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ガクガク学園生活
1-1 旅は道連れ
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アイナのふんすか匂い嗅ぎ攻撃以外、異世界というものは楽しかった。朧気ながら思い出せてきた前の世界とは基本法則からして違う。
生活のあらゆる必要を満たす魔術、行き交う多様な種族。どれもが新鮮で驚異に満ち溢れていた。
授業じゃ習わない事が沢山だ。
あちらじゃ自分は特殊な部類だった。異世界教育が義務化、大人から強要され、異世界が危険視されて尚、学校で異世界に興味を持っていた変わり者なのは覚えている。
考えてみると、自分の記憶の回復に法則性が感じられないと気付く。記憶の関連の具合や残り方が虫食いだ。
それでも授業や実習で散々見たはずの光景に、ワクワクが止まらない。
「おっ! おぉっ! 何も無い所から水が……おー!」
「ゆりち、あえいでる」
アイナの額をぱちんと叩いて窘める。
意外にも魔術を直に使う人物は一人も見ない。見逃しただけなのかもしれないけど、みんなが結晶の付属した道具を用いている。
聞いてみると殆どの人は魔石と呼ばれている媒介を使わなければ魔術が使えないとか。
魔術は限りなく多く、どれも小回りが効いていて、不必要な程に生活を簡便化する魔術と生活の形には、スマホアプリに依存する現代と重なって見える。
家具の四隅強化・衝撃吸収ジェム、ジェムによる皮剥きや灰汁だけ掬い取る機能のついた六徳包丁なる商品には流石に笑った。
残念なのは食文化だけかもしれない。僕は道中で買ったペパーミント調味の挽き肉が入った揚げパンを泣く泣く喉に流し込んでいる。
朝からべったりのアイナも食べ物交換の提案をした時だけは、道端で死んでるコガネ虫を見るみたいな目で距離を取った。こんにゃろ。
まだ数十分位しか歩いていないが、街道に出た。お、あの街灯は宿で見た鉱石ランプのデカイバージョンか?
あっちにはむちゃくちゃデカいカエルと、それに乗ったむくむく謎生物が!!
今が何もかも自由なら今すぐ森で遊びたい、異世界を堪能したい。
「そんな輝く目しちゃって。ワクワクそうで結構結構。若いって素晴らしいよね、何でも輝いてみえるんだろう?」
ギズモフさんは演技じみた台詞の後、うーん、と唸りながらこちらを見る。嫌味か本心か分からないが、やけに強調されたイントネーションが鼻につく。
「その笑い方、飄々とした雰囲気。僕はやっぱりあなたが苦手だな」
「ジャパンっ子にしてはばっさり言うね! これは職業病さ。でも親切だろう?」
「何がです?」
「君を本当に、骨の髄まで騙そうとするなら、怪しさの欠片、尾ひれも端ひれも見せない、掴ませないって事だよ」
「裏の裏ってのもありますからね」
疑惑というのは晴れるまでは限りないと分かるが、それでも疑わずにいられない。会って数分だったが、牢屋の男達がギズモフに向ける嫌悪感は相当だった。彼はどんな男なんだ?
ここが現代なら逃げていただろう。武器を持った見張り、治安の悪さ、文明レベルや民度、少ない情報量、この体の身分。全てが逃走を妨げる。
「これは心を解す為のキャラ付けさ。君は信じられないにしろ、信じた振りをするべき、自分をそう騙すべきだ。僕が本当に助けているのなら失礼だよ? 今君は私以外誰を頼れる? こういう時は何も考えずに自然体が一番。どうにもならないんだし」
お兄さんからの助言だ、と付け加えたギズモフさんは、紙袋から小さな包みを投げて寄越す。
「君がそのまま奇食な気色の悪い惣菜パンを、しかめ面で食べるのを眺めていても楽しかったけどね」
紙の包みはしっかり持つと中々あつい。開けると中から楕円形をしたパンが出てきた。
さっきのとは違うがこれもパンの一種か?
