8 / 10
ガクガク学園生活
1-4 旅は道連れ
しおりを挟む
いつまで見れども飽きない景色を楽しむ最中、僕は思い出す。
「アイナ、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」
「なに」
「そろそろ『あちら側』について教えてくれないかな。こちらじゃなく、現代にいた時の僕と君について」
「だめ」
打ち解け始めたなら、と思ったがまだのようだ。早すぎたか。
特段自分の中に、前の自分を知らない事による不快感や危機感等は無い。しかし、自由が保証されない身の上とはいえ、元の世界の事を聞いておかないと何ら指針が立てられない。
そういえば初対面で僕の事をなっちゃんと呼んだな。うーん、この感じ。聞いたら口は更に固くなりそうだし、どうした物か。
「まだ今日の分もらってない」
「何をさ」
「匂いサーバー」
「アイナ!」
立ち上がるアイナを押さえ付けようと思ったが、既に安全措置の肩紐を外していた。ゾッとしたが、魔石は風防や揺れ以外にある程度床へ引っ張る機能が備わっているみたいだ。斜めになった甲板でアイナは平然とこちらへ歩いてきて、膝の上に乗る。
朝の攻防は僕が制したけど、場所が場所だけにドタバタと騒ぐ訳にも……
「うすい」
「そもそも僕の体臭は強くない!」
『強くなかった』だろう。考えてもみたら、あのシチュエーションから考えるに、これは自前の体じゃない。
本来の持ち主や家族はどうなってしまうのか。僕の体を慕っていた牢の男たちは気付かなかったけど、それを皆が知ったらどうなる?
学校で会うらしいこの体の両親はきっと気付くだろう。二人の悲しみ、失意は計り知れない。
その時、僕はどんな顔をし、何をすべきだろうか。
考え込んでいると、突如アイナのビンタが飛んでくる。でも全然痛くない。
「悩まないで」
「そうだね。考えても仕方がないよね」
たしかに僕に落ち度が無い事を僕が悩んでも意味がない。アイナはぼーっとしてそうに見えて案外鋭い部分もあるんだな。
アイナは抱き付いた手の力を強め、頭をグリグリと押し付ける。僕はそれに対し、彼女の頭を撫で返した。
彼女はまだ中学生位だろうか? 両親から離れて寂しく、心細いんだろう。アイナもこうしてみると、髪の毛なんかもむくむく具合が犬か猫みたいだ。
「僕って、アイナにとって何? どういう扱いなの?」
何やら面倒な発言に聞こえたので、ニュアンスを変えた言葉を付け足した。
アイナは僕の胸から頭を離し、少し考える。
「カピバラ……なお兄ちゃん」
「凄く分かり辛い。もっと分かりやすく」
「服従、あるいは死」
「極端だね! マジでペット扱い?」
結局わからない上にまるで暴君ネロみたいなセリフだった。まあ、僕と同じような感じだと予想できる。兄に対する妹、妹に対する兄みたいな?
最初から妙に距離感詰まってたけど、やっぱり近しい間柄だったのだろうか。
実の兄妹? 幼なじみ? この感じで年上は無いだろうし。
この世界でどれ程人権がないか、その度合は分からないけど、今の所アイナは人間扱いしてくれている。アイナは僕の胸に再度顔を埋めた。
「そういえば魔法、魔術か。どの位使える?」
「教えてあげる」
アイナは僕の体をよじ登ると、座席の上で立ち膝になる。彼女は僕のおでことおでこをくっつけた。
彼女の瞳は中に行くほど紫掛かっていて、銀河の様だ。
鼓動が早まり、心臓が胸の内側を激しく叩いている。彼女の瞳が閉じられると、イメージの奔流が入り込んでくる。
「デュアルキャスター、能力名氷鏡パフ、ルインクレイドル。クラスはルークソーサレス。土属性だが肉体強化以外は殆ど詠唱可能で得意な魔術は物質錬成と治癒系統で」
彼女、テレパシーではめちゃくちゃ饒舌だった。なんならすこしチー牛が入ってる。
ゴニョゴニョ続く念仏じみた説明は殆ど頭に入ってこない。語りが早すぎる。
「心の中では凄く喋るんだね」
「口動かすの面倒」
「わー、リアルとイメージの二重放送」
「嘘会話の腹話術しながらも出来る」
「混乱させたいの?」
辣腕スパイさながらだ。無駄に凄すぎる。
「ね」
「ん?」
「ぎゅーしろ」
アイナはねだる。しょうがないなー、なんて言いながら満更でもない気分で抱き締めた。アイナは少しもぞもぞとすると収まりがついたらしく動かなくなる。頼られ、欲しがられるのも悪くないな。
ワイバーンのおばちゃんはキトシュさんと名乗った。キトシュさんと雑談する事30分、アイナを乗せた足も辛くなって来た辺りで彼女は急に目を覚ます。
「お二人さんそろそろだよ? サンジェの管制圏内、魔力酔いに気を付けな!」
キトシュさんが言い終わると数分の後、遠目に塔がうっすら見えた。
高所に登ったときの三半規管の張り詰め、胃が浮く感覚や目の霞みに一通り襲われた後収まる。
事前に言われなかったら割りと怖い感覚だな。
「私らみたく国境を高速で往き来する時、初めての乗客の大抵は魔力酔いで吐くんだよ。流石だね」
甲板と椅子にやたら多い染みの正体が分かった気がする。僕は気持ち、お尻を浮かした。
「フォローじゃないけど、オーク以外のなら毎度私が綺麗に舐めとってるから、清潔その物よ」
「うん、前置きしたけどフォローになってないね。それ安心材料ではないね」
「アイナ、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」
「なに」
「そろそろ『あちら側』について教えてくれないかな。こちらじゃなく、現代にいた時の僕と君について」
「だめ」
打ち解け始めたなら、と思ったがまだのようだ。早すぎたか。
特段自分の中に、前の自分を知らない事による不快感や危機感等は無い。しかし、自由が保証されない身の上とはいえ、元の世界の事を聞いておかないと何ら指針が立てられない。
そういえば初対面で僕の事をなっちゃんと呼んだな。うーん、この感じ。聞いたら口は更に固くなりそうだし、どうした物か。
「まだ今日の分もらってない」
「何をさ」
「匂いサーバー」
「アイナ!」
立ち上がるアイナを押さえ付けようと思ったが、既に安全措置の肩紐を外していた。ゾッとしたが、魔石は風防や揺れ以外にある程度床へ引っ張る機能が備わっているみたいだ。斜めになった甲板でアイナは平然とこちらへ歩いてきて、膝の上に乗る。
朝の攻防は僕が制したけど、場所が場所だけにドタバタと騒ぐ訳にも……
「うすい」
「そもそも僕の体臭は強くない!」
『強くなかった』だろう。考えてもみたら、あのシチュエーションから考えるに、これは自前の体じゃない。
本来の持ち主や家族はどうなってしまうのか。僕の体を慕っていた牢の男たちは気付かなかったけど、それを皆が知ったらどうなる?
