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それは友人からバイクを借りたときに近くに転がっていた、あのマネキンの顔だった。
しかし借り物のバイクを壊された怒りが他の疑問や感情を上回り、思わずマネキンに向かって突進していった。
「てめえっ…!!」
肩口辺りを突き飛ばすと、後方に何の抵抗も無く倒れていった。
路面に倒れたマネキンを続けざまに足で何度か踏みつけた。
てっきり起き上がってくるものと身構えたが、ぴくりとも動かない。
「………?」
再び動かなくなった人形に対して苛立ちが募り、再び蹴りを入れた。
英剛はシートから転がり出たマネキンの頭部分を見た。
英剛が食事を買いに行っている時、友人が拾ってきてこっそり中に入れたに違いない。
彼にしてみればほんのいたずらのつもりだったのだろうが、このマネキンが英剛を追ってきたのは、この頭部が原因なのではないか。
友人にどう説明したものか。
バイクは修理できるか、保険は下りるか、やはり証拠のため動画を保存した方がーーーー。
視界がぐるっと回転して、体が路面にたたきつけられた。
「ぐっ……!!」
足を掬われたのだと分かった直後、頭の上に硬い物が圧し掛かってきた。
マネキンの足だ。
ーーーーこいつまた動き出した……
そう言えば英剛はこのマネキンが動くところをまともに見ていない。
ただ立っているか、見つけた直後に固まってしまうかのどちらかだ。
顔を踏みつけられている英剛の脳裏に、ある仮説が浮かんだ。
一瞬、圧迫感が少し軽減された気がした。
必死に首を捻ってマネキンを仰ぎ見ると、ふっと圧力から解放された。
バランスが崩れて再び倒れる白い人形を見つめたまま、注意深く起き上がる。
ーーーーこいつ、見られてると動けなくなるのか?
何故なのかは全く分からないが、こちらが視界に入れると只のマネキンになる。
足元のマネキンはヘッドカットでなく、頭から足まで全身揃っていた。
英剛の頭を踏みつけている間に自身の頭を着けたのだろう。
マネキンの客寄せ笑顔を見ていると、訳の分からない存在にバイクを壊された怒りがまた蘇ってきた。
証拠動画など撮ったとして、借り物を破損した事実に変わりは無く、友人の信頼に大きな影を落とすに違いない。
視野の隅に靴墨のボトルが落ちているのに気づいた。
マネキンを視界から外さないよう英剛がじりじりと近付いて拾うと、さっきヘルメットにかけられた液体と同じ匂いがした。
英剛の視界を遮るために用意したものだろうか。
ーーーー小癪なマネしやがって。
仕返しとばかりに、マネキンの顔面に真上からボタボタとボトルの中の液体をかけた。
彫りの深い顔立ちを黒い粘度の高い液体が伝っていく。
マネキンを見下ろす英剛の頭上を鳥らしきものが掠め飛んだ。
不審に思う間もなく英剛の目の前に、無数の頭髪が水中の藻のようにぶわっと広がった。
それらが横方向に整列したかと思うと、英剛の顔面にびったり張り付いた。
「っ……うぇっ!?」
髪の毛は目隠しのように秀剛に巻きついて離れようとしない。
続けざまに獣のような雄叫びが周囲に響き渡った。
それは目の前のマネキンからだった。
自身に巻き付く髪の毛のごく僅かな隙間から、立ち上がったマネキンが見えては隠れる。
靴墨で汚れたマネキンは、糸ほどの隙間からでも分かるくらい、恐ろしく憤怒に満ちた表情だった。
目は攣り上がって眉間には深い皺が刻まれ、噛みつかんばかりに咆哮し、さっきまでの笑顔は欠片もない。
視界を遮られて頭を振る英剛の首を、硬質の手が掴んだ。
シートをこじ開けた怪力でぎりぎりとその首を締め上げる。
爪を立てて無我夢中で抵抗していると、ふいにマネキンが声を発した。
『……目に映るその瞬間が……』
ーーーー永遠になる。
よく聞く宣伝文句だから、反射的に続きが頭に浮かんだ。
しかしそれが何故か考える余裕などない。
苦痛と窒息感に徐々に体力を奪われる英剛の耳に、間近から聞き覚えのある音が聞こえてきた。
ーーーーこいつの中から…?
それは盗られたという友人のスマホの着信音だった。
ーーーーてめえの指じゃ操作できなかっただろ。
英剛は遠のく意識の中で毒づくのが精一杯だった。
しかし借り物のバイクを壊された怒りが他の疑問や感情を上回り、思わずマネキンに向かって突進していった。
「てめえっ…!!」
肩口辺りを突き飛ばすと、後方に何の抵抗も無く倒れていった。
路面に倒れたマネキンを続けざまに足で何度か踏みつけた。
てっきり起き上がってくるものと身構えたが、ぴくりとも動かない。
「………?」
再び動かなくなった人形に対して苛立ちが募り、再び蹴りを入れた。
英剛はシートから転がり出たマネキンの頭部分を見た。
英剛が食事を買いに行っている時、友人が拾ってきてこっそり中に入れたに違いない。
彼にしてみればほんのいたずらのつもりだったのだろうが、このマネキンが英剛を追ってきたのは、この頭部が原因なのではないか。
友人にどう説明したものか。
バイクは修理できるか、保険は下りるか、やはり証拠のため動画を保存した方がーーーー。
視界がぐるっと回転して、体が路面にたたきつけられた。
「ぐっ……!!」
足を掬われたのだと分かった直後、頭の上に硬い物が圧し掛かってきた。
マネキンの足だ。
ーーーーこいつまた動き出した……
そう言えば英剛はこのマネキンが動くところをまともに見ていない。
ただ立っているか、見つけた直後に固まってしまうかのどちらかだ。
顔を踏みつけられている英剛の脳裏に、ある仮説が浮かんだ。
一瞬、圧迫感が少し軽減された気がした。
必死に首を捻ってマネキンを仰ぎ見ると、ふっと圧力から解放された。
バランスが崩れて再び倒れる白い人形を見つめたまま、注意深く起き上がる。
ーーーーこいつ、見られてると動けなくなるのか?
何故なのかは全く分からないが、こちらが視界に入れると只のマネキンになる。
足元のマネキンはヘッドカットでなく、頭から足まで全身揃っていた。
英剛の頭を踏みつけている間に自身の頭を着けたのだろう。
マネキンの客寄せ笑顔を見ていると、訳の分からない存在にバイクを壊された怒りがまた蘇ってきた。
証拠動画など撮ったとして、借り物を破損した事実に変わりは無く、友人の信頼に大きな影を落とすに違いない。
視野の隅に靴墨のボトルが落ちているのに気づいた。
マネキンを視界から外さないよう英剛がじりじりと近付いて拾うと、さっきヘルメットにかけられた液体と同じ匂いがした。
英剛の視界を遮るために用意したものだろうか。
ーーーー小癪なマネしやがって。
仕返しとばかりに、マネキンの顔面に真上からボタボタとボトルの中の液体をかけた。
彫りの深い顔立ちを黒い粘度の高い液体が伝っていく。
マネキンを見下ろす英剛の頭上を鳥らしきものが掠め飛んだ。
不審に思う間もなく英剛の目の前に、無数の頭髪が水中の藻のようにぶわっと広がった。
それらが横方向に整列したかと思うと、英剛の顔面にびったり張り付いた。
「っ……うぇっ!?」
髪の毛は目隠しのように秀剛に巻きついて離れようとしない。
続けざまに獣のような雄叫びが周囲に響き渡った。
それは目の前のマネキンからだった。
自身に巻き付く髪の毛のごく僅かな隙間から、立ち上がったマネキンが見えては隠れる。
靴墨で汚れたマネキンは、糸ほどの隙間からでも分かるくらい、恐ろしく憤怒に満ちた表情だった。
目は攣り上がって眉間には深い皺が刻まれ、噛みつかんばかりに咆哮し、さっきまでの笑顔は欠片もない。
視界を遮られて頭を振る英剛の首を、硬質の手が掴んだ。
シートをこじ開けた怪力でぎりぎりとその首を締め上げる。
爪を立てて無我夢中で抵抗していると、ふいにマネキンが声を発した。
『……目に映るその瞬間が……』
ーーーー永遠になる。
よく聞く宣伝文句だから、反射的に続きが頭に浮かんだ。
しかしそれが何故か考える余裕などない。
苦痛と窒息感に徐々に体力を奪われる英剛の耳に、間近から聞き覚えのある音が聞こえてきた。
ーーーーこいつの中から…?
それは盗られたという友人のスマホの着信音だった。
ーーーーてめえの指じゃ操作できなかっただろ。
英剛は遠のく意識の中で毒づくのが精一杯だった。
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