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63、狩場の森
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翌日は朝から狩場の森で、国王主催の狩りが挙行された。
新ボーモン伯として、ラファエルも多くの貴族達とともに、狩りの装束に身を固め、葦毛の愛馬に跨がって参加した。女性たちも思い思いに着飾り、乗馬に興じるもの、天幕の周辺でピクニックを楽しむものと、それぞれであった。
ジュスティーヌは王妃や姉たちに囲まれて、王妃の天幕の中にいた。
天幕の中からはるかに夫を見出して、ジュスティーヌは昨夜のことを想いだし、ふと顔を赤らめる。
今朝はラファエルの顔をまともに見られなかった。未だに、ラファエルの中心に聳えていた、彼自身の手触りが忘れられない。
(あんな風になるなんて……)
以前、大公が一度だけ、ああして聳え立ったのを見たが、彼はその後すぐに泡を吹いて死んでしまった。ラファエルも死んでしまうのではと、恐怖で身が竦んだけれど、彼曰く、普段からすぐにああなると……。
ジュスティーヌはようやく、大公が薬をさまざま試してまで追い求めていたものが何であったか理解した。
(あれを目指しておられたのね……。新しいお薬をお試しになられた夜は、いっぱいいっぱい、顎が疲れるまで舐めさせられたけど、あんな風にはならなかった……)
ラファエルは何もしなくてもああなっていたし、一度果ててもすぐにまた力を取り戻していた。
しかし、アレはいったい何のために、あんな風に硬く大きくなるのかまでは、ジュスティーヌは理解できていなかった。
(――今夜、ラファエルに聞いてみてもいいものなのかしら。それとも、こういうことは口に出すべきではないのかしら……)
さっきから天幕の隅で顔を赤くしたり青くしたりしているジュスティーヌを、王妃や二人の姉たちは不思議そうに見ていた。
鹿を追って馬を走らせながら、ラファエルは心ここにあらずであった。
集中しなければいけないのはわかっているが、ジュスティーヌとの昨夜のことが、頭から消えない。
姫は男性器が勃起したところを、一度しか見たことがない――そしてその直後に大公は死んだ――と言っていた。つまり大公は、性的に不能だった、ということだ。
(信じられん。星の数ほど愛妾がいるのではなかったのか――?)
男が絶頂して射精する瞬間も、初めて見る、という顔をしていた。つまり――。
(処女なのか?……だが、六年間も――?)
しかし、身体中に苛まれた傷があるというし、男性を恐れている。ラファエルが圧し掛かった時の、ジュスティーヌの恐怖の表情は、ラファエルも記憶に新しい。閨でひどい目に遭わされていたことは間違いないのだ。
(――辱めは受けても、挿入はされていないということか)
だとすればジュスティーヌは処女ということになるが、もしかしたら、大公自身のモノでなくとも、張形のようなものを挿入された可能性もある。何とも歪んでいるし、それはそれで十分に悲惨だ。要するにまともな交接は経験していないのだ。――これまで漠然と考えていた状況とは、かなり違うのだと、ラファエルは認識を改める必要があるらしい。
ラファエルは思いめぐらす。
たとえ愛のない交接であったとしても、普通はそれなりに手順を経て、最後の瞬間に至るものだ。ラファエルは娼婦相手でしか経験がないけれど、たとえ商売女であっても、ラファエルは相手に不必要な苦痛を与えるつもりはなかったし、あちらはあちらで、疑似恋愛っぽい雰囲気を盛り上げようといろいろと工夫をこらしてくれたのは、わかる。そういうのが面倒くさくて、娼館からも足が遠ざかってしまったけれど。――だが、男性としての機能を喪失し、最後の快楽を得られない場合は――。
ピシリ、と馬の鞭の鳴る音に、ラファエルは湖上祭の夜に見た、ジュスティーヌの傷だらけの背中を思い出す。
大公の歪んだ欲望をぶつけられていたジュスティーヌ。相手に苦痛を与えることで、性的な興奮――あるいはそれに近いもの――を、大公は得ていたのであろう。だがその興奮の結果として、勃起が得られないとすれば――。
大公の欲望が遂げられることはない。つまり、ジュスティーヌは毎夜、いつ果てるともない終わりのない苦痛に、耐え続けなければならなかったのだ。
ラファエルは思わずぞくりとした。
ジュスティーヌが男性を、そして夫婦の閨を恐れるのも当然だ。それなのに、ジュスティーヌは、妻として夫ラファエルを受け入れられぬ自身を責め、心を痛めている。
――あるいは、少し無理をしても最後の交接まで経験させてしまえば――。
目的地の見えない旅は辛いものだが、最後に至るべきものが見えれば、ジュスティーヌも開き直ることができるのでは、とまで考えて、ラファエルはぶんぶんと首を振る。
ただでさえ怖がっている姫に、無理を強いてどうする。それでは単に、俺がヤりたいだけではないか。
第一、たとえ欲望が高じてラファエルが暴走したとしても、愛する姫を強姦するほどは拗らせていない。
――これ以上、姫を傷つけることはあってはならない。姫は十分すぎるほど、ラファエルを受け入れようと努力を重ねているのだから。
なんとか、彼女の恐怖心を取り除くことができれば。
