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交流
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盗賊たちがほうほうの体で逃げ去っていったのをリチャードが確認していると、御者の男が声を掛けてきた。
「いやー、たまげたな。兄ちゃん強いねぇ」
御者の男は右の前腕から血こそ流しているがあまり辛そうにはしていない。馬車の幌から出てきたエルシーが赤く濡れた腕を見て慌てた声を出した。
「マイルズさん! 大丈夫ですか!? 血が出てますよ!?」
「おお、エルシー。無事だったか。大丈夫だ。浅く斬られただけだからな。傷は深くない。すまんが酒と包帯を持ってきてくれるか?」
「分かりました!」
マイルズの元気そうな様子を見てほっとしたエルシーが馬車の中に取って返す。それと入れ違いに夫婦二人が馬車から降りてリチャードに近づいた。
「危ないところをありがとうございました。私はブルーノ。こっちは妻のクラリスです」
自分と妻を紹介したブルーノはリチャードに握手を求めた。未だ緊張が解けていないらしく、表情がやや硬い。
「降りかかる火の粉を払っただけですよ。いつも相手にしているものと比べれば、どうということもありません」
リチャードが手を握り返すとブルーノは感嘆の声を上げ、妻と顔を見合わせた。
「さすが、教会の討滅者様ともなれば盗賊など恐れるに足らないということですな。実に頼もしい」
討滅者という呼び名は教会の狩人(ハンター)を公式の場で表す際の呼称だ。狩人自身でさえ滅多に使わない単語にリチャードは面映い気持ちになった。
エルシーが包帯と酒、そして血を拭くための布を持ってマイルズへ駆け寄る。ブルーノはそれにちらりと目をやって、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ぜひお礼をしたいのですが、あいにくと手持ちが心許なく。少ないですがお受け取りください」
妻のクラリスが小さな布袋を差し出す。金銭であろうそれを受け取り、中身を感触で確かめる。ちゃりと金属の音が鳴った。
「教会へのご寄付、感謝いたします。モアナ様も喜ばれることでしょう」
リチャードが微笑むとブルーノとクラリスも笑顔を浮かべる。金額を確かめず受け取り、寄付という名目にした謙虚な姿勢に安心したのだろう。柄の悪い用心棒にはもっと寄越せとねだる強欲な者もいる。教会の使徒とて例外ではない。
「もしカトルダンの街に寄ることがあったら、東区の私どもの家をお訪ねください。あらためてまたお礼をさせていただきます」
「それはありがたい。機会があれば寄らせていただきましょう」
ブルーノとの話が一段落したのを見計らって、応急手当を終えたマイルズがリチャードに話しかけてきた。
「あんたには借りが出来ちまったな。そういやどこへ向かっているか聞いてなかったが、目的地はあるのかい?」
「いえ、今は特にこれといって。とりあえずラムダスまで行こうかと」
ふむ、と名前が出た街のことを思い浮かべてか、マイルズはつと目を泳がせ、
「ラムダスか。なら夕方には着くな。どうだ兄ちゃん? もし今夜暇なら俺の奢りでうまい酒でも飲まねえか?」
「あ、ずるい! マイルズさんだけ! 私だってリチャードさんにお礼したい!」
話を聞いていたエルシーがマイルズとリチャードの間に割って入る。
「ねえ、リチャードさん! 時間があるなら私の村に寄っていって? 今日は無理かもしれないけど、美味しい鴨料理をご馳走するから! 絶対に損はさせないから!」
リチャードの手を握り、目を輝かせて詰め寄るエルシー。リチャードはその勢いに押されて一歩後じさった。
「わ、分かりました。そこまで言うなら……」
ふんすと音が出そうなエルシーの鼻息に、マイルズも肩を竦めて呆れ気味だ。
「残念だが俺と一杯やるのはまた今度だな。よし! そうとなりゃ馬車を出すぞ! 皆乗った乗った!」
