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60、さらけ出す*
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「その……俺も、経験がないわけではありません。もっと若いころは娼館に通ったこともありますが、生身の女で、さらに好きでもない相手と、というのがどうも面倒くさくて。ミレイユに義理だてしていたこともありますけれど、ずっと自分の右手で処理してきたのですよ。だから、姫も俺の下半身の事情については、気にされることはありません」
かなり勇気を振り絞り、直接的にならないように説明したつもりなのだが、ジュスティーヌはますます理解できないという顔で、まじまじとラファエルの顔を見る。
「右手で?……どうやって? 女性は必要ないとおっしゃるの?」
「だからぁ! 扱いて出すだけだったら、右手があれば十分……」
そんな話を寝台の上で、抱きたくてたまらない相手に口走らねばならないなんて、なんという倒錯!ラファエルはさきほどから、異様なほど興奮して、肉茎は痛いほど昂り、先走りの汁まで零れているのではないかと思われた。
「右手……で、どこを扱いて、何を出すのですか?」
「あ、あなたは、わかっていてわざとやっているのですかっ!」
思わずラファエルが叫ぶと、ジュスティーヌははっとして下を向いた。
「す、……すみません。何も……存じ上げなくて」
「いえ、そんなつもりでは……」
すっかり意気消沈したらしいジュスティーヌの様子に、ラファエルはさらにわけがわからなくなる。知らないはずがないのだ。男の欲望も、その快楽の源も。六年も、あの男に抱かれてきたはずなのに。
「……声を荒げてすみません。あなたが、俺を揶揄うから……」
「揶揄ってなど、いません!ほんとうにわからないから……」
キッとラファエルの顔を見上げるジュスティーヌの瞳は真剣そのもので、まるで男性自身など目にしたこともないかのようだ。そんなはずはない。演技だとしたら大したものだと思う。
ふいに、ラファエルは妙に意地悪な気分になる。寝台の上で自慰の話までさせられ、興奮で理性が弾け飛ぶ寸前だ。ジュスティーヌがそのつもりなら、少しくらい、意地悪な要求をしたっていいんじゃないか――。
「わからないなら、見ますか?――俺が、自分で自分を慰めるところを」
「えっ?」
「あなたは肌を俺に見られたくないと言ったけれど、事前の約束に、俺の裸を見ないという条項はありませんでしたから――」
酒の酔いの勢いもあって、普段のラファエルならば到底、思いもつかないような、とんでもない発言だ。
ラファエルはギラギラした瞳でじっと、ジュスティーヌを見つめる。俺が、どれほど欲情しているか、どれほどの切ない辛抱をしているか、思い知ればいい――さっきまでの、絶対知られないようにしなければ、という気遣いなど、どこかに吹っ飛んでいた。
ラファエルの醸すギラギラとした迫力に飲まれ、ジュスティーヌは視線を外すこともできず、ただ、ごくりと唾を飲み込む。
「そ、その――それは、わたくしが見せていただいても、構わないものなのでしょうか?」
「普段はあなたのいないところでしますが、今夜はあなたにぜひ、見てもらいたい気分なんです」
「……見られたら嬉しいものなんですか?」
「ええ、とても――興奮します」
そう言って微笑んだラファエルの顔は、今までにないほどの妖艶な美しさに満ちていて、ジュスティーヌは思わず頷いてしまう。ラファエルはじっとジュスティーヌを見つめたまま視線を逸らさず、シャツの襟元の紐に手をかけ、それを解く。
「嫌だと思ったら、言ってください。俺は、無理強いするつもりはないんです」
そう言いながら、ラファエルは脚衣の紐を解き、脚衣を脱ぐ。シャツと毛織のガウンを同時にぱさりと脱ぎ捨てれば、美の神の化身と見まごうほどの、完璧に美しい裸体が現れた。蝋燭の淡い光の下、ラファエルの肉体は完璧な調和を体現し、生命力にあふれた森の若木のように清新で、ジュスティーヌは息を飲んで見つめる。彼の長く形のよい脚の間に生えているものだけが、不似合いに赤黒く醜悪で、禍々しいまでの存在感を放って、天に向かって屹立していた。