学校で会うらしいこの体の両親はきっと気付くだろう。二人の悲しみ、失意は計り知れない。
その時、僕はどんな顔をし、何をすべきだろうか。
考え込んでいると、突如アイナのビンタが飛んでくる。でも全然痛くない。
「悩まないで」
「そうだね。考えても仕方がないよね」
たしかに僕に落ち度が無い事を僕が悩んでも意味がない。アイナはぼーっとしてそうに見えて案外鋭い部分もあるんだな。
アイナは抱き付いた手の力を強め、頭をグリグリと押し付ける。僕はそれに対し、彼女の頭を撫で返した。
彼女はまだ中学生位だろうか? 両親から離れて寂しく、心細いんだろう。アイナもこうしてみると、髪の毛なんかもむくむく具合が犬か猫みたいだ。
「僕って、アイナにとって何? どういう扱いなの?」
何やら面倒な発言に聞こえたので、ニュアンスを変えた言葉を付け足した。
アイナは僕の胸から頭を離し、少し考える。
「カピバラ……なお兄ちゃん」
「凄く分かり辛い。もっと分かりやすく」
「服従、あるいは死」
「極端だね! マジでペット扱い?」
結局わからない上にまるで暴君ネロみたいなセリフだった。まあ、僕と同じような感じだと予想できる。兄に対する妹、妹に対する兄みたいな?
最初から妙に距離感詰まってたけど、やっぱり近しい間柄だったのだろうか。
実の兄妹? 幼なじみ? この感じで年上は無いだろうし。
この世界でどれ程人権がないか、その度合は分からないけど、今の所アイナは人間扱いしてくれている。アイナは僕の胸に再度顔を埋めた。
「そういえば魔法、魔術か。どの位使える?」
「教えてあげる」
アイナは僕の体をよじ登ると、座席の上で立ち膝になる。彼女は僕のおでことおでこをくっつけた。
彼女の瞳は中に行くほど紫掛かっていて、銀河の様だ。
鼓動が早まり、心臓が胸の内側を激しく叩いている。彼女の瞳が閉じられると、イメージの奔流が入り込んでくる。
「デュアルキャスター、能力名氷鏡パフ、ルインクレイドル。クラスはルークソーサレス。土属性だが肉体強化以外は殆ど詠唱可能で得意な魔術は物質錬成と治癒系統で」
彼女、テレパシーではめちゃくちゃ饒舌だった。なんならすこしチー牛が入ってる。
ゴニョゴニョ続く念仏じみた説明は殆ど頭に入ってこない。語りが早すぎる。
「心の中では凄く喋るんだね」
「口動かすの面倒」
「わー、リアルとイメージの二重放送」
「嘘会話の腹話術しながらも出来る」
「混乱させたいの?」
辣腕スパイさながらだ。無駄に凄すぎる。
「ね」
「ん?」
「ぎゅーしろ」
アイナはねだる。しょうがないなー、なんて言いながら満更でもない気分で抱き締めた。アイナは少しもぞもぞとすると収まりがついたらしく動かなくなる。頼られ、欲しがられるのも悪くないな。
ワイバーンのおばちゃんはキトシュさんと名乗った。キトシュさんと雑談する事30分、アイナを乗せた足も辛くなって来た辺りで彼女は急に目を覚ます。
「お二人さんそろそろだよ? サンジェの管制圏内、魔力酔いに気を付けな!」
キトシュさんが言い終わると数分の後、遠目に塔がうっすら見えた。
高所に登ったときの三半規管の張り詰め、胃が浮く感覚や目の霞みに一通り襲われた後収まる。
事前に言われなかったら割りと怖い感覚だな。
「私らみたく国境を高速で往き来する時、初めての乗客の大抵は魔力酔いで吐くんだよ。流石だね」
甲板と椅子にやたら多い染みの正体が分かった気がする。僕は気持ち、お尻を浮かした。
「フォローじゃないけど、オーク以外のなら毎度私が綺麗に舐めとってるから、清潔その物よ」
「うん、前置きしたけどフォローになってないね。それ安心材料ではないね」
0
あなたにおすすめの小説
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる
初
ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。
レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。
これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる