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8、不完全なるもの
媚薬
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アタナシオスの大きな手が、いつの間にかゆっくりと恭親王の肌を這っていた。優しく、ゆっくりと、彼の心を開くために、動く。アタナシオスの唇が彼の額に落ち、瞼や頬を滑る。
「……やめろと言っている。また吐くぞ」
「残念。あなたは好みのタイプなのに……少しは付き合ってくれてもいいじゃありませんか」
「兄上たちがいるだろう。私は無理だ」
「彼らは用途が違います。――彼らは精だけがあればいいのでね」
「精?……そんなものをどうするんだ?」
アタナシオスから逃れようと身を捩りながら、恭親王が尋ねる。
「皇太子――いえ、もう新帝ですが、彼は息子の精と私の術のおかげで、辛うじて〈王気〉を保っている。息子たちの精はあまり強くないので、そろそろ効果が消えかけている。息子の代わりに異母弟から精を巻き上げようという魂胆ですよ」
恭親王は黒い瞳を瞠る。
「……つまり、〈王気〉を奪う、ということか」
「あなたにも同じことを命じられているのですが、私はあなたに対しては別の目的があるので」
「目的? 何を、するつもりだ?」
「……番の――女王家の神器はどうしたのです? 見当たらないようですが」
「お前らの手の届くところになど、置いておくわけがなかろう。あれは、女王の番以外を弾く。探しても無駄だ」
衣服を脱がせながら言うアタナシオスに、やはりそれが目的だったのかと、恭親王が睨みつける。
「あれは要するにただの目印でしてね。あの指輪自体にはたいした力はない。あの指輪には用はないのです」
「だったら私の身体をまさぐるのはやめろ。……ここにはない」
心底嫌そうにアタナシオスの睨みつける恭親王の、黒い瞳をアタナシオスがじっと見つめる。
「私が指令を受けているのは、女王の番の魔法陣を破壊すること。番の存在がなければ、女王――アデライードは真の力を発揮することができない」
「つまり、私を殺すということか。それにしてはまどろっこしいぞ?」
「それは最後の手段でしてね……というか、それでは女王の魔法陣は破壊されない可能性がある。相手の男を殺さなくとも、決定的に壊す手段があるのです」
アタナシオスの手が恭親王の脚衣に及び、それを寛げ、彼の萎えた男性器を露わにする。
「こんなに縮こまってしまって……怖いのですか?」
「怖いし、気持ち悪い。さっきから触るなと言っている」
くくくくく……とアタナシオスが大きな肩を震わせて笑う。
「女王の魔法陣は、番の男の心と結びついている。番の男が女王に心を遺して死ねば、魔法陣は永久に残る。――ユウラ女王の魔法陣のように。では破壊するには?」
そう言って、アタナシオスは恭親王の男性器を手に取り、軽く扱きながら、下から見上げるように恭親王の顔を見た。
「簡単なことです。――番の男が女王を裏切り、心が離れればいい。今は、あなたはアデライードに夢中のようですが、いつまで心を留めることができるか――どうです? 賭けませんか?」
アタナシオスの大きな手が恭親王の男根の握り込んで動く。だが、彼のそれはいっこうに反応しなかった。
「私が彼女を裏切ることなど、あり得ない」
恭親王がじっと、黒い静かな瞳でアタナシオスを見据える。その真剣な表情に、アタナシオスはふっと頬を緩め、諦めたように手を離した。
「なるほど、龍種同士が結びつくと、本能の部分が支配されてしまうというのは、本当なのですね」
「だから無駄だ。――殺すなら、殺せ。それ以外に、私たちの繋がりを絶つ方法などない」
「それが、まんざらないわけでもないのですよ。――ただ、あなたが頑固な性質の場合、ちょっと辛い目に遭わせることになるので、気が進まないのですけれど」
アタナシオスは恭親王から少しだけ離れると、さきほど脱ぎ捨てたローブの隠しから、玻璃の小瓶を取り出した。
その小瓶を見た瞬間、恭親王の首筋に、一際強い警告が走る。
「それは……」
アタナシオスは小瓶を手に、にっこりと微笑む。
