冷血青年

海月大和

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旅に苦難あり

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 よく晴れた昼下がり、馬車道の轍のすぐ横を一人の青年が歩いていた。紺のスラックスに白いシャツ、スラックスと同色のベストを身に付け、その上からフード付きの茶色いマントを羽織っている。

 肌は白く、陽光に照らされる頭髪は白に近い金色で、耳を半分ほど覆う程度の長さだ。やや垂れ目気味の瞳は薄い碧色をしていた。年齢は20の半ばあたりといったところか。

 青年は左右に広がる背の低い草原から風を受けながら黙々と歩を進めていたが、何かに気付いたように一度後ろを振り返り、また歩き始めた。

 しばらくすると青年の後ろの方から一台の馬車がやってきた。幌のある2頭立ての馬車で、車輪の音を大きく響かせていた。

「やあ兄ちゃん。一人旅かい?」

 幌馬車を青年の歩く速度に合わせ、御者の男が声を掛けてくる。

「やあどうも。そんなところです」

 人好きのする笑みで青年は応えた。

「どこまで行くんだ? 良かったら乗ってくかい?」
「いいんですか? 助かりますが…」

 御者の男は気さくに笑う。青年はちょっと驚いたふうに目を大きくさせた。

「なに、もう2・3人乗せてるんだ。1人増えたって変わらんよ」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」

 馬車が完全に足を止める。後ろにある荷台の入り口に向かう青年に向けて、御者の男が問いかけた。

「兄ちゃん、名前はなんてんだい?」

 青年はわずかに微笑んで答える。

「リチャードといいます。どうぞよろしく」




 リチャードを乗せた馬車には籠や木箱に入った荷物の他に、3人の人間がいた。夫婦らしき男女と年若い少女だ。
 荷台の前の方は荷物が積まれ、人が座れるスペースは後方の限られた部分だけであり、片側は夫婦が二人で仲良く座っている。なので、リチャードは少女の隣に腰を下ろすしかなかった。

 赤茶の癖のない髪を肩の長さで切りそろえた少女は、隣に座ったリチャードににこりと笑いかける。

「こんにちは。私はエルシー。あなたは?」

 そう言って握手を持ちかけてくる。

「リチャードです。よろしく、エルシー」

 握手を返すとエルシーは薄茶の瞳を嬉しそうに細めた。

 くすんだワイシャツとスカート、洒落っ気のないその格好からするとどこか近くの村の娘だろう、とリチャードは考えた。農作業で荒れた手は少し土の匂いがする。

 リチャードはふとエルシーの顔をじっと見つめ、顎に手を添えて沈黙した。馬車がゆっくりと動き出す。

「どうしました? 私、なにか変ですか?」
「……いや、少しね。知り合いの女性に似ていると思ったけど、気のせいでした」

 リチャードが言うと、エルシーは気のせいですか?とやや困惑気味に首を傾げる。車体が揺れ、がらがらと車輪の音が響く。

「ええ、よく見ると全然違いますね」
「ふうん。どういう人なんです?」

 エルシーがリチャードに訪ねようとした矢先、急に馬車が速度を上げた。がたがたと揺れが大きくなり、乗っていた全員が何事かと浮足立つ。

 どうしたのかと幌が空いている後ろの出入り口を見ると、馬車の後ろに馬に乗った男が見えた。2,3メートルほど後方を追いかけてきている。動きやすそうなズボンとシャツ、帽子を身に付けた男の腰には反りの入った剣があった。

「と、盗賊だ!」

 馬車に乗っていた夫婦のうち、夫の方が緊張した声を上げる。それを聞いた盗賊の男がニヤリと笑った。

「そんな! この辺りに盗賊が出るなんて……!」

 エルシーが口を両手で覆って驚愕の声を出す。リチャードも最寄りの街で盗賊が出るなどという話は聞いたことがなかったので寝耳に水であった。

 御者席のほうで「ぎゃっ」と悲鳴が上がり、誰かが乗り移ってくる物音がした。すると馬車はみるみる速度を落とし、あっという間に止まってしまう。

 馬車の後ろを走っていた馬もそれに合わせて止まり、盗賊の男が慣れた様子で馬から降りた。腰の剣を抜き放ち、下卑た笑いを顔に浮かべながら近寄ってくる。

「ああまったく、面倒なことになったな……」

 リチャードは溜め息を一つついてゆっくりと立ち上がった。
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