【R18】陰陽の聖婚Ⅰ:聖なる婚姻

無憂

文字の大きさ
60 / 191
9、棄てられた皇子

暴走未遂

しおりを挟む
 恭親王は、そこで少し間を置いて、アデライードに尋ねた。

「これが、女王家の神器で、間違いないのだね?」

 アデライードが頷くのを見て、恭親王はさらに問いかける。

「あなたが望むなら、これはあなたに返すべきだと思うのだが……」

 それに対し、アデライードは首を振った。翡翠色の瞳で、恭親王の黒い瞳を見つめると、何か言いたげに唇を動かした。

「ゆっくりでいい。話してくれ」
「それは……もう、あなたの……」

 そこでアデライードの声はもう、出なくなった。ただ、唇の動きだけで、恭親王は読み取る。

(指輪が、あなたを、選んだ。だから、あなたの、もの……)

「指輪が、私を?……このまま、私が、持っておいても?」

 指輪が選ぶ、という意味が理解できない恭親王は、だが、こくりと頷くアデライードの、涙の痕の残る白い頬に指輪を嵌めた左手を伸ばし、そっと触れた。アデライードの甘やかな〈王気〉が掌を通して流れ込む。親指で柔らかな唇をなぞると、どうしようもない劣情が身体の奥底から立ち上ってきて、我慢できずに唇を奪う。唇の柔らかい感触と、流れ込む〈王気〉の甘さだけで、脳が燃えるほどの興奮が襲って来る。

 恭親王は沸き上がる激情を抑えきれず、アデライードに圧し掛かるように唇を貪り、体重をかけてソファに押し倒していた。涙に濡れた頬を掌で覆い、角度を変えて長く長く口づけを深める。アデライードの脚の間に膝を割り入れ、抵抗を封じるように体重をかけて抑え込む。

 男の体重と固い身体に押しつぶされ、アデライードは恐怖を感じ、両腕を動かして逃れようともがいた。恭親王はその両手首を易々と捉えると、顔の横に縫い付けるように押さえつけ、そのまま唇を貪る。恭親王が角度を変えるために一瞬、唇を離した時、アデライードは顔を横に向け、男の口づけを拒んだ。

「アデライード……逃げるな……あなたは……」

 男はもう一度唇を塞ぎ、咥内を舌で蹂躙する。アデライードのか弱い抵抗が、その折れそうな華奢な手首の細さが、男の支配欲をいっそう掻き立て、舌を絡め、唾液を吸い上げる。唇と舌から流れ込む〈王気〉の甘さが、男の脳髄を直撃した。

(もう、我慢できない、このまま――)

 そう、男が一線を越えることも決意したとき。
 
 わずかに離れた唇から、アデライードのか細い懇願が流れ出た。

「……や……たすけ、……シウ……リン……」

 その言葉は恭親王の耳を、心を、雷撃のように打ちのめした。
 唇を離して見下ろせば、アデライードは翡翠色の瞳から涙をぽろぽろと零し、ソファの上に両手首を縫い付けられて震えていた。

 制御しきれずに自分が暴走したことに、衝撃を受ける。今まで女性の尊厳を力ずくで奪ったことはないし、そんな暴挙に自分が出ると想像したこともない。望まぬ関係を強いられれば、どれほど心を傷つけるか、知っているはずなのに。恭親王は弾かれたように、アデライードの上から飛びのいた。

「あ……アデライード、その……これは……」

 恭親王がしどろもどになって言い訳しようとするが、もとより言い訳の余地すらない暴挙だ。アデライードは目をギュッと瞑り、恐怖に耐えるように涙を流しつづけている。

 恭親王は慌ててその涙を指で拭い、ソファから抱き起こして抱きしめようと腕を伸ばすが、アデライードの肩がビクリと揺れるのを見て腕を下ろした。

「あの……その……悪かった……少し、先走りすぎて……」

 声もなく泣きつづけるアデライードをどう慰め、許しを請うべきかと思案していると、控えめなノックの音が響き、メイローズが扉の外から声をかける。

「わが主よ!……もう、よろしいでしょうか?」

 はっとした恭親王が急いでソファから立ち上がったところで扉が開き、メイローズとアンジェリカたちが部屋を覗き込む。

 ずいぶん、時間がかかっていたようですが……まあ、姫様、どうなさったのです?」

 ぼろぼろ泣いているアデライードを見て、リリアが部屋に走り込んでくる。アンジェリカは親の仇でも見るかのように、非難の眼差しで恭親王を睨みつけ、アデライードを抱きしめるリリアを庇うように立ちはだかり、恭親王から二人を守ろうとした。

「姫様はお疲れのご様子です。今日はこれくらいにしてください!」

 メイローズも何やら不埒なことがあったのではないかと、不審な眼差しで恭親王を見る。気まずさに、恭親王は咳払いして誤魔化した。

「今日はもう、お部屋でゆっくりお休みなさいませ。……アンジェリカさん、リリアさん。姫君を寝室にお連れして、湯あみのお手伝いをお願いします」

 二人の侍女に護られて部屋を後にするアデライードの背中を、恭親王はなすすべもなく見送るしかなかった。部屋の中は、恭親王の他には、いったいどう説教しようかと待ち構えているメイローズと、凡そ味方にはなりそうもないエールライヒだけが残された。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...