「私はそれに愛敬を込めてこう呼ぶ『カルボゥネ』とねっ!!」
僕はそれを恐る恐る口にする。生地は表面サクッと中はふわり。発酵生地の匂いが鼻をくすぐった後、なめらかで濃厚な優しい風合いのクリームソースに乗っかり、食感の違うマッシュルーム、ベーコン、絹さやが口の中で楽しませてくれる。
「美味しいかい?」
「ん、ほむ、旨すぎる」
「卵と裏ごししたじゃがいもが秘密だとマドモアゼルが言っていたよ。カルボナーラとシチューの合の子フィリングを包んだカルツォーネ。赴任したての私を癒してくれた思い出の味さ」
「あざす」
僕は疑ってしまった気まずさから、息継ぎのついで位の感じをに短く礼を口にした。その話が嘘だっていいし、多分これは本当の話だと思えた。彼の思い出の味で僕を和ませようとした心遣いに嘘も本当もないと思えたから。
残像を残しかねない速度でアイナがすり寄ってこなければいい話で終わったのに。
僕はパンに群がるアイナに餌付けしながら質問をした。
「これ大丈夫なんですか? 外は危険だとか」
「ハッサリアは帝国第三位規模の街。国境や山脈伝いの街と一緒にしないで欲し」
前を見るとギズモフさんの断絶された言葉の意味を知る。僕はフラグを立てる才能があるらしい。目の前に三人、後ろにたぶん二人。目付き、気配からして堅気ではない。
「お前ぇら! 金目の物だせよ」
「その格好虫さされとか大変では?」
「てめえ、舐めたな? 今舐めやがったな?」
ギズモフさんは、わはは、と笑い余裕の表情であった。一方、僕はしっかり怖かった。凶器と敵意を向けられれば人間基本はそうだろう。
小さな刃物はもとい、一振りで脊髄を分断出来そうな手斧を前にすると萎縮する。これが本能だ。
「手伝う」
「いいよアイナちゃん。今は君のクラスメイトのお手並みを拝見しよう」
「え? 頭大丈夫? 守るとか言ってたでしょ」
「ほら前、前!」
生活のあらゆる必要を満たす魔術、行き交う多様な種族。どれもが新鮮で驚異に満ち溢れていた。
授業じゃ習わない事が沢山だ。
あちらじゃ自分は特殊な部類だった。異世界教育が義務化、大人から強要され、異世界が危険視されて尚、学校で異世界に興味を持っていた変わり者なのは覚えている。
考えてみると、自分の記憶の回復に法則性が感じられないと気付く。記憶の関連の具合や残り方が虫食いだ。
それでも授業や実習で散々見たはずの光景に、ワクワクが止まらない。
「おっ! おぉっ! 何も無い所から水が……おー!」
「ゆりち、あえいでる」
アイナの額をぱちんと叩いて窘める。
意外にも魔術を直に使う人物は一人も見ない。見逃しただけなのかもしれないけど、みんなが結晶の付属した道具を用いている。
聞いてみると殆どの人は魔石と呼ばれている媒介を使わなければ魔術が使えないとか。
魔術は限りなく多く、どれも小回りが効いていて、不必要な程に生活を簡便化する魔術と生活の形には、スマホアプリに依存する現代と重なって見える。
家具の四隅強化・衝撃吸収ジェム、ジェムによる皮剥きや灰汁だけ掬い取る機能のついた六徳包丁なる商品には流石に笑った。
残念なのは食文化だけかもしれない。僕は道中で買ったペパーミント調味の挽き肉が入った揚げパンを泣く泣く喉に流し込んでいる。
朝からべったりのアイナも食べ物交換の提案をした時だけは、道端で死んでるコガネ虫を見るみたいな目で距離を取った。こんにゃろ。
まだ数十分位しか歩いていないが、街道に出た。お、あの街灯は宿で見た鉱石ランプのデカイバージョンか?
あっちにはむちゃくちゃデカいカエルと、それに乗ったむくむく謎生物が!!