ラファエルは晴れ渡った青空を見上げて、ジュスティーヌの青い瞳を想った。
新ボーモン伯として、ラファエルも多くの貴族達とともに、狩りの装束に身を固め、葦毛の愛馬に跨がって参加した。女性たちも思い思いに着飾り、乗馬に興じるもの、天幕の周辺でピクニックを楽しむものと、それぞれであった。
ジュスティーヌは王妃や姉たちに囲まれて、王妃の天幕の中にいた。
天幕の中からはるかに夫を見出して、ジュスティーヌは昨夜のことを想いだし、ふと顔を赤らめる。
今朝はラファエルの顔をまともに見られなかった。未だに、ラファエルの中心に聳えていた、彼自身の手触りが忘れられない。
(あんな風になるなんて……)
以前、大公が一度だけ、ああして聳え立ったのを見たが、彼はその後すぐに泡を吹いて死んでしまった。ラファエルも死んでしまうのではと、恐怖で身が竦んだけれど、彼曰く、普段からすぐにああなると……。
ジュスティーヌはようやく、大公が薬をさまざま試してまで追い求めていたものが何であったか理解した。
(あれを目指しておられたのね……。新しいお薬をお試しになられた夜は、いっぱいいっぱい、顎が疲れるまで舐めさせられたけど、あんな風にはならなかった……)
ラファエルは何もしなくてもああなっていたし、一度果ててもすぐにまた力を取り戻していた。
しかし、アレはいったい何のために、あんな風に硬く大きくなるのかまでは、ジュスティーヌは理解できていなかった。
(――今夜、ラファエルに聞いてみてもいいものなのかしら。それとも、こういうことは口に出すべきではないのかしら……)
さっきから天幕の隅で顔を赤くしたり青くしたりしているジュスティーヌを、王妃や二人の姉たちは不思議そうに見ていた。
鹿を追って馬を走らせながら、ラファエルは心ここにあらずであった。
集中しなければいけないのはわかっているが、ジュスティーヌとの昨夜のことが、頭から消えない。
姫は男性器が勃起したところを、一度しか見たことがない――そしてその直後に大公は死んだ――と言っていた。つまり大公は、性的に不能だった、ということだ。
(信じられん。星の数ほど愛妾がいるのではなかったのか――?)
男が絶頂して射精する瞬間も、初めて見る、という顔をしていた。つまり――。
(処女なのか?……だが、六年間も――?)
しかし、身体中に苛まれた傷があるというし、男性を恐れている。ラファエルが圧し掛かった時の、ジュスティーヌの恐怖の表情は、ラファエルも記憶に新しい。閨でひどい目に遭わされていたことは間違いないのだ。
(――辱めは受けても、挿入はされていないということか)
だとすればジュスティーヌは処女ということになるが、もしかしたら、大公自身のモノでなくとも、張形のようなものを挿入された可能性もある。何とも歪んでいるし、それはそれで十分に悲惨だ。要するにまともな交接は経験していないのだ。――これまで漠然と考えていた状況とは、かなり違うのだと、ラファエルは認識を改める必要があるらしい。
ラファエルは思いめぐらす。
たとえ愛のない交接であったとしても、普通はそれなりに手順を経て、最後の瞬間に至るものだ。ラファエルは娼婦相手でしか経験がないけれど、たとえ商売女であっても、ラファエルは相手に不必要な苦痛を与えるつもりはなかったし、あちらはあちらで、疑似恋愛っぽい雰囲気を盛り上げようといろいろと工夫をこらしてくれたのは、わかる。そういうのが面倒くさくて、娼館からも足が遠ざかってしまったけれど。――だが、男性としての機能を喪失し、最後の快楽を得られない場合は――。
ピシリ、と馬の鞭の鳴る音に、ラファエルは湖上祭の夜に見た、ジュスティーヌの傷だらけの背中を思い出す。
大公の歪んだ欲望をぶつけられていたジュスティーヌ。相手に苦痛を与えることで、性的な興奮――あるいはそれに近いもの――を、大公は得ていたのであろう。だがその興奮の結果として、勃起が得られないとすれば――。
大公の欲望が遂げられることはない。つまり、ジュスティーヌは毎夜、いつ果てるともない終わりのない苦痛に、耐え続けなければならなかったのだ。
ラファエルは思わずぞくりとした。
ジュスティーヌが男性を、そして夫婦の閨を恐れるのも当然だ。それなのに、ジュスティーヌは、妻として夫ラファエルを受け入れられぬ自身を責め、心を痛めている。
――あるいは、少し無理をしても最後の交接まで経験させてしまえば――。
目的地の見えない旅は辛いものだが、最後に至るべきものが見えれば、ジュスティーヌも開き直ることができるのでは、とまで考えて、ラファエルはぶんぶんと首を振る。
ただでさえ怖がっている姫に、無理を強いてどうする。それでは単に、俺がヤりたいだけではないか。
第一、たとえ欲望が高じてラファエルが暴走したとしても、愛する姫を強姦するほどは拗らせていない。
――これ以上、姫を傷つけることはあってはならない。姫は十分すぎるほど、ラファエルを受け入れようと努力を重ねているのだから。
なんとか、彼女の恐怖心を取り除くことができれば。
ラファエルは晴れ渡った青空を見上げて、ジュスティーヌの青い瞳を想った。
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