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「…でも実際移ってこられてどうなんですか?」
髪をブローしながら美容師が問いかけた。
「そうねえ…こっちの方がスーパーとか役所とか近くて助かるけど、まだ知らないことも多いから…」
女性は鏡を見ながらノンビリと答えた。
「そう言われる方多いですよ、この辺は何かと便利って。…あ、前お住まいの所じゃありません?」
美容師がテレビの方を見た。
『…夜7時頃、□町の山道で人が倒れていると消防や警察に通報がありました。山道には□町の男子高校生が路上で倒れており、その場で死亡が確認されました』
「あら、本当だわ。学生ねえ……そう言えば結構ヤンチャな学生もいたわね、客には」
「そういうトラブルとかあった時はどうしてたんですか? やっぱりご主人にご対応して頂いてたんですか」
『………男子高校生の首には強い力で締められた跡があり、署は何らかの事件に巻き込まれたものと見て……』
「うちの旦那も店やってた時はそれなりに頼りになったんだけど…畳んでからは駄目ね。前と同じ業種が嫌だって畑違いのところに再就職しちゃうし、それで毎日四苦八苦してるって言っても身から出た錆じゃない?」
「畑違いのところに再就職って、それだけご苦労が多かったんですね」
美容師がドライヤーを止めて作業台においた。
「それがねえ……マネキンを見るのが嫌だって言うのよ。仕事柄毎日見てきた備品を今更嫌だなんて、一体何を言い出すんだってもうこっちはさっぱりよ」
美容師は可笑しそうに笑いながら手鏡を開いてみせる。
「ふふ、突然困りますよね、奥さんとしても。……後ろはこのようにしましたが、いかがでしょうか?」
「ええ、文句ないわ。ありがとう」
女性は出来栄えに満足すると椅子から立ち上がった。
会計を済ませて美容院から出る時、出入り口付近に箱が置いてあるのが目に入った。
中には美容師が練習に使用したカットマネキンがいくつか入っており、『ご自由にお持ちください』のメモが添えられている。
女性はそれを見て、マネキンを処分した時のことを思い出した。
丁寧に分解してポリ袋に入れ、軽トラに積んで粗大ごみ処分施設に持って行ったのだが、施設に着いて荷台を見ると、袋の中は腕と胴体のみになっていたのだ。
袋に穴が開いていたせいで運搬途中に落ちてしまったらしい。
仕方なく残った部分の処分を依頼して、帰途で他のパーツを探したが見つからない。
川などに流されていったのだろうか。
夫に言うと取り乱して面倒なことになりそうだったので、とりあえず黙っておいてある。
夫のせいで要らない不始末をさせられたものだと、胸中ぼやきながら歩いていると、リサイクルショップを見つけた。
ちょっと興味が沸いて中を覗くと、店の中の目立つところに集客用のマネキンが立っていた。
黒のロンググローブやマーメイドラインのドレス、更につば広のドレス帽を着せられており、顔を隠せば一瞬人間と見間違えるだろう。
女性の傍に立ててある客向けの看板を読んでみた。
《綺麗なまま処分を検討していませんか? あなたの物持ちの良さが、きっとあなたを救うことになります》
……少し変な誘い文句だ。
しかし前の店のマネキンも処分したりせず、リサイクル出来れば良かったかもしれない。
無くなった他のパーツも、今頃誰かに拾われて使われていたりして。
そう思いつつ再び歩き出そうとした時、小さな違和感を感じた。
マネキンの帽子の角度がさっき見た時と少し変わっている気がする。
最も大きな帽子だから、見る位置によって形が変わるだけかもしれない。
女性に芽生えた違和感は直ぐに無くなり、のんびりと家に向かって歩き出した。
髪をブローしながら美容師が問いかけた。
「そうねえ…こっちの方がスーパーとか役所とか近くて助かるけど、まだ知らないことも多いから…」
女性は鏡を見ながらノンビリと答えた。
「そう言われる方多いですよ、この辺は何かと便利って。…あ、前お住まいの所じゃありません?」
美容師がテレビの方を見た。
『…夜7時頃、□町の山道で人が倒れていると消防や警察に通報がありました。山道には□町の男子高校生が路上で倒れており、その場で死亡が確認されました』
「あら、本当だわ。学生ねえ……そう言えば結構ヤンチャな学生もいたわね、客には」
「そういうトラブルとかあった時はどうしてたんですか? やっぱりご主人にご対応して頂いてたんですか」
『………男子高校生の首には強い力で締められた跡があり、署は何らかの事件に巻き込まれたものと見て……』
「うちの旦那も店やってた時はそれなりに頼りになったんだけど…畳んでからは駄目ね。前と同じ業種が嫌だって畑違いのところに再就職しちゃうし、それで毎日四苦八苦してるって言っても身から出た錆じゃない?」
「畑違いのところに再就職って、それだけご苦労が多かったんですね」
美容師がドライヤーを止めて作業台においた。
「それがねえ……マネキンを見るのが嫌だって言うのよ。仕事柄毎日見てきた備品を今更嫌だなんて、一体何を言い出すんだってもうこっちはさっぱりよ」
美容師は可笑しそうに笑いながら手鏡を開いてみせる。
「ふふ、突然困りますよね、奥さんとしても。……後ろはこのようにしましたが、いかがでしょうか?」
「ええ、文句ないわ。ありがとう」
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会計を済ませて美容院から出る時、出入り口付近に箱が置いてあるのが目に入った。
中には美容師が練習に使用したカットマネキンがいくつか入っており、『ご自由にお持ちください』のメモが添えられている。
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丁寧に分解してポリ袋に入れ、軽トラに積んで粗大ごみ処分施設に持って行ったのだが、施設に着いて荷台を見ると、袋の中は腕と胴体のみになっていたのだ。
袋に穴が開いていたせいで運搬途中に落ちてしまったらしい。
仕方なく残った部分の処分を依頼して、帰途で他のパーツを探したが見つからない。
川などに流されていったのだろうか。
夫に言うと取り乱して面倒なことになりそうだったので、とりあえず黙っておいてある。
夫のせいで要らない不始末をさせられたものだと、胸中ぼやきながら歩いていると、リサイクルショップを見つけた。
ちょっと興味が沸いて中を覗くと、店の中の目立つところに集客用のマネキンが立っていた。
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そう思いつつ再び歩き出そうとした時、小さな違和感を感じた。
マネキンの帽子の角度がさっき見た時と少し変わっている気がする。
最も大きな帽子だから、見る位置によって形が変わるだけかもしれない。
女性に芽生えた違和感は直ぐに無くなり、のんびりと家に向かって歩き出した。
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