今が何もかも自由なら今すぐ森で遊びたい、異世界を堪能したい。
「そんな輝く目しちゃって。ワクワクそうで結構結構。若いって素晴らしいよね、何でも輝いてみえるんだろう?」
ギズモフさんは演技じみた台詞の後、うーん、と唸りながらこちらを見る。嫌味か本心か分からないが、やけに強調されたイントネーションが鼻につく。
「その笑い方、飄々とした雰囲気。僕はやっぱりあなたが苦手だな」
「ジャパンっ子にしてはばっさり言うね! これは職業病さ。でも親切だろう?」
「何がです?」
「君を本当に、骨の髄まで騙そうとするなら、怪しさの欠片、尾ひれも端ひれも見せない、掴ませないって事だよ」
「裏の裏ってのもありますからね」
疑惑というのは晴れるまでは限りないと分かるが、それでも疑わずにいられない。会って数分だったが、牢屋の男達がギズモフに向ける嫌悪感は相当だった。彼はどんな男なんだ?
ここが現代なら逃げていただろう。武器を持った見張り、治安の悪さ、文明レベルや民度、少ない情報量、この体の身分。全てが逃走を妨げる。
「これは心を解す為のキャラ付けさ。君は信じられないにしろ、信じた振りをするべき、自分をそう騙すべきだ。僕が本当に助けているのなら失礼だよ? 今君は私以外誰を頼れる? こういう時は何も考えずに自然体が一番。どうにもならないんだし」
お兄さんからの助言だ、と付け加えたギズモフさんは、紙袋から小さな包みを投げて寄越す。
「君がそのまま奇食な気色の悪い惣菜パンを、しかめ面で食べるのを眺めていても楽しかったけどね」
紙の包みはしっかり持つと中々あつい。開けると中から楕円形をしたパンが出てきた。
さっきのとは違うがこれもパンの一種か?
「私はそれに愛敬を込めてこう呼ぶ『カルボゥネ』とねっ!!」
僕はそれを恐る恐る口にする。生地は表面サクッと中はふわり。発酵生地の匂いが鼻をくすぐった後、なめらかで濃厚な優しい風合いのクリームソースに乗っかり、食感の違うマッシュルーム、ベーコン、絹さやが口の中で楽しませてくれる。
「美味しいかい?」
「ん、ほむ、旨すぎる」
「卵と裏ごししたじゃがいもが秘密だとマドモアゼルが言っていたよ。カルボナーラとシチューの合の子フィリングを包んだカルツォーネ。赴任したての私を癒してくれた思い出の味さ」
「あざす」
僕は疑ってしまった気まずさから、息継ぎのついで位の感じをに短く礼を口にした。その話が嘘だっていいし、多分これは本当の話だと思えた。彼の思い出の味で僕を和ませようとした心遣いに嘘も本当もないと思えたから。
残像を残しかねない速度でアイナがすり寄ってこなければいい話で終わったのに。
僕はパンに群がるアイナに餌付けしながら質問をした。
「これ大丈夫なんですか? 外は危険だとか」
「ハッサリアは帝国第三位規模の街。国境や山脈伝いの街と一緒にしないで欲し」
前を見るとギズモフさんの断絶された言葉の意味を知る。僕はフラグを立てる才能があるらしい。目の前に三人、後ろにたぶん二人。目付き、気配からして堅気ではない。
「お前ぇら! 金目の物だせよ」
「その格好虫さされとか大変では?」
「てめえ、舐めたな? 今舐めやがったな?」
ギズモフさんは、わはは、と笑い余裕の表情であった。一方、僕はしっかり怖かった。凶器と敵意を向けられれば人間基本はそうだろう。
小さな刃物はもとい、一振りで脊髄を分断出来そうな手斧を前にすると萎縮する。これが本能だ。
「手伝う」
「いいよアイナちゃん。今は君のクラスメイトのお手並みを拝見しよう」
「え? 頭大丈夫? 守るとか言ってたでしょ」
「ほら前、前!」
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