「媚薬ですよ。極上の快感を与えてくれ、相手のことを番だと思い込む、愛の薬。イフリート家が女王と婚姻するときに必ず使うのですよ。女王がイフリート家の男を拒まぬようにね」
「……やめろと言っている。また吐くぞ」
「残念。あなたは好みのタイプなのに……少しは付き合ってくれてもいいじゃありませんか」
「兄上たちがいるだろう。私は無理だ」
「彼らは用途が違います。――彼らは精だけがあればいいのでね」
「精?……そんなものをどうするんだ?」
アタナシオスから逃れようと身を捩りながら、恭親王が尋ねる。
「皇太子――いえ、もう新帝ですが、彼は息子の精と私の術のおかげで、辛うじて〈王気〉を保っている。息子たちの精はあまり強くないので、そろそろ効果が消えかけている。息子の代わりに異母弟から精を巻き上げようという魂胆ですよ」
恭親王は黒い瞳を瞠る。
「……つまり、〈王気〉を奪う、ということか」
「あなたにも同じことを命じられているのですが、私はあなたに対しては別の目的があるので」
「目的? 何を、するつもりだ?」
「……番の――女王家の神器はどうしたのです? 見当たらないようですが」
「お前らの手の届くところになど、置いておくわけがなかろう。あれは、女王の番以外を弾く。探しても無駄だ」
衣服を脱がせながら言うアタナシオスに、やはりそれが目的だったのかと、恭親王が睨みつける。
「あれは要するにただの目印でしてね。あの指輪自体にはたいした力はない。あの指輪には用はないのです」
「だったら私の身体をまさぐるのはやめろ。……ここにはない」
心底嫌そうにアタナシオスの睨みつける恭親王の、黒い瞳をアタナシオスがじっと見つめる。
「私が指令を受けているのは、女王の番の魔法陣を破壊すること。番の存在がなければ、女王――アデライードは真の力を発揮することができない」
「つまり、私を殺すということか。それにしてはまどろっこしいぞ?」
「それは最後の手段でしてね……というか、それでは女王の魔法陣は破壊されない可能性がある。相手の男を殺さなくとも、決定的に壊す手段があるのです」
アタナシオスの手が恭親王の脚衣に及び、それを寛げ、彼の萎えた男性器を露わにする。
「こんなに縮こまってしまって……怖いのですか?」
「怖いし、気持ち悪い。さっきから触るなと言っている」
くくくくく……とアタナシオスが大きな肩を震わせて笑う。
「女王の魔法陣は、番の男の心と結びついている。番の男が女王に心を遺して死ねば、魔法陣は永久に残る。――ユウラ女王の魔法陣のように。では破壊するには?」
そう言って、アタナシオスは恭親王の男性器を手に取り、軽く扱きながら、下から見上げるように恭親王の顔を見た。
「簡単なことです。――番の男が女王を裏切り、心が離れればいい。今は、あなたはアデライードに夢中のようですが、いつまで心を留めることができるか――どうです? 賭けませんか?」
アタナシオスの大きな手が恭親王の男根の握り込んで動く。だが、彼のそれはいっこうに反応しなかった。
「私が彼女を裏切ることなど、あり得ない」
恭親王がじっと、黒い静かな瞳でアタナシオスを見据える。その真剣な表情に、アタナシオスはふっと頬を緩め、諦めたように手を離した。
「なるほど、龍種同士が結びつくと、本能の部分が支配されてしまうというのは、本当なのですね」
「だから無駄だ。――殺すなら、殺せ。それ以外に、私たちの繋がりを絶つ方法などない」
「それが、まんざらないわけでもないのですよ。――ただ、あなたが頑固な性質の場合、ちょっと辛い目に遭わせることになるので、気が進まないのですけれど」
アタナシオスは恭親王から少しだけ離れると、さきほど脱ぎ捨てたローブの隠しから、玻璃の小瓶を取り出した。
その小瓶を見た瞬間、恭親王の首筋に、一際強い警告が走る。
「それは……」
アタナシオスは小瓶を手に、にっこりと微笑む。
「媚薬ですよ。極上の快感を与えてくれ、相手のことを番だと思い込む、愛の薬。イフリート家が女王と婚姻するときに必ず使うのですよ。女王がイフリート家の男を拒まぬようにね」
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