どうして――。
ジュスティーヌは、それから目を逸らすことができないでいた。
かなり勇気を振り絞り、直接的にならないように説明したつもりなのだが、ジュスティーヌはますます理解できないという顔で、まじまじとラファエルの顔を見る。
「右手で?……どうやって? 女性は必要ないとおっしゃるの?」
「だからぁ! 扱いて出すだけだったら、右手があれば十分……」
そんな話を寝台の上で、抱きたくてたまらない相手に口走らねばならないなんて、なんという倒錯!ラファエルはさきほどから、異様なほど興奮して、肉茎は痛いほど昂り、先走りの汁まで零れているのではないかと思われた。
「右手……で、どこを扱いて、何を出すのですか?」
「あ、あなたは、わかっていてわざとやっているのですかっ!」
思わずラファエルが叫ぶと、ジュスティーヌははっとして下を向いた。
「す、……すみません。何も……存じ上げなくて」
「いえ、そんなつもりでは……」
すっかり意気消沈したらしいジュスティーヌの様子に、ラファエルはさらにわけがわからなくなる。知らないはずがないのだ。男の欲望も、その快楽の源も。六年も、あの男に抱かれてきたはずなのに。
「……声を荒げてすみません。あなたが、俺を揶揄うから……」
「揶揄ってなど、いません!ほんとうにわからないから……」
キッとラファエルの顔を見上げるジュスティーヌの瞳は真剣そのもので、まるで男性自身など目にしたこともないかのようだ。そんなはずはない。演技だとしたら大したものだと思う。
ふいに、ラファエルは妙に意地悪な気分になる。寝台の上で自慰の話までさせられ、興奮で理性が弾け飛ぶ寸前だ。ジュスティーヌがそのつもりなら、少しくらい、意地悪な要求をしたっていいんじゃないか――。
「わからないなら、見ますか?――俺が、自分で自分を慰めるところを」
「えっ?」
「あなたは肌を俺に見られたくないと言ったけれど、事前の約束に、俺の裸を見ないという条項はありませんでしたから――」
酒の酔いの勢いもあって、普段のラファエルならば到底、思いもつかないような、とんでもない発言だ。
ラファエルはギラギラした瞳でじっと、ジュスティーヌを見つめる。俺が、どれほど欲情しているか、どれほどの切ない辛抱をしているか、思い知ればいい――さっきまでの、絶対知られないようにしなければ、という気遣いなど、どこかに吹っ飛んでいた。
ラファエルの醸すギラギラとした迫力に飲まれ、ジュスティーヌは視線を外すこともできず、ただ、ごくりと唾を飲み込む。
「そ、その――それは、わたくしが見せていただいても、構わないものなのでしょうか?」
「普段はあなたのいないところでしますが、今夜はあなたにぜひ、見てもらいたい気分なんです」
「……見られたら嬉しいものなんですか?」
「ええ、とても――興奮します」
そう言って微笑んだラファエルの顔は、今までにないほどの妖艶な美しさに満ちていて、ジュスティーヌは思わず頷いてしまう。ラファエルはじっとジュスティーヌを見つめたまま視線を逸らさず、シャツの襟元の紐に手をかけ、それを解く。
「嫌だと思ったら、言ってください。俺は、無理強いするつもりはないんです」
そう言いながら、ラファエルは脚衣の紐を解き、脚衣を脱ぐ。シャツと毛織のガウンを同時にぱさりと脱ぎ捨てれば、美の神の化身と見まごうほどの、完璧に美しい裸体が現れた。蝋燭の淡い光の下、ラファエルの肉体は完璧な調和を体現し、生命力にあふれた森の若木のように清新で、ジュスティーヌは息を飲んで見つめる。彼の長く形のよい脚の間に生えているものだけが、不似合いに赤黒く醜悪で、禍々しいまでの存在感を放って、天に向かって屹立していた。
どうして――。
ジュスティーヌは、それから目を逸らすことができないでいた。
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