冷血青年

海月大和

文字の大きさ
3 / 23

教会の狩人(ハンター)

しおりを挟む
「おら! 中のやつ! さっさと降りろ!」

 馬車の出入り口前に立った盗賊が声を荒げる。リチャードは真っ先に馬車を降りて男の前に立った。

「まあまあ落ち着いて。荒事はナシにしませんか?」

 両手を上げて敵意がないことを表しつつ、努めて和やかに話しかける。

「あ? お前自分の立場分かってんのか? ぶっ殺すぞ?」

 男は威圧するように剣の腹でリチャードの頬を軽く叩いた。それでも怯えた様子のないリチャードに苛ついたのか、彼の胸ぐらを荒々しく掴んで脅す。

「余裕ぶっこいてんじゃねえぞゴラ!」

 すると、その拍子にリチャードのシャツの一番上のボタンが弾け飛び、仕舞っていたネックレスが顔を覗かせた。十字架を模した黒いネックレスである。それを観た途端、男の顔色が変わった。

「黒十字のネックレス!? お前、教会の狩人(ハンター)か……!?」
「だとしたら、どうします? 化け物狩りの化け物と殺し合いでもしますか?」

 リチャードが穏やかに笑うと、男は目に見えて怯んだ。リチャードから手を離し、狼狽して一歩、二歩と後ずさる。男の言葉に反応して、他の盗賊たちが馬車の後方に集まり始めた。

 協会の狩人(ハンター)。この国に広く普及しているモアナ教の教会本部が組織した、怪物狩り専門の部隊のことを指す。彼らは一般市民に仇なす人外の討伐を使命とし、一人の例外なく高い戦闘能力を持っていることで有名だった。ちなみに狩人の証である黒い十字架は基本的に複製を認められていない。

 リチャードは男たちが怯んでいる隙に現状の把握に努める。見晴らしの良い草原。周囲に隠れられる場所はなし。武装した盗賊が前に一人、左右に二人ずつ。そして馬車の影に一人。計六人。主な武装は剣。左右一人ずつがクロスボウを装備している。

 このまま恐れをなして逃げ去ってくれたら楽なんだが、とリチャードが思っていると

「おい。てめぇら何ビビってやがる。そんなもんハッタリに決まってんだろうが」

 一人馬車の影にいた男が低い声とともに姿を表した。一際大きな剣を肩に担ぎ、呆れた様子で盗賊たちを睨め回す。

「でも、お頭……」
「うるせえ! いいからとっととぶっ殺せ!」
「はっ、はい!」

 頭目らしき男の一喝で恐怖を押し込んだ男たちがリチャードに殺意を向けた。左右からクロスボウを向けられたリチャードは残念そうに肩を竦めるのみ。

 目の前の男が剣を振り上げる。リチャードは刃が自身に届く前に男の鳩尾に蹴りを叩き込んだ。蹴られた男は一メートルほど吹っ飛び、馬の胸に背中をぶつける。

 吹っ飛んだ男を目で追っていたクロスボウ持ちの二人は、はっと我に返るとリチャードに向けて矢を発射した。狙い違わず胸に飛び込んでくる二本の矢をリチャードはあろうことか素手で掴み取る。そして腕を交差するように振り抜き、投げ返した。

「がっ」
「ぐゎっ」

 クロスボウを持っていた腕に矢が刺さり、男たちが悲鳴を上げて武器を取り落とす。リチャードは右手側、無傷の盗賊一人と頭目がいる方向に素早く身を寄せ、腰に挿していたナイフを右手で抜き放った。黒光りするナイフを一閃し、部下の盗賊が剣を持つ右手を深く斬りつける。

 体ごとぶつかってその男を吹き飛ばし、既に剣を振り上げる頭目に向き直った。頭目の剣を持つ手を左手で受け止め、即座にその手首を掴む。腕を捻じりあげながら背後に周り、頭目の喉にナイフを突きつけた。

「くっ、黒い十字架に黒塗りのナイフ……。てめぇ、マジで協会の……?」

 額に冷や汗を滲ませながら頭目が呻く。

「私の専門はあくまで人外です。人間は含まれていません。大人しく引き下がるなら見逃してあげますよ。それとも……死ぬまで殺し合いますか?」

 頭目の耳元で囁くリチャードの表情を見た部下の盗賊たちは、青い顔をして硬直している。

「わ、分かった! 降参する! だから命だけは!」

 剣を取り落し泡を飛ばして叫ぶ頭目に、リチャードは

「大変結構」

 と子供を褒める教師のように一言口にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...