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79、烙印

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 決然と言ったジュスティーヌを、ラファエルが見つめる。ラファエルは、無意識に唾を飲み込んでいた。
 
 ジュスティーヌはラファエルを試そうとしているのだ。少しでも、傷に驚いたり、怯んだり、嫌悪感を示せばジュスティーヌはラファエルを永久に拒むかもしれない。

 どれほどの傷がその身体にあったとしても、ジュスティーヌの美しさを損なうことはあるまいと、ラファエルにはわかっていた。だが、痛ましい傷を見れば、無意識に眉をひそめてしまうだろうし、衝撃を受けないとも限らない。ラファエルにとって、ジュスティーヌの身体の傷など何の意味もないけれど、ジュスティーヌにとっては心の傷と直結する忌まわしいものに違いない。

 ここ数日、ジュスティーヌとラファエルの距離は縮まっているが、以前、ラファエルが不用意な行いでジュスティーヌの傷を抉ったような、そんなことが起きないとも限らない。

 だがラファエルは内心で覚悟を決め、しかし表面は何でもないことのように、微笑んで見せた。

「見せていただけるのですか。あなたを――」

 ジュスティーヌはラファエルから少し離れ、ラファエルに背中を向けてガウンの紐を解き、それを肩から滑らせる。薄い絹の部屋着シュミーズの肩ひもを解き、身体から滑り落とす。そこに現れたのは、ほっそりと白い背中――。

 一年ほど前に、湖上祭の時にちらりと目にした背中だが、傷はだいぶ薄まっていた。白い痕が縦横に走っているが、夜のほのかな明かりでは目を近づけなければわからない程度だ。――背中は見えないから、どの程度の傷なのか、ジュスティーヌはわかっていないのだろう。

「以前、ちらりと見た時はもう少し傷があったように思いますが、だいぶ薄らいでほとんどわかりませんよ?」

 ラファエルが言うと、ジュスティーヌはほっとしたように言う。

「そう――? 乳母も侍女たちも、そう言うのだけれど、見えないし、信じられなくて……」
「……触れても?」

 ラファエルに問われ、ジュスティーヌははっとして、身を固くする。

「それは……」
「触れてはいけないと言うなら、我慢します」
「そちらは、まだ、マシなのです。前が……」

 ジュスティーヌが、おずおずと言いながら、身体をずらしてラファエルの方を向いていく。淡い光の中に現れた二つの双丘と、くびれた腰にラファエルは息を飲んでしまいそうになるが、それをぐっとこらえる。
 ――胸から腹にかけておびただしい数の赤い痕が点々と広がっていた。ラファエルは身体の美しさに目を奪われてしまうが、ジュスティーヌは傷が醜いと思いこんでいるのだから、態度には気を付けなければならない。

「――火傷、ですか」
「ええ――醜いでしょう?」

 目を伏せて俯くジュスティーヌの身体は細く嫋やかで、両胸のふくらみの先端は緊張で赤く尖り、木苺の実のように色づいて、蝋燭の光の下で揺れている。ラファエルの分身が一気に立ち上がるけれど、ラファエルはじっとそれをこらえて、それから白いふとももに目を視線を動かす。

「別に醜いとは思いません。ですが、こんな傷を負わすなんて、地獄まで追いかけて、あの男を殺してやりたいくらいです」

 痛かったでしょう、とラファエルが言うと、ジュスティーヌは涙で濡れそぼった瞳を瞬いた。

「だいぶ、これでも薄くはなったのです。でも火傷の傷は治りにくいから、きっとこれ以上は――」

 火傷の傷に紛れていはいるが、背中と同様に鞭の跡らしき傷も微かに見える。大公に閉じ込められていた離宮から救い出された直後は、もっと生々しい傷が残っていただろう。蝋燭の火影の陰影に紛れているから目立たないだけで、明るい場所で見れば、今でも印象は違うかもしれない。

 それにしても、これほど美しい肢体を痛めつけ、傷を残した男の性癖が、ラファエルにはさっぱり理解できない。
 
「俺にはわかりません。こんなに美しくて愛しいものをあえて傷つけようという男の気持ちが」

 正直に、ラファエルがそう口にすると、ジュスティーヌははっきりとラファエルを見つめて言った。

「だって、あの人はわたくしのことなんて、これっぽっちも愛していなかったもの。ただの玩具おもちゃでしかなかった。少し甚振れば、泣きわめいて騒ぐ……」
「寂しい男ですね。……結局、あなたを本当に手に入れることはできず、怪しげな薬で命を落とした。俺はやはりあなたが欲しい。俺のものになってもらえませんか」

 ジュスティーヌが尋ねる。

「こんな醜い身体を見ても、まだ欲しいと思われますの?」
「醜いなんて思いません。さっきから、こんなに昂って……痛いほどなんです」
 
 言いながら、ラファエルはジュスティーヌの手を、自分の立ち上がった分身に導き、触れさせる。ジュスティーヌが熱いそれに触れて、困ったように眉尻を下げた。

「傷はこれですべてではないの。一番、醜いものがまだ――」

 ジュスティーヌはそう言うと、体勢を変えて白い内股を蝋燭に光にかざす。そこには隣国の公家の紋章が、くっきりと刻まれていた。
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