【R18】陰陽の聖婚Ⅱ:銀龍のめざめ

無憂

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6、新年の宴

流血の後始末

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「騒ぐなっ!」

 ただその一言で、恭親王は広間の混乱を鎮めた。
 御座の前で血に塗れた聖剣を提げて立つ恭親王の肩に、空中へ退避していた黒い鷹が舞い降りてきて、止まった。

「慮外者は成敗した。大事はない。……ゾラ、騎士たちを指揮して、他に襲撃者がいないか調べろ。ゾーイはこの場に残り、アデライードや賓客の安全を確保せよ。……ユーエル!」

 恭親王が御坐近くまで走り寄ってきていた騎士に呼びかける。

「は!」
 
 会場の警備を担当していたユーエルが御前に進み出て跪くと、恭親王は命じた。

「死体を片づけ、検分の上で後程報告しろ。……それから巻き添えを食った侯爵と妹御を奥に。後程十分なお詫びをするが、今はゆっくり休養していただけ。エンロン!」

 会場の方から副総督が進み出る。すでに彼は会場の汚れを片づける要員を呼び寄せるべく、指示を済ませていた。

「一旦、休会にし、この場を清掃させよ」
「仰せのとおりに」
 
 その間にも、ユーエルらの騎士たちは布で死体をくるんで担架に乗せ、切り落とされた手首も拾って運び出し、清掃人が素早く床に水を撒いて汚れを拭う。別の騎士二人が倒れた令嬢と侯爵を助け起こし、奥の賓客用の控室へと誘導する。見苦しいものがなくなって初めて、恭親王はアデライードに向き合う。ずっとアリナの背後に庇われていたアデライードだが、死体などの見苦しいものが片づけられると、アリナはその前を避けて、御座の背後で片膝をついて控える。

「大丈夫だったか、アデライード」
「……は、はい。わたしは、大丈夫です……その、他の方々に、お怪我は?」
「あなたのイトコたちが返り血を浴びてしまった。気の毒なことをしたな」

 心にもない同情の言葉を口にする恭親王は、マントで防いで返り血は浴びていない。恭親王はアデライードを上から下まで検分するように見て、汚れていないことを確認して頷いた。シャオトーズが差し出した布で聖剣の血のりを拭き取り、左手に納める。血で汚れたマントも新しいものと交換した。

「イフリートの〈黒影〉でしょうか?」
「……一瞬だが、入れ墨を確認した。ユーエルの検分を待つまでもないだろうな」

 ゾーイの質問に、恭親王が頷く。

「清掃が済み次第、宴会を再開させろ。ただし、警備は厳重に」
「承知いたしました」

 トルフィンやゲルの指示で、何事もなかったかのように、宴は再開される。不測の事態にも表情一つ変えなかった恭親王に、エイロニア侯爵も見かけ通りの優男ではないと、認識を改める。
 遠目に見ていたユリウスも、近づいた男が盆を投げ捨てた時はさすがに慌てて中腰になったが、恭親王が立ち上がってアデライードの前に動いたのを見て、すぐに腰を下ろした。とんでもないスピードで走り込んできた、あの言葉遣いの悪い騎士も、さすがの判断だと言わざるを得ない。東と西では騎士の練度に大いに差があるのは認めなければならないだろう。

 「それにしても……イフリート公は本当に、アデライードを殺すことに拘っていますね。……ただ、アルベラを女王にするためだけとは思えない」

 ユリウスの言葉に、エイロニア侯爵も眉を顰める。
 この世界において龍種とは天の意を受けてこの世に下り、世界の陰陽を分かった天の御使いであり、天からこの世界の支配を委任された存在である。龍種の血は希少で、よほどの重罪であっても命を奪われることはなく、生涯幽閉されるだけである。〈王気〉のないアルベラが龍種とは認められない以上、アデライードは現在の残る、唯一の西の龍種なのである。その命を奪おうというのは、まさしく天と陰陽への反逆に他ならなかった。
 
 月蝕祭での暗殺未遂により、〈禁苑〉はイフリート家に破門を突き付けたが、公爵は全ての罪を嫡子ギュスターブに押し付け、ギュスターブを廃嫡にすることでイフリート家全体が破門されることは切り抜けた。太陰宮にはイフリート公爵の主張に迎合する者も多く、またナキア周辺への影響を考えて、〈禁苑〉も今回限りとして破門を見送ったのだ。

 あの後、恭親王の話に拠れば聖地の〈港〉を散策中に襲撃され、またソリスティアに到着した時に運河上で狙われたというが、だがその刺客がイフリート家の者だという確証は得られなかった。また恭親王曰く、イフリート家を完全に破門にしてしまえば、かえって彼らが〈禁苑〉に敵対する名目を与えてしまうことになるため、恭親王としてはアデライード襲撃の証拠を〈禁苑〉に訴えることはしない、という。

『破門されてしまえば、彼らは〈禁苑〉の掣肘せいちゅうを受けなくなってしまう。今はまだ、イフリート公も〈禁苑〉の徒だからな。彼らが名目的にも〈禁苑〉の教えを戴いている状況の方が都合がいいのだ』

 以前、二人で〈陰陽〉の盤を囲みながら恭親王は不敵に笑ったが、イフリート公が〈禁苑〉の教えからの離脱を目論んでいるのはほぼ、間違いない。

「イフリート家は泉神殿と関わる家だ。本来、〈禁苑〉とは少しく系統の異なる信仰を持っていたとは言われるが、だが陰陽の教えは奉じているはずだ。破門も辞さないという公爵の行動は、理解しがたいな」

 エイロニア侯爵も不審げに首を傾げる。イフリート公の生育歴も含めて、恭親王は徹底的に洗っているらしいが、そこから公爵の考え方が浮かび上がるのか。ユリウスが秀麗な眉を顰めていると、エイロニア侯爵がユリウスに耳打ちした。

「ヴェスタ侯爵兄妹が、返り血を浴びたことで後ろに下がっただろう。……あのご令嬢がこの機会を利用しないはずがない。以前、総督は据え膳は食う男だと言っていたが、この据え膳は食わない方がいい。西の貴族令嬢の純潔を奪うと、理由はともあれ結婚させられるが、東の男はそのあたりの考えが甘そうだ。婿殿から、総督に釘を刺しておいた方がいいぞ」

 エイロニア侯爵の言葉になるほどと頷くところがあったユリウスは、宴がはけたら早々に、義弟に面会を申し出ようと心に決めた。
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