社くん家は居心地がいい

ゆづ

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黒羽、襲来

幻の気持ち

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 その後、美彌子さんはコンとポンによって無事にパジャマを着せられ、寝室の煎餅布団に寝かせられた。それとほぼ同じタイミングで鬼龍院さんが家にやってきた。

「ふー。いい風呂だった」

 彼は自分の家に戻ってきたように自然な感じで僕の家の冷蔵庫を開けた。

「牛乳、牛乳っと……あった」
「あーっ! パックの牛乳、口つけないでください!」

 未開封1リットルの牛乳パックを開けてそのままがぶ飲みしかけた鬼龍院さんを慌てて制止しようとしたが、彼の勢いは止められず、パックの中身は一気に彼の胃袋に流し込まれてしまった。

「あああ……」
「どうした? 尚之介」
「聞くな、鬼龍院。実は、尚之介は美彌子にな……ゴニョゴニョ」
「何⁉︎ 両思いだと勘違いして告白したが好かれていたのは惚れ薬のせいだったと分かって意気消沈しているだと……⁉︎ 可哀想に……」
「違います!!」

 ぬらりひょんの秘密になってないコソコソ話を聞いて、鬼龍院さんは僕を憐れみの目で見た。
 なんてひどい印象操作だ。名誉毀損で訴えてやりたい。
 
「ところで、腹減ったんだけどメシはないのか?」
「ボクたちも腹ペコですう!」
「おなかが空いて力が出ないっす!」

 コンとポンまで近づいてきて、ご飯はまだかという目で僕を見る。
 
「うちは定食屋じゃありません! 元々一人暮らしだったのでそんなに備蓄はありませんよ」
「じゃあ、今からメシ食いに行かね? 俺の行きつけの妖怪居酒屋、朝までやってっからよ」
「そうだな。たまには外で飲むか」
 ぬらりひょんが同意した。
「ではみなさんでご勝手に行ってきてください! そしてそのまま二度と戻ってこないでください!」
「寂しいくせに強がっちゃって……思春期の子どもって扱いが難しいよね」
「誰が思春期の子どもですか!」
「おい、揶揄うなよぬらりひょん。尚之介は美彌子と早く二人きりになりたいんだよ。察しろ」
「あ、そうか。ごめんごめん」
「違いますから! そういうことではありませんから!」

 僕の必死な態度に対して、ぬらりひょんたちは気が利いたフリして余計な気を回しているだけの親戚のおばさんみたいな嫌な含み笑いをしながらぞろぞろと出て行った。
 
「そういうことじゃないんだってば、本当に……」

 結果的に美彌子さんと二人きりになって、僕は再びさっきの恥を思い出した。思わず両手両膝を床についてしまう。

「まあ……僕と美彌子さんが許嫁だなんて大嘘もなかったことになったわけだから……これで良かったと前向きに考えるべきか……」

 僕はそっと隣の部屋の仕切り戸を開け、美彌子さんのすやすや眠る姿を確認した。無邪気な寝顔がとても可愛らしいと思う。
 美彌子さんへ感じるこの愛しさも、明日になったら消えてしまうのだろうか。

 ……消えてしまうんだろうな。
 たかが薬の効果が生んだ幻の気持ち、だったんだから。


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