異界異聞録〜いわく公安の犬なり〜

陰キャのキャキャキャ

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ガクガク学園生活

1-4 旅は道連れ

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いつまで見れども飽きない景色を楽しむ最中、僕は思い出す。


「アイナ、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」
「なに」
「そろそろ『あちら側』について教えてくれないかな。こちらじゃなく、現代にいた時の僕と君について」
「だめ」


打ち解け始めたなら、と思ったがまだのようだ。早すぎたか。
特段自分の中に、前の自分を知らない事による不快感や危機感等は無い。しかし、自由が保証されない身の上とはいえ、元の世界の事を聞いておかないと何ら指針が立てられない。

そういえば初対面で僕の事をなっちゃんと呼んだな。うーん、この感じ。聞いたら口は更に固くなりそうだし、どうした物か。


「まだ今日の分もらってない」
「何をさ」
「匂いサーバー」
「アイナ!」


立ち上がるアイナを押さえ付けようと思ったが、既に安全措置の肩紐を外していた。ゾッとしたが、魔石は風防や揺れ以外にある程度床へ引っ張る機能が備わっているみたいだ。斜めになった甲板でアイナは平然とこちらへ歩いてきて、膝の上に乗る。
朝の攻防は僕が制したけど、場所が場所だけにドタバタと騒ぐ訳にも……


「うすい」
「そもそも僕の体臭は強くない!」
 

『強くなかった』だろう。考えてもみたら、あのシチュエーションから考えるに、これは自前の体じゃない。

本来の持ち主や家族はどうなってしまうのか。僕の体を慕っていた牢の男たちは気付かなかったけど、それを皆が知ったらどうなる?

学校で会うらしいこの体の両親はきっと気付くだろう。二人の悲しみ、失意は計り知れない。
その時、僕はどんな顔をし、何をすべきだろうか。
考え込んでいると、突如アイナのビンタが飛んでくる。でも全然痛くない。


「悩まないで」
「そうだね。考えても仕方がないよね」 


たしかに僕に落ち度が無い事を僕が悩んでも意味がない。アイナはぼーっとしてそうに見えて案外鋭い部分もあるんだな。

アイナは抱き付いた手の力を強め、頭をグリグリと押し付ける。僕はそれに対し、彼女の頭を撫で返した。
彼女はまだ中学生位だろうか? 両親から離れて寂しく、心細いんだろう。アイナもこうしてみると、髪の毛なんかもむくむく具合が犬か猫みたいだ。


「僕って、アイナにとって何? どういう扱いなの?」


何やら面倒な発言に聞こえたので、ニュアンスを変えた言葉を付け足した。
アイナは僕の胸から頭を離し、少し考える。


「カピバラ……なお兄ちゃん」
「凄く分かり辛い。もっと分かりやすく」
「服従、あるいは死」
「極端だね! マジでペット扱い?」


結局わからない上にまるで暴君ネロみたいなセリフだった。まあ、僕と同じような感じだと予想できる。兄に対する妹、妹に対する兄みたいな?
最初から妙に距離感詰まってたけど、やっぱり近しい間柄だったのだろうか。
実の兄妹? 幼なじみ? この感じで年上は無いだろうし。

この世界でどれ程人権がないか、その度合は分からないけど、今の所アイナは人間扱いしてくれている。アイナは僕の胸に再度顔を埋めた。


「そういえば魔法、魔術か。どの位使える?」
「教えてあげる」


アイナは僕の体をよじ登ると、座席の上で立ち膝になる。彼女は僕のおでことおでこをくっつけた。
彼女の瞳は中に行くほど紫掛かっていて、銀河の様だ。
鼓動が早まり、心臓が胸の内側を激しく叩いている。彼女の瞳が閉じられると、イメージの奔流が入り込んでくる。
 

「デュアルキャスター、能力名氷鏡ひょうきょうパフ、ルインクレイドルほしにねがいを。クラスはルークソーサレス。土属性だが肉体強化以外は殆ど詠唱可能で得意な魔術は物質錬成と治癒系統で」


彼女、テレパシーではめちゃくちゃ饒舌だった。なんならすこしチー牛が入ってる。
ゴニョゴニョ続く念仏じみた説明は殆ど頭に入ってこない。語りが早すぎる。


「心の中では凄く喋るんだね」
「口動かすの面倒」
「わー、リアルとイメージの二重放送」
「嘘会話の腹話術しながらも出来る」
「混乱させたいの?」


辣腕スパイさながらだ。無駄に凄すぎる。


「ね」
「ん?」
「ぎゅーしろ」


アイナはねだる。しょうがないなー、なんて言いながら満更でもない気分で抱き締めた。アイナは少しもぞもぞとすると収まりがついたらしく動かなくなる。頼られ、欲しがられるのも悪くないな。

ワイバーンのおばちゃんはキトシュさんと名乗った。キトシュさんと雑談する事30分、アイナを乗せた足も辛くなって来た辺りで彼女は急に目を覚ます。


「お二人さんそろそろだよ? サンジェの管制圏内、魔力酔いに気を付けな!」


キトシュさんが言い終わると数分の後、遠目に塔がうっすら見えた。
高所に登ったときの三半規管の張り詰め、胃が浮く感覚や目の霞みに一通り襲われた後収まる。
事前に言われなかったら割りと怖い感覚だな。


「私らみたく国境を高速で往き来する時、初めての乗客の大抵は魔力酔いで吐くんだよ。流石だね」


甲板と椅子にやたら多い染みの正体が分かった気がする。僕は気持ち、お尻を浮かした。


「フォローじゃないけど、オーク以外のなら毎度私が綺麗に舐めとってるから、清潔その物よ」
「うん、前置きしたけどフォローになってないね。それ安心材料ではないね」
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