二年前に科挙に及第し、秘書省正字ひしょしょうせいじ――天子の蔵書や経籍を管理校正する――に任ぜられた。学者の家系で政治的な野心を持たない、書虫本の虫みたいな人だ。
 つまり、我が家は家柄だけは立派だけれど、政治的には無力で、政治に口を出すうるさい外戚になり得ない。そういう意味で、陛下にとって都合のいい家なのかもしれない。

 政務繁多を理由に、群臣からの皇后冊立の請願をずっと退けてこられた皇帝陛下は、昨年、ようやく皇后の冊立を決意なさった。
 
 宰相をはじめとする群臣は皆、すでに後宮に侍している妃嬪の一人を皇后に昇格させるつもりだった。
 ところが、皇帝陛下が後宮内の妃嬪ではなく、没落寸前の貴族の娘を皇后に立てると言い出したので、その選に当たった我が家はもちろん、群臣もみな恐慌に陥ったのだ。

 後宮内の妃嬪の一人を皇后に昇格させる場合、冊命皇后儀礼を行う。一方、未婚の令嬢を皇后として迎える場合は納后儀礼と称するのだが、建国以来、いまだかつて挙行されたことはなかった。なぜなら、その儀礼がとんでもなく面倒くさいからだ。

 群臣は、納后ではなく、章氏の娘を一度後宮に入れ、その後に皇后に冊命すればよいと提案したらしいが、しかし、皇帝陛下はその提案を突っぱねたそうだ。

 納后儀礼は、天子の婚礼である。婚礼は人倫の大事にして根源。天子として、それをゆるがせにすることはできない、と。
 
 結局、宰相らは説得を諦め、わたしは新皇后として、鳴り物入りで迎え入れられることになったのだ。




 しかし、わたし自身、なぜ自分が皇后に選ばれたのか、まったく思い当たるフシがない。別に美人と名高いわけでもなく、求婚者が殺到していたわけでもない。財産も乏しく、先祖から受け継いだ、京師みやこの一等地の広大な邸第やしきを管理するのに汲々としていた。
 たまたま、兄・章礼文が差遣さけん(本官以外の職務)として翰林学士かんりんがくし(詔勅の起草に与る側近官)を兼任している関係で、兄からわたしの存在を知ったのだろうかと、想像する程度。当たり前だが、兄も父も全力で辞退を試みた。しかし、力のない家の悲しさで、陛下の意向に逆らうことはできなかった。

 もし、納后ではなく、後宮入りからの皇后冊立であれば――
 父も兄も、わたしを急遽どこか別の男に嫁がせ、後宮入りを回避させたかもしれない。
 だが、そんな小細工を弄する間もなく陛下の内示が下されてしまい、退路を封じられてしまったのだ。
 
 
 

 納后儀礼は天子の婚礼である。
 ゆえに、一般の婚礼と同じ六礼りくれいの手順を踏むのだけれど、何が面倒くさいかって、いわゆる仲人なこうどに当たる仲介役の使者を任命する儀礼を、文武百官を招集し、太極殿たいごくでんに皇帝臨軒りんけん(皇帝が正殿にお出ましになること)の上で行わねばならないのだ。

 皇后を任命する儀礼に先駆けて、まず、その使、大がかりな儀礼を挙行するわけだ。そして、この百官招集の上で任命された使者と副使が、その都度、行列を仕立てて我が家に出向き、婚礼の六礼を一つ一つこなしていくのだが――

 納采(男性側が女性側に贈り物をし、求婚する)
 問名(女性の名前を聞く)
 納吉(占いの結果を伝え、婚姻の決定を告げる)
 納徴(嫁入りのための贈り物をする)
 告期(婚礼の日取りを告げる)
 奉迎(使者が花嫁を後宮まで迎える)

 この儀式のたびに、太極殿に百官が招集され、使者が行列を組んで花嫁の家とを往復するのである。前日から太極殿には準備の標識が立てられ、天子の威容を示す専用の楽器を設営される。章家の門外には前日から使者の詰め所として天幕を張り、儀式の後には使者たち一行にお酒を振る舞う必要もある。広いだけの古いボロ家を、少ない使用人総出で必死に修繕しなければならなかった。

 ついでに言えば、最後の奉迎の儀式まで、花嫁のわたしに出番はない。皇帝陛下からは支度金として内々に相当額が下賜され――それがなければ、我が家は絶対に破産していた――宮廷から礼儀作法の指南役なども派遣され、衣装や装身具も十分すぎるほどに贈られた。

 陛下がなぜ、貧乏貴族の娘であるわたしを皇后にするのか――そしてこんな大げさな儀礼を経てまで迎えようとしているのか、わたしは理解できず、また父も兄も説明できない風であったけれど、ここまでするからには蔑ろにされることはないだろう、とどこかで安心していた。甘かったと言われれば、反論のしようもないけれど――

 だから、後宮に入ってから二か月も放置されるなんて、わたしは想像もしていなかった。
 

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