マイルズの促しに応じてリチャードたちは再び馬車に乗り込む。彼らの間に流れる空気は初めよりずっと和やかだった。
「いやー、たまげたな。兄ちゃん強いねぇ」
御者の男は右の前腕から血こそ流しているがあまり辛そうにはしていない。馬車の幌から出てきたエルシーが赤く濡れた腕を見て慌てた声を出した。
「マイルズさん! 大丈夫ですか!? 血が出てますよ!?」
「おお、エルシー。無事だったか。大丈夫だ。浅く斬られただけだからな。傷は深くない。すまんが酒と包帯を持ってきてくれるか?」
「分かりました!」
マイルズの元気そうな様子を見てほっとしたエルシーが馬車の中に取って返す。それと入れ違いに夫婦二人が馬車から降りてリチャードに近づいた。
「危ないところをありがとうございました。私はブルーノ。こっちは妻のクラリスです」
自分と妻を紹介したブルーノはリチャードに握手を求めた。未だ緊張が解けていないらしく、表情がやや硬い。
「降りかかる火の粉を払っただけですよ。いつも相手にしているものと比べれば、どうということもありません」
リチャードが手を握り返すとブルーノは感嘆の声を上げ、妻と顔を見合わせた。
「さすが、教会の討滅者様ともなれば盗賊など恐れるに足らないということですな。実に頼もしい」
討滅者という呼び名は教会の狩人(ハンター)を公式の場で表す際の呼称だ。狩人自身でさえ滅多に使わない単語にリチャードは面映い気持ちになった。
エルシーが包帯と酒、そして血を拭くための布を持ってマイルズへ駆け寄る。ブルーノはそれにちらりと目をやって、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ぜひお礼をしたいのですが、あいにくと手持ちが心許なく。少ないですがお受け取りください」
妻のクラリスが小さな布袋を差し出す。金銭であろうそれを受け取り、中身を感触で確かめる。ちゃりと金属の音が鳴った。
「教会へのご寄付、感謝いたします。モアナ様も喜ばれることでしょう」
リチャードが微笑むとブルーノとクラリスも笑顔を浮かべる。金額を確かめず受け取り、寄付という名目にした謙虚な姿勢に安心したのだろう。柄の悪い用心棒にはもっと寄越せとねだる強欲な者もいる。教会の使徒とて例外ではない。
「もしカトルダンの街に寄ることがあったら、東区の私どもの家をお訪ねください。あらためてまたお礼をさせていただきます」
「それはありがたい。機会があれば寄らせていただきましょう」
ブルーノとの話が一段落したのを見計らって、応急手当を終えたマイルズがリチャードに話しかけてきた。
「あんたには借りが出来ちまったな。そういやどこへ向かっているか聞いてなかったが、目的地はあるのかい?」
「いえ、今は特にこれといって。とりあえずラムダスまで行こうかと」
ふむ、と名前が出た街のことを思い浮かべてか、マイルズはつと目を泳がせ、
「ラムダスか。なら夕方には着くな。どうだ兄ちゃん? もし今夜暇なら俺の奢りでうまい酒でも飲まねえか?」
「あ、ずるい! マイルズさんだけ! 私だってリチャードさんにお礼したい!」
話を聞いていたエルシーがマイルズとリチャードの間に割って入る。
「ねえ、リチャードさん! 時間があるなら私の村に寄っていって? 今日は無理かもしれないけど、美味しい鴨料理をご馳走するから! 絶対に損はさせないから!」
リチャードの手を握り、目を輝かせて詰め寄るエルシー。リチャードはその勢いに押されて一歩後じさった。
「わ、分かりました。そこまで言うなら……」
ふんすと音が出そうなエルシーの鼻息に、マイルズも肩を竦めて呆れ気味だ。
「残念だが俺と一杯やるのはまた今度だな。よし! そうとなりゃ馬車を出すぞ! 皆乗った乗った!」
マイルズの促しに応じてリチャードたちは再び馬車に乗り込む。彼らの間に流れる空気は初めよりずっと和やかだった。
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