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妖怪神社の氏神様
闇は光に憧れる
しおりを挟む「どちらさまですか?」
彼女にそう聞かれるまで、僕はうっかり自分のことを忘れてしまっていた。自分が何者だったのか、頭の引き出しから僕という情報がすっかり抜き取られてしまったみたいだ。
「えーと……」
「もしかして、お参りの方ですかっ? それともご祈祷っ?」
最初からキラキラしていた瞳が、一層輝きを増した。彼女は僕に近づいて、笑顔で「どうぞどうぞ!」と手を引っ張った。
「うわ、待って」
僕は一応鳥居の前で一礼した。気のせいだろうか、木漏れ日が優しく揺れて、本殿の屋根がキラキラと光った。
せっかくだから、お参りするか。
財布から五円を取り出して、古びた賽銭箱に投げ入れようとしたときだった。
「五円……」
と、巫女さんがジトっとした目で呟いた。
五円じゃ少なすぎる?
なんかプレッシャーを感じたので、十円をプラスした。
「もう一声っ」
「えっ……じゃあ」
思い切って、五十円プラス。
「あともうちょい!」
「……分かりましたよ」
僕は五百円玉を出した。これで合計565円だ。
片道の電車代より高いんだけど。
「ありがとうございまーす! 神のご加護を~!」
巫女さんは白い袖を振り回して僕の英断を称えた。
可愛いんだけど、許していいのかこれ?
「あの……」
「何か?」
罪の意識のなさそうなキラキラした瞳に何も言えなくなり、言葉を引っ込める。
可愛いって、凶器なんだな。初めて知った。
まさかこの人、参拝客が来るたびにこうして賽銭を稼ぐようなことをしているんじゃないだろうな?
巫女がそんなことをしていいのか? 倫理的にどうなんだろう。
雑念がうじゃうじゃ湧いてくるのを、鈴の音で無理やりかき消した。
さて、仕切り直しだ。
いざ目を瞑り、両手を合わせてみる。けれども特に願いらしいものはない。強いて言うなら、
「うちにやってきた変な銀髪の人がもう二度と来ませんように」
これだな。
565円も払ったのだから、なんとかして叶えてほしい。
「あのう」
「はい?」
参拝を終えた途端に、巫女さんが話しかけてきた。
「神社でお願い事を言ってはならないという決め事はないんですが、まずは神様に日頃の感謝を伝えるといいですよ。あと、当然のことですが、目標の達成や成功には自分の努力が必須です! まったく努力をしないで神様にお願いしても叶うはずありません。ですので、あなたも頑張ってくださいね!」
「はあ……」
おっとりした見た目の割には意外とはっきりとものを言う人だ。あんまり他人に干渉しないしされないタイプの僕とは真逆で、そこにもキラキラとした光を感じる。
光属性って、いうのかな。
ということは、僕は闇属性なのか。
闇は光に憧れる。ちょっと好印象を持ってしまう。
すると彼女はみるみる顔を赤くして慌てた。
「な、何ですかっ? そんなにジロジロと私の顔を見て……! もしかして、私に惚れてしまいましたかっ?」
「は? いえ、そこまでは思ってない、と言ったら失礼ですが。眩しくて羨ましいなあと思っただけです」
「ええっ? 羨ましい? 私のどこが⁉︎ もしかしてあなた……女性になりたい系の人……?」
「いえ、そうではなく」
勘違いが多い人だ。そういえば、僕はまだ自己紹介もしていない。
「僕は社尚之介と言います。ここの神主さん……という呼び方でいいのかな? に会いたくて来たんですが」
「社……尚之介さん? えっ⁉︎ まさか、正右衛門さんのお孫さんですか⁉︎」
巫女さんはあたふたとして、持っていた竹箒を落としそうになった。
「はい。戸籍上では、そうなります。あんまり記憶がないんですけど」
「とんだ失礼をいたしました! 私は氏家美彌子と申します。この夜神神社で巫女のアルバイトをさせていただいております!」
美彌子さんは黒髪をふわりとさせてお辞儀をした。
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