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ぷろろーぐ
0-1 檻の中で
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「治安……」
名前から察するに公安委員会みたいな物か?
純粋な国益の為に働き、誰よりも先に危険を察知、対処する。インテリジェンス機関構成員でもあるだろう。胡散臭い訳だ。
「この地位は動くのに都合が良くてね。君は見た感じ転生組じゃなく転移組だろう?」
「転生? えっと、僕記憶がおかしくて」
「ん、スターターがイカれたか? 言語野は正常、記憶維持だけ働かなかったみたいだね。物腰や態度から見るに学生、同郷と見たが」
「日本です」
「良かった。保護コンポーネントすら米国製を流用てのは、日本のダイバー事情も厳しい」
言っている事が薄ぼんやり知っているからこそ歯がゆさがある。
「不幸中の幸い、ここに事情通がいる分まだマシさ。簡単に説明しようか」
転生や転移という事態を通して僕やギズモフさんがこの異世界に来た事、その異世界から現実に帰ってくる際には幾つかの『手土産』を持ち出せる事、そしてそれが各国における産業化と苛烈な競争になっている事を聞いた。ギズモフさんもフリーの潜界士、つまり職業人として現実世界にアイテムを持ち帰る使命があるとの事。
暗い廃城を抜け、城下町を行く間ギズモフさんの話を聞いている僕は奇妙な気分だった。
内容ではなく、記憶の蘇り方が、だ。
全く覚えていなかった筈の内容が、かけ忘れた眼鏡にでもふと気付いた時みたいにあっさりと思い出す。どんなに大事な事でも何気なく。
記憶という面で僕が修復されて行く過程にも関わらず、今はそれが気持ち悪い。
今のところ、以前の日常の常識感みたいなのは覚えていると分かる。
僕は夜店をぼうっと見ながら歩く。
「どうかしたのかい? お腹でも減った?」
「いえ、僕は何を目的にここへ来たのかな、って」
「んー、ダイバーにしては若すぎる。日本にも数校は養成学校はあるとは聞いたけど、なにせ日本ってのはやっぱりどこまでも『日本』だからねぇ」
ギズモフさんは意味深というにはあまりに敵意に満ちた含みを口にすると、懐から出したタバコを咥える。
「あ、お兄さんみたくこういう嗜好品を道中見せびらかすのはやめておきなよ? この管区は治安良い方だけど、街の外ならチンケな強盗に会いかねない」
彼はヘラヘラと笑う。
「そんなに危険なんですか?」
「指輪で指を失った、みたいな話は珍しくない」
「というと?」
「選定ばさみでぎっちょん。肥えた……失礼、ふくよかな貴族のご婦人方も指がむくむと中々外し辛くなるからね。時は金なり、握るのが錆びた短刀だろうと、宝飾されたサーベルだろうと万人共通で言える事。合理的手法だ」
それはスラムも裸足で逃げ出すなぁ。
彼はある建物の前で立ち止まり、立て看板を見ると舌打ちして扉を空ける。
中にはうとうとと船をこぐ一人のおじさんが居て、小さなカウンターで番をしていた。
扉の開閉音はおじさんを起こしたらしい。
「追加で5ヴィヨン、帝貨幣のみね」
「お釣はいらないよ」
ギズモフさんがお金をカウンターに置いた後、二人で宿とおぼしき建物の中を進んだ。
ドアノブから『使用中』と書かれた札を外して部屋に入る。使用中だけどいいのか?中に入るが人は居ない。
「経営戦略の概念がない。サービスが悪い割に値段だけはまともに取るとは、首都が懐かしいよ」
「はぁ」
「二人部屋で悪いね。一応、君の身の安全の為だよ」
「まさか、こんな部屋の中でも!」
僕は身構えると、ギズモフさんは大笑いする。
「いやまさか! 君の身分が特別だからさ。あれ、まさか知らない? 君、王族だよ?」
僕の顔は『ぽかん』のオノマトペを張るのに丁度良い顔をしているんだろう。
牢屋で若とか言われたのはこれか?
『と言っても諸王、つまり連立する国の一つを治める血族に過ぎない。貴族さ』
『ど、ど、どういう』
『転移にしろ転生にしろ、かなりの当たりクジには違いない 。君の家系は一貴族にしては人望も勢力も帝国に匹敵する程だった。その分今は特殊な立ち位置ではあるがね』
ベッドに腰を下ろしたギズモフさんは、帽子を床に投げ捨てるとそのまま寝転がり話を進める。
「君の一族は奴隷貴族、そう呼ばれている」
「奴隷で貴族?」
彼は思い出したかの様にベッドから起きるとコートを脱ぐ。
「貴族趣味という言葉の最たる悪用例。10年前の戦争の敗軍たるシャティエーヌ家を『愛玩階級』と位置付け連れ回したい帝国の思惑だよ。シャティエーヌの抵抗がよっぽど悔しかったんだろうね」
「なんか大変ですね」
「君も明日からお勤めだよ?」
「え?」
背筋に冷たい物が走る。
「学園ラ・サンジェリン。黄昏のサンジェリンなんて名で通っている魔術師総合育成の超有名校に入学だ。その子のペットとしてね」
ギズモフさんの指先を見ると、一人の少女がいた。
んん??? いつからだ? いなかったよな。
「アイナちゃん、おーい?」
「天井の染み数えてた」
初夜か。リアルに使ってる奴初めて見たな。
身長160あるかないかの、矢鱈にだるげな銀髪の少女。肌は色白というには血の気が薄く、大きな瞳はルビーのようだ。
濃く、深く、澄んだ紅色は蠱惑的でつい見とれた。
少女は、僕がまじまじ見つめた事に何か思ったのか立ち上がってこちらに近づく。道中、ぺたん、とへたり込んでしまった。
「……なっちゃん?」
「ん?」
少女はへたり込んだ状態から這いずってこちらに寄ってくる。
足、腕と掴みながらよじ登るように掴まり、立ち上がると、背伸びして僕ね顔をつねったり叩いたりして何か調べている。
少女は少しすると、わなわなと震える手を自分で抑えながら、なんと泣きはじめたのだ。
「やっと……やっと会えた」
名前から察するに公安委員会みたいな物か?
純粋な国益の為に働き、誰よりも先に危険を察知、対処する。インテリジェンス機関構成員でもあるだろう。胡散臭い訳だ。
「この地位は動くのに都合が良くてね。君は見た感じ転生組じゃなく転移組だろう?」
「転生? えっと、僕記憶がおかしくて」
「ん、スターターがイカれたか? 言語野は正常、記憶維持だけ働かなかったみたいだね。物腰や態度から見るに学生、同郷と見たが」
「日本です」
「良かった。保護コンポーネントすら米国製を流用てのは、日本のダイバー事情も厳しい」
言っている事が薄ぼんやり知っているからこそ歯がゆさがある。
「不幸中の幸い、ここに事情通がいる分まだマシさ。簡単に説明しようか」
転生や転移という事態を通して僕やギズモフさんがこの異世界に来た事、その異世界から現実に帰ってくる際には幾つかの『手土産』を持ち出せる事、そしてそれが各国における産業化と苛烈な競争になっている事を聞いた。ギズモフさんもフリーの潜界士、つまり職業人として現実世界にアイテムを持ち帰る使命があるとの事。
暗い廃城を抜け、城下町を行く間ギズモフさんの話を聞いている僕は奇妙な気分だった。
内容ではなく、記憶の蘇り方が、だ。
全く覚えていなかった筈の内容が、かけ忘れた眼鏡にでもふと気付いた時みたいにあっさりと思い出す。どんなに大事な事でも何気なく。
記憶という面で僕が修復されて行く過程にも関わらず、今はそれが気持ち悪い。
今のところ、以前の日常の常識感みたいなのは覚えていると分かる。
僕は夜店をぼうっと見ながら歩く。
「どうかしたのかい? お腹でも減った?」
「いえ、僕は何を目的にここへ来たのかな、って」
「んー、ダイバーにしては若すぎる。日本にも数校は養成学校はあるとは聞いたけど、なにせ日本ってのはやっぱりどこまでも『日本』だからねぇ」
ギズモフさんは意味深というにはあまりに敵意に満ちた含みを口にすると、懐から出したタバコを咥える。
「あ、お兄さんみたくこういう嗜好品を道中見せびらかすのはやめておきなよ? この管区は治安良い方だけど、街の外ならチンケな強盗に会いかねない」
彼はヘラヘラと笑う。
「そんなに危険なんですか?」
「指輪で指を失った、みたいな話は珍しくない」
「というと?」
「選定ばさみでぎっちょん。肥えた……失礼、ふくよかな貴族のご婦人方も指がむくむと中々外し辛くなるからね。時は金なり、握るのが錆びた短刀だろうと、宝飾されたサーベルだろうと万人共通で言える事。合理的手法だ」
それはスラムも裸足で逃げ出すなぁ。
彼はある建物の前で立ち止まり、立て看板を見ると舌打ちして扉を空ける。
中にはうとうとと船をこぐ一人のおじさんが居て、小さなカウンターで番をしていた。
扉の開閉音はおじさんを起こしたらしい。
「追加で5ヴィヨン、帝貨幣のみね」
「お釣はいらないよ」
ギズモフさんがお金をカウンターに置いた後、二人で宿とおぼしき建物の中を進んだ。
ドアノブから『使用中』と書かれた札を外して部屋に入る。使用中だけどいいのか?中に入るが人は居ない。
「経営戦略の概念がない。サービスが悪い割に値段だけはまともに取るとは、首都が懐かしいよ」
「はぁ」
「二人部屋で悪いね。一応、君の身の安全の為だよ」
「まさか、こんな部屋の中でも!」
僕は身構えると、ギズモフさんは大笑いする。
「いやまさか! 君の身分が特別だからさ。あれ、まさか知らない? 君、王族だよ?」
僕の顔は『ぽかん』のオノマトペを張るのに丁度良い顔をしているんだろう。
牢屋で若とか言われたのはこれか?
『と言っても諸王、つまり連立する国の一つを治める血族に過ぎない。貴族さ』
『ど、ど、どういう』
『転移にしろ転生にしろ、かなりの当たりクジには違いない 。君の家系は一貴族にしては人望も勢力も帝国に匹敵する程だった。その分今は特殊な立ち位置ではあるがね』
ベッドに腰を下ろしたギズモフさんは、帽子を床に投げ捨てるとそのまま寝転がり話を進める。
「君の一族は奴隷貴族、そう呼ばれている」
「奴隷で貴族?」
彼は思い出したかの様にベッドから起きるとコートを脱ぐ。
「貴族趣味という言葉の最たる悪用例。10年前の戦争の敗軍たるシャティエーヌ家を『愛玩階級』と位置付け連れ回したい帝国の思惑だよ。シャティエーヌの抵抗がよっぽど悔しかったんだろうね」
「なんか大変ですね」
「君も明日からお勤めだよ?」
「え?」
背筋に冷たい物が走る。
「学園ラ・サンジェリン。黄昏のサンジェリンなんて名で通っている魔術師総合育成の超有名校に入学だ。その子のペットとしてね」
ギズモフさんの指先を見ると、一人の少女がいた。
んん??? いつからだ? いなかったよな。
「アイナちゃん、おーい?」
「天井の染み数えてた」
初夜か。リアルに使ってる奴初めて見たな。
身長160あるかないかの、矢鱈にだるげな銀髪の少女。肌は色白というには血の気が薄く、大きな瞳はルビーのようだ。
濃く、深く、澄んだ紅色は蠱惑的でつい見とれた。
少女は、僕がまじまじ見つめた事に何か思ったのか立ち上がってこちらに近づく。道中、ぺたん、とへたり込んでしまった。
「……なっちゃん?」
「ん?」
少女はへたり込んだ状態から這いずってこちらに寄ってくる。
足、腕と掴みながらよじ登るように掴まり、立ち上がると、背伸びして僕ね顔をつねったり叩いたりして何か調べている。
少女は少しすると、わなわなと震える手を自分で抑えながら、なんと泣きはじめたのだ。
「やっと……やっと会えた」
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