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12、銀龍のつがい
小箱
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自分の引き起こした惨状にアデライードは茫然自失して、ソファにペッタリと座り込み、ただ翡翠色の瞳を見開いて、マニ僧都が恭親王の胸を拳で叩くのを見ていた。さっきまでは眩ゆいほど輝き、溢れる生命力そのもののように躍動していた彼の〈王気〉が、沈む直前の太陽の光のように弱く、薄っすらと頼りなく漂うだけ。
マニ僧都に叱責されて、はじめてアデライードは我に返る。
「アデライード、〈気〉だ!〈気〉を注入するんだ。〈王気〉がこれ以上薄くなったら危ないんだ! 早く!」
マニ僧都の言葉に弾かれるように、アデライードが恭親王の顔に覆い被さって唇を合わせる。こんな人の目のある場所で、普段のアデライードなら羞恥に駆られて絶対にできないことだろうが、もはやそんなことを気にする余裕もなかった。
その横で、マニ僧都も結跏趺坐の姿勢を取り、記憶している〈蘇生〉の魔法陣を呼び出し、恭親王の焼け焦げた上衣の上から左胸に手を当て、真言を唱える。メイローズも蒼白な顔で、主の傍らに膝をつく。
騒ぎを聞いて室外にいた騎士や官人たちもサロンにやってきて、惨状に絶句する。エンロンが彼らに怪我人の確認を命じ、サウラと刺客の身柄を確保させる。エンロンはほとんど魔力を持たないが、持ち前の要領の良さで咄嗟に卓の下に潜り、擦り傷一つ負っていない。エンロンがゾーイに言った。
「ここは、私とゾラ卿で指揮しますから、殿下をまず寝室に」
ゾーイが周囲を見回せば、ゾラはガラスの破片で切ったのか、額から血を流していたが、リリアを扶け起して異常がないか尋ねているところだった。アンジェリカはアリナに庇われて無事で、シャオトーズもソファの陰に身を隠し、ガラスの破片から自らを守った。しかし、横にいたはずのサウラは爆風で吹っ飛ばされて、シャオトーズは一瞬、逃げられたのかと肝を冷やす。慌てて周囲を目で探せば、サウラはかなり離れた場所で気を失って横たわっていた。急いで走り寄って、シャオトーズは息を呑んだ。
「サウラ様?!」
滅多にない慌てた様子のシャオトーズを見て、ゾラも駆け寄り、サウラの姿を見て泡を食って叫ぶ。
「やべぇ! 爆風でサウラ様のお腹がぺったんこに! 御子が! 医者! 医者呼んで来い!」
「違います、衝撃で、中の詰め物が横にズレてしまったんです! 妊娠、してなかったんだ……」
「えええええ?! 何ソレ、そんなの、アリ?」
「とにかく一旦、別室に移して医師の診察を受けさせ、その上で指示を待ちましょう」
こうして、サウラはシャオトーズとゾラの二人によって、別室へと運び出された。
恭親王も動かしてもいいとマニ僧都が判断したため、ゾーイとメイローズで抱え上げ、サロンから寝室に移す。
その様子を立ち尽くして見送っているだけのアデライードを見て、マニ僧都がその腕を掴んで揺すぶった。
「しっかりしろ、アデライード! 君は彼の妻、なんだろう?」
アデライードは涙をいっぱいに溜めた翡翠色の瞳を見開き、喘ぐように言った。
「わたしが……わたしが、殿下を……」
「アデライード、落ち着け。そんな風に心を乱しては、どれほどの魔力があっても人を癒すことはできない。とにかく、急いで彼の寝室に行き、できることをするんだ。ここでは治癒魔法は、私と、君しか使えない。君の治癒術はまったく制御が効いてなくて、はっきり言えば全然使い物になるレベルじゃないが、この際、そんなことは言っていられない。空気中に魔力を垂れ流してもいいから、とにかく〈気〉を注ぎまくれ!」
