社くん家は居心地がいい

ゆづ

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新たな来客

謎のようつべあ

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 ◇

(大好きって、言っちゃった……)

 氏家美彌子は甘いため息をつきながら巫女の衣装に着替えた。
 神社の本殿の北西に位置する社務所が彼女の仕事場兼休憩所である。お守りや絵馬、おみくじ売り場を正面に構え、その奥の和室は破魔矢や神札の製作作業、ご祈祷のための準備、収入の管理などの事務作業に使われる。
 巫女の衣装はここで管理していたので、埃に塗れず無事だった。
 ほぼ無意識に着替えを終えると、外に出て参道の砂を箒で払う。
 その間、彼女の頭の中を支配していたのはさっきの尚之介の行動だった。

 ──この人に手を出さないでください。

 丁寧だけど熱い想いを感じる一言で、嫉妬とも取れる可愛らしさもあり、強引な男らしさもあった。あの時の彼の温もりや息遣いを思い出しては胸がドキドキする。
 言葉でははっきりしなかったものの、彼の態度から考えるに、彼も美彌子のことが好きに違いない。

「ああ……どうしましょう」

 雑念と妄想が止まらなくて、神様に申し訳ない。
 そんな彼女のそばに、近づいていく何者かがいた。

「すみません。ここの神社の人ですか?」
「え? はい」
「え、やば。可愛い。ちょっと全身撮ってもいいですか?」

 その男はスマホを構えていた。見た目に気を遣って頑張っているようだが、尚之介の足元にも及ばない下品さが彼の顔には感じられた。

「何なんですか?」
「ああ、すみません。僕、こういうものでして」

 男は2台目のスマホを操作し、彼が映っている動画を美彌子に見せてきた。

「よう……つべあ? と読むのですか?」
 見たことのない英単語に美彌子が苦戦していると、彼は下卑た引き攣り笑いを起こした。

「はい。ようつべあの心霊ハンター、サイコマンというチャンネルを運営してますサイコマンと申します! ちょっとこの神社のことを調べに来たんですけどうちのチャンネルで紹介しちゃっていいですか?」
「チャンネル? というと……もしかしてテレビ局の取材ですか? うちの神社を有名にしてくださるのですか?」
「はいはい。そういうことです! 世界中にこの神社のことを紹介しちゃうんで、撮ってもいいですか?」
「そういうことでしたら!」

 と了承しかけて、美彌子はさっきの尚之介の言葉を思い出した。

「でも……知らない人に個人情報を勝手に渡すのは危ないと言われているので……」
「出演料払いますよ。一応、うち(※)銀盾持ってるんで」
「銀盾?」

 美彌子は立派な銀の盾で身を守る彼を想像した。撮影中に悪漢に襲われたりするのだろうか。
 
「そんなに危険なのですか……?」
 すると男は撮影中のスマホを一時停止し、ニヤッと笑った。

「まあ、ほとんどやらせなんで。危険なフリをしているだけですけどね! 実際は加工とかして演出しちゃってます。だから大丈夫です。巫女さんのお顔もご希望でしたらモザイクかけますし、音声もエフェクトかけちゃうんで。もちろん偽名でOKですのでとりあえず撮っちゃっていいっすか?」

 訳のわからないことを一方的に捲し立て、彼は強引に撮影を始めた。


(※)銀盾……某動画配信サイトでチャンネル登録者10万人を達成した際に配信会社本社からクリエイターへと送られる記念品。100万人で金の盾へと昇格する。
 
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