追放された宮廷錬丹術士、山奥で仙人ライフ始めます 〜薬草を煎じてるだけなのに、王女や弟子が次々やってくる件〜

甘夏蜜柑

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猫のウーロン、ふたたび消える

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 それは、春風が心地よく吹く穏やかな午後の日だった。

「……あれ? ウーロンがいません」

 霧雲堂の厨房で、茶器を拭いていたシャオケイが顔を上げると、いつも窓際の籠で眠っているはずの猫のウーロンの姿が見当たらなかった。

「さっきまで、あそこにいたのに……」

「朝の餌の時間にはいましたね。どこかへ散歩にでも行ったのでしょうか?」

 シュウが庭を見ながら応える。だが、シャオケイは浮かない顔だ。

「昨日から、ちょっと様子が変だったんです。動きがゆっくりで、鳴き声も控えめで……」

「具合が悪いってこと?たしかに、以前よりお腹が張っていたし、腹痛かしら?」

 カリンが茶葉の袋を抱えたまま、眉をひそめる。

「まさか……まさか……!?」

 シャオケイがぱっと顔を上げた。

「産気づいたんだと思います!」

「え、えっ!? ウーロンって、メスだったの!?というか、妊娠してたの!?」

「たぶん……!」

 こうして、村中を巻き込んだ“大捜索”が始まった。

 霧雲堂の常連客である村の子どもたちやトウファも加わり、「ウーロンさーん!」と叫びながら山道や川沿いを探し回る。

「ウーロンは、どこか静かで、安全で、温かい場所を探してるはずです!」

 シャオケイは真剣な顔で言い切った。
 その姿を見て、カリンが思わず吹き出す。

「なんだか、お母さんみたいね」

「ちが……ちがいますけど、でも、家族みたいなもので……!」

 頬を赤らめて言い返すシャオケイの声に、周囲も和やかな笑いに包まれる。

 午後も日が傾き始めたころ、一人の少年が駆け込んできた。

「いたぞ! ウーロン、昔の炭焼き小屋にいた!」

 一同が駆けつけると、朽ちかけた小屋の隅に、丸くなって震えるウーロンの姿があった。
 その前足のあたりには、まだ濡れたままの小さな毛玉――産まれたばかりの子猫だ。

「三匹……いえ、四匹……!」

 シャオケイがそっと息をのむ。
 カリンが懐から取り出した布を広げ、そっとウーロンと子猫たちをくるんだ。

「大丈夫よ、もうすぐお家。ちゃんとあったかい寝床、あるからね」

 その声に、ウーロンが弱々しくも喉を鳴らす。

 夜。霧雲堂の奥の間に、柔らかい布と薬草で整えられた猫用の産床がつくられた。

 そこに、ウーロンと子猫たちは静かに寄り添っている。

「この薬草、産後の体力回復にいいのよ」

 カリンが調合した薬草を焚いていると、シュウが頷いた。

「猫にも効くとはね。少なくとも、気持ちよく眠れる香りだと思いますよ」

 シャオケイは、湯を沸かしてミルク草から抽出した液を冷まし、慎重にスポイトで与えている。

「ちょっと苦そうだけど……飲んでくれるといいな……」

 子猫のひとりが、ちろりと舌を出してミルク草液をなめた。シャオケイがぱっと顔を明るくする。

「飲んだ……! 飲んでくれました!」

 その夜、霧雲堂にはお客も招かず、静かな灯りがともっていた。

「大騒ぎだったけど、良かったわね。ウーロン、よくがんばったわ」

 カリンがそう言ってウーロンの頭をそっと撫でる。
 子猫たちは、彼女の指先にじゃれつきながら、小さく鳴いた。

「……命が生まれるって、こんなにも神聖なんですね」

 シャオケイの声は、どこか震えていた。
 シュウは黙って、それを見守っていた。

「さて、“霧雲堂保育部門”の開設ですか?」

「冗談じゃありませんよ!」

 そんなふうに笑い合いながらも、三人の目はどこか潤んでいた。

 静かな夜に、小さな命の誕生を祝う、温かい茶の香りが静かに漂っていた。
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