マニ僧都に喝を入れられて、アデライードははっとして頷くと、急いでメイローズたちを追いかける。
結婚後、ほとんどの夜をアデライードの寝台で過ごしている恭親王は、寝室は着替えと身支度のために入るだけだ。それでも、シャオトーズは寝台を常に整えていた。いつの間にか着いてきたシャオトーズが手早く天蓋布を開いて羽毛の上掛けを足元に畳み、メイローズとゾーイが恭親王を豪華な四本柱の寝台に横たえる。アデライードは自分もサンダルを脱いで寝台に上り、恭親王の頭を膝に載せ、抱きかかえるようにして、その額に唇を寄せた。
マニ僧都が胸に触れて、ひとまず心臓が動いていることを確認してから、メイローズとシャオトーズで恭親王の焼け焦げた上衣とシャツを取り去り、肌を改める。〈エイダ〉を直撃したアデライードの攻撃魔法の影響は、至近にいた彼にも及んで、心臓の周辺を中心に火傷していた。シャツを剥ぎ取ると、ちょうど左胸のあたりから、焼け焦げた小さな箱が転がり出て、寝台から落ちた。
「これは――!」
ゾーイはそれが、主が常に肌身離さず持っていた例の小箱だと気づく。箱は黒焦げになっていた。ゾーイが触れると、箱は完全に崩れて、中から大ぶりの指輪が転がり落ちる。翡翠に金の象嵌の、古い、指輪――。
主が儀式のときに嵌めている指輪だ。なんでも、西の女王国の神器だとか。
(なぜ、これが、この箱の中に――?)
ゾーイが咄嗟に拾おうとするが、手に触れてバチ―ンと凄まじい火花で弾き飛ばされる。
「ツ……っ」
右手を押えているゾーイに、メイローズが言った。
「それは、女王が選んだ夫以外は、男は触れることができないのですよ」
メイローズが注意深く指輪を拾い、確かめる。外側の箱が黒焦げだったのに、指輪には傷一つなかった。
「これが左胸に入っていたおかげで、間一髪で命が助かったのかもしれません」
メイローズは指輪を額の前で押し頂くようにすると、寝台脇の卓の小さな引き出しに入れる。一連の動作を見守りながら、ゾーイは混乱していた。
(なぜ、あの箱に女王家の神器が……?)
マニ僧都に叱責されて、はじめてアデライードは我に返る。
「アデライード、〈気〉だ!〈気〉を注入するんだ。〈王気〉がこれ以上薄くなったら危ないんだ! 早く!」
マニ僧都の言葉に弾かれるように、アデライードが恭親王の顔に覆い被さって唇を合わせる。こんな人の目のある場所で、普段のアデライードなら羞恥に駆られて絶対にできないことだろうが、もはやそんなことを気にする余裕もなかった。
その横で、マニ僧都も結跏趺坐の姿勢を取り、記憶している〈蘇生〉の魔法陣を呼び出し、恭親王の焼け焦げた上衣の上から左胸に手を当て、真言を唱える。メイローズも蒼白な顔で、主の傍らに膝をつく。
騒ぎを聞いて室外にいた騎士や官人たちもサロンにやってきて、惨状に絶句する。エンロンが彼らに怪我人の確認を命じ、サウラと刺客の身柄を確保させる。エンロンはほとんど魔力を持たないが、持ち前の要領の良さで咄嗟に卓の下に潜り、擦り傷一つ負っていない。エンロンがゾーイに言った。
「ここは、私とゾラ卿で指揮しますから、殿下をまず寝室に」
ゾーイが周囲を見回せば、ゾラはガラスの破片で切ったのか、額から血を流していたが、リリアを扶け起して異常がないか尋ねているところだった。アンジェリカはアリナに庇われて無事で、シャオトーズもソファの陰に身を隠し、ガラスの破片から自らを守った。しかし、横にいたはずのサウラは爆風で吹っ飛ばされて、シャオトーズは一瞬、逃げられたのかと肝を冷やす。慌てて周囲を目で探せば、サウラはかなり離れた場所で気を失って横たわっていた。急いで走り寄って、シャオトーズは息を呑んだ。
「サウラ様?!」
滅多にない慌てた様子のシャオトーズを見て、ゾラも駆け寄り、サウラの姿を見て泡を食って叫ぶ。
「やべぇ! 爆風でサウラ様のお腹がぺったんこに! 御子が! 医者! 医者呼んで来い!」
「違います、衝撃で、中の詰め物が横にズレてしまったんです! 妊娠、してなかったんだ……」
「えええええ?! 何ソレ、そんなの、アリ?」
「とにかく一旦、別室に移して医師の診察を受けさせ、その上で指示を待ちましょう」
こうして、サウラはシャオトーズとゾラの二人によって、別室へと運び出された。
恭親王も動かしてもいいとマニ僧都が判断したため、ゾーイとメイローズで抱え上げ、サロンから寝室に移す。
その様子を立ち尽くして見送っているだけのアデライードを見て、マニ僧都がその腕を掴んで揺すぶった。
「しっかりしろ、アデライード! 君は彼の妻、なんだろう?」
アデライードは涙をいっぱいに溜めた翡翠色の瞳を見開き、喘ぐように言った。
「わたしが……わたしが、殿下を……」
「アデライード、落ち着け。そんな風に心を乱しては、どれほどの魔力があっても人を癒すことはできない。とにかく、急いで彼の寝室に行き、できることをするんだ。ここでは治癒魔法は、私と、君しか使えない。君の治癒術はまったく制御が効いてなくて、はっきり言えば全然使い物になるレベルじゃないが、この際、そんなことは言っていられない。空気中に魔力を垂れ流してもいいから、とにかく〈気〉を注ぎまくれ!」
マニ僧都に喝を入れられて、アデライードははっとして頷くと、急いでメイローズたちを追いかける。
結婚後、ほとんどの夜をアデライードの寝台で過ごしている恭親王は、寝室は着替えと身支度のために入るだけだ。それでも、シャオトーズは寝台を常に整えていた。いつの間にか着いてきたシャオトーズが手早く天蓋布を開いて羽毛の上掛けを足元に畳み、メイローズとゾーイが恭親王を豪華な四本柱の寝台に横たえる。アデライードは自分もサンダルを脱いで寝台に上り、恭親王の頭を膝に載せ、抱きかかえるようにして、その額に唇を寄せた。
マニ僧都が胸に触れて、ひとまず心臓が動いていることを確認してから、メイローズとシャオトーズで恭親王の焼け焦げた上衣とシャツを取り去り、肌を改める。〈エイダ〉を直撃したアデライードの攻撃魔法の影響は、至近にいた彼にも及んで、心臓の周辺を中心に火傷していた。シャツを剥ぎ取ると、ちょうど左胸のあたりから、焼け焦げた小さな箱が転がり出て、寝台から落ちた。
「これは――!」
ゾーイはそれが、主が常に肌身離さず持っていた例の小箱だと気づく。箱は黒焦げになっていた。ゾーイが触れると、箱は完全に崩れて、中から大ぶりの指輪が転がり落ちる。翡翠に金の象嵌の、古い、指輪――。
主が儀式のときに嵌めている指輪だ。なんでも、西の女王国の神器だとか。
(なぜ、これが、この箱の中に――?)
ゾーイが咄嗟に拾おうとするが、手に触れてバチ―ンと凄まじい火花で弾き飛ばされる。
「ツ……っ」
右手を押えているゾーイに、メイローズが言った。
「それは、女王が選んだ夫以外は、男は触れることができないのですよ」
メイローズが注意深く指輪を拾い、確かめる。外側の箱が黒焦げだったのに、指輪には傷一つなかった。
「これが左胸に入っていたおかげで、間一髪で命が助かったのかもしれません」
メイローズは指輪を額の前で押し頂くようにすると、寝台脇の卓の小さな引き出しに入れる。一連の動作を見守りながら、ゾーイは混乱していた。
(なぜ、あの箱に女王家の神器が……?)
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