【R18】陰陽の聖婚 Ⅲ：崩壊と再生

8、不完全なるもの

快楽と苦痛＊

「まだ、粘るのですか。いい加減、往生際が悪いですよ？……ほら、そろそろあなたも限界でしょう？」

　アタナシオスの低く艶のある声が、彼の耳元に響く。無理矢理飲まされた媚薬の効果で、身体は内側から溶けるように熱い。耳にかかるアタナシオスの熱い息が、耐え難い刺激となって、脳を焼く。全ての感覚が鋭敏になって、彼を責め苛む。
　
　アタナシオスの大きな手が、彼の陽根を扱き、吐精を促すように艶めかしく動く。敏感な裏筋と鈴口を責められ、滲み出る先走りを塗りこめられて、巧みに追い上げられる。

「くっ……はあっ……いや、だ……」

　彼は首を振って絶頂に堪える。すでに三度ほど吐精させられ、その度に絶頂と同時に凄まじい苦痛に襲われていた。――あの苦痛を味わう恐怖に心は慄いているのに、アタナシオスの巧みな手技は、彼の肉体を確実に追い詰めていく。

「あなたの奥底にある、番つがいの場所を空け渡せばいいのです。そうすれば、あなたは自由になる。あなたを縛りつける、銀龍の番の束縛を離れ、私の支配下に入る。――それとも、そろそろ私の中で果てますか？」
「誰が……お前となんか……無理矢理したら、舌を噛み切って死んでやるっ…」
「仕方がありませんね。もう一度、手だけでイかせてあげますよ。快楽が深ければ深いほど、苦痛も激しいのです。もし中で感じてしまったら、あまりの苦痛に耐えられないかもしれませんからね」

　アタナシオスはそう言うと、いっそう素早く手を動かし、強い刺激を与え続ける。

「ほら、イきなさい。――私の手で。快楽と、苦痛の極みを味わえばいい」
「はっ……くっ……あああっ！」

　喉ほとけの浮いた首筋を大きく逸らし、恭親王が端麗な美貌を歪め、ついに精を吐く。その瞬間、快楽の頂点とともに凄まじい毒が彼の脳髄と背筋に走った。

「ぐ……あああああ！」

　冷や汗が全身に噴き出し、身体が硬直して痙攣する。頭の中じゅうに針を刺され、骨が軋むような激痛。しばらくそれに恭親王をのたうつさまを見下ろしながら、アタナシオスが痛まし気に眉を顰める。

「だから言ったでしょう。――早く捨てておしまいなさいと。以前の番への執着が強ければ強いほど、あなたを苦しめる。受け入れなさい。私を――私こそが番だと受け入れれば、その毒は甘美な蜜に変わる」
「はっ……誰、が……お前なんか……」

　目の奥にチカチカと光が瞬くほどの苦痛に、恭親王が顔を歪めて耐える。

「本当に頑固な人だ。……私としても、無理矢理するのは主義ではないのですよ。できれば、合意の上で、二人で甘美な天上の橋を渡りたい。だから、いい加減に意地を張らず、私を受け入れてくれませんかね？」
　
　アタナシオスの甘い言葉を、だが恭親王は首を振って拒む。

「嫌だ……私の番つがいは彼女だけだ。……お前じゃ、ない……触れるな……いっそ、殺せ……」
「強情ですねぇ……。そんなに両性具有が嫌いですか？」
　
　アタナシオスが困ったように眉尻を下げるのに、通り過ぎた苦痛の余韻に息を荒げながら、恭親王が言う。
　
「それも嫌だが……彼女を、裏切ることはしない」

　きっぱりとしたその言葉に、アタナシオスが首を振る。

「頑固ですね。あなたが苦痛に屈服するまで、付き合って差し上げますよ。でもね、あなたが我慢し続ければ、魔法陣が割れないと思っているのなら、間違いですよ？」

　全身の汗を光らせながら、恭親王がぎろりとした瞳でアタナシオスを睨みつける。

「どういう、ことだ？」
「番つがいの場所を空け渡すことを拒み続けた者は、例外なく心を壊します。あなたの心が壊れれば、やはり、彼女の中の番の魔法陣は砕けます。――彼女は、どう思うでしょうね？　心が砕ける程に彼女に執着したのに、事情を知らない彼女は、あなたが裏切ったと思うかもしれませんね？　彼女は、あなたの多情な過去を知っているのでしょう？」

　にやにやと笑いながら、アタナシオスが言う。

「同じことなのですよ、結局は。私はあなたが好みのタイプだから、できればあなたに壊れて欲しくないのです。たとえ仮初かりそめの番でも、愛し合って身体を繋ぎたい。だから、もう諦めたらどうです――？」

　アタナシオスの艶めいた唇が弧を描く。その唇が下りてきて彼の雄茎に口づけるのを目にして、恭親王は絶望に目を閉じた。