異界異聞録〜いわく公安の犬なり〜

陰キャのキャキャキャ

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ぷろろーぐ

0-2 檻の中で

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泣き崩れる少女を前に為す術がない。せいぜい慌て、どもる位。


「アイナ! どうしたんだい?」


急な事で驚いたのかギズモフさんまで飛んで来る。
ギズモフさんは、アイナのやや朱を挿した顔にそっと手をやり、優しく涙を拭う。
ああいう行動が自然に出来る所、凄いと思う


「わた、私の、クラスメイトだった、の……」
「ほう!  ではユーリ君の事も?」
「うん……」
「じゃあ!」


僕のじゃあ! に続く言葉は、アイナのバッテンジェスチャーにより阻止されてしまう。


「ダメ」
「なんで」
「……ダメだから」


涙目上目遣いとか反則だろ。アイナのそれは、生物共通の父性に働きかけてくる。
何とも歯切れ悪い返答だったけど、こうやって泣き止みつつある年下の女の子を詰問するのは気が引けた。今度隙を見て少しずつ聞き出そう。
ぱん、とギズモフさんが手を叩く。


「まあ、つまる話もあるだろうが明日の定期便で学園に向かう。二人とも寝なさい、アイナ、ほらベッドに入って」
「まさか三人一緒ってんじゃないでしょうね?」
「勿論さ! 家族旅行の体だからね!」


何やら両手を広げ、カッコいいポーズを取るがまるで釈然としない。家族旅行ならこの構成、かなり訳あり家族に見えやしないか?
金髪の大人に、銀髪の女の子、黒髪の僕。気を使われそうだ。


「色々まずい気が」
「なんだい、君も幼女趣味な訳じゃあるまいに。アイナに手を出すのかい? 大丈夫だろう?」
「も、表現した所に新たな問題を感じたんだけど」
「さあ電気を消すよ? 僕は迎えにいく前に済ましたけど、歯磨きしたかったらあのおじさんから歯みがきセット貰っておいで」
「せめて否定してよ」
「で、どうなの?」


部屋の隅を見ていたのに爛々とした目付きでめっちゃロリコントークしたそうにするギズモフさんが怖かった。てか、アイナちゃんの前でそれ話そうとする? 一応警察官ぽい職だよねこの人。

ギズモフさんも、なんやかんや会話を掻い潜ると、しゅんとしてしまった。彼は部屋の隅にある棒を手に取り、天井の光る鉱石をつつく。鉱石がゆっくりと光を失っていく。
あれ、どういう仕組みなんだろうか。

何も食べてないけど、歯磨きしたら良かったなーなんてうとうとしていると、何かがベッドに入ってくる。

幽霊か? そう感じ、怖すぎて硬直するしかなかったがぷにぷにとした感触と暖かみで、それが生き物、現実の世界の物だとわかりややほっとする。

そしてそれはアイナだった。
ぐわー。社会的にぐわー。公序良俗的にぐわわー。
ぷにぷにの正体は彼女の体だった。


「何してるの? アイナちゃん?」
「検査ですね。受けるのは義務ですから」
「なわけあるか」
「体調を崩すから匂いで判別」
「犬か」


匂いでそれを測る、と言いたいんだろうか。
アイナはすんすんと鼻を鳴らす。


「うん、92点」
「健康合否的なのじゃなく点数方式なんだね」
「ちょっと臭いのがいい」
「いや、あの、多分この体の持ち主のせいであって」
「……照れるの可愛い。ぷらす2点」


逃げるようにしてアイナ側のベッドに逃げ込む。
しかしこれもまた、アイナ嬢巧みなる罠であったのだ。


「私が嗅ぐもよし、嗅がれるもよし」


うんうんと頷くアイナ。
耐えるも地獄、逃げ込むも地獄。逆スメルハラスメント逆セクハラ、これが修羅道か。
ちびっことは言え、匂い指摘は恥ずかしい。
何か強い敗北感を覚えながら泣く泣くアイナのベッドで眠りにつく。


「起きてー、ゆーりー」
「んー、おは……お、痛い、痛いって」


目を開けると、半透明のナンみたいなので攻撃するアイナが目に入る。
顔面をはたくみずみずしい何かの感触、枝豆と革靴を混ぜた妙な臭いがまるで清々しくない目覚めを演出。
俺はベッドに入り次第すぐ寝付いたらしい。急転する環境だ、無理もないだろう。小鳥のさえずりを耳に、脳をゆっくり起動させていく。
 

「起きたね、おはよう」 
「おはようございます」
 
ギズモフさんは鬼おろしみたいな皺を眉間によせ、めっちゃ歯ぎしりしてた。
あんな歯ぎしりしてんのに同時進行の挨拶の爽やかさ、恐ろしい程の発音の美しさだ。
しゃべる子犬ロボみたく発生機能が別なのかもしれない。人外?
 

「幼女臭に囲まれ、いい夢いい気分でいいご身分ってか? ん?」
「捕まれ」


朝から正体を表した変態おじさんであった。見てみると、ギズモフさんは昨日と打って変わりいかにもファンタジーな旅人姿をしていた。
チョッキやズボン等は唐草色でまとめられ、革手袋、ブーツやプロテクターは所々革材や少しの鉄板で補強された動きやすそうな仕上がり。
革手袋は常につけているようだ。臭そう。

アイナはぶかぶかのパジャマ姿から藍色のケープ、淡い紫のスカートに黒タイ厚底ローファーという姿に。
背が低いのでちんまりした感じといい、なんかスズメっぽい。髪も艶やかで、毛並み的にもにも、何かわしわししたくなる。


「可愛ぃね? アイナ可愛いねぇ?」


自画自賛まあまあ断定系質問が無ければほめていた。僕はギズモフさんに用意された服を着る。
服はベストと伸縮性あるインナー以外はギズモフさんと似た構造だ。

「朝ごはんもゆっくり食べさせられずにすまない。途中何か買っていこう。ハッサリアを出たらまともな食事は当分ないんだ」
「出発……ゆりち何たべる?」
「ユーリって呼んでよ。その呼び方は女々しいから」


よく分からないまま始まったこの旅は、随分長いものになる予感がする。
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