【完結】みなしごは不器用な海の神から愛を知る

伊藤あまね

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*十五 大人になっているとは?

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 まぐわいとは、という話は、それから小一時間ほど続いた。書には男女のまぐわいの解説しか記載されておらず、渡津海に一応の説明は受けたものの、やはり海璃にはいまいち理解ができたと言い難い。
 それでも、確かにそれはいままでにない行為であり、未知の話ではあった。

『――という風にして、まぐわいとは行われる。わかったか?』
「……う、うん」

話を終え、渡津海に問われた海璃は、何やらじんわりと腰の奥が疼くように熱いのを感じていた。
 むず痒いような熱いような、それでいて不快と言うよりもくすぐられるようにむず痒く、何かに触れられたい感覚が、体の中に巣食っている。
 何だろう、この感覚……脚の付け根が、妙に熱く痛くなって突っ張っていく……海璃が書庫の床に座ったままそっとその辺りに手を宛がうと、そこはいままでにない形態をとっていた。

「……え?」

 着物の袷の間から、下履きが見え、それがわずかに山を成している。下履きの布地を持ち上げるように、窮屈そうにしているそれは、布地越しでも熱を持っていることがわかる。

『海璃? どうした?』

 着物の裾を気にする海璃の様子に渡津海が覗き込んでくる。湯あみなどでさんざん見られているはずなのに、普段隠している場所を、湯殿でない場所で見られるのは、どこか恥ずかしさを伴う気がする。海璃はおずおずと裾をめくり、いままでにない形になっている下履きを渡津海の前に曝した。

「渡津海……なんか、ここ、ヘン……」
『……ああ、海璃も健康なおのこという証しだな。陰茎が勃起したのだ』
「ぼ、っき? これ、病気?」
『いや、病気ではない。鎮めてしまえば良いだけだ』
「しずめる、って?」
『ああ、知らぬのか……仕方ない……』
「え? あ、ンぅ……」

 屹立したそれの鎮め方を知らないと告げると、渡津海はそのまま海璃を膝上に抱きかかえ、背後から包み込む様な体勢を取る。
 そして熱を持っているとわかる海璃の股座またぐらに手を宛がい、そっと触れてくる。そうされると、じんわりと痺れるような感覚が身体を走った。いままで感じたことのない刺激に、腰がひくりと疼く。

「ン、ンぅ! な、ン、か……ジンジン、する……あ、あン……」

 出したことの内容な甘ったるい自分の声に驚き思わず口を手で塞ぎつつも、今しがた得た刺激が忘れられない。海璃は、そっとそこに手を伸ばす。
 そこは熱く、小さくシミを作っていた。おもらしとは違う何かが、そこの――海璃の性器の先端から溢れているのがわかる。

「渡津海、どうしよ……俺、おもらし、してる……」
『そうではない、海璃……ここを、こうして扱いていくと、鎮まるのが速くなる』
「え、あ、ああぅ」

 もよおしていないのに、どうして……と、思っている最中も、布の上からそこを撫でる渡津海の手が停まらない。撫でるごとに、じわじわと甘い刺激が下腹部に響く。

「ン、ンぅ……ンあ、ンぅ……」

 誰にも聞かれたくない声なのに、こぼれるのが止まらない。着物の前をはだけさせ、下履きを露わにしているのはみっともないとわかっているのに、渡津海の手が停まってくれない。ただいまは、頭の中が甘い刺激を得たいということだけでいっぱいだ。
 くちゅ、くちゅという小さな水音が響き始め、いよいよ海璃の神経は下腹部への刺激に集中し、もっともっとと求めてしまう。そして、先程のまぐわいの話を思い出す。
 性器と性器を交じり合うと言っていた、まぐわいというものは、このように下腹部のこれを刺激し合うのだろうか。
 でも、渡津海は挿し込む、とも言っていた気がする。あれは、男女の話だけなのだろうか。次々と湧いてくる疑問が、海璃の聴覚を、自身が立てる水音に集中させていく。
 正座していた足を崩し、下履き越しの性器を突き出すような姿をとりながら、海璃はひたすらに甘い刺激を求める。いつの間にかゆるく腰を揺らしながら、一層の快感を求めていく。

「あ、なんで、あ、ああ、ん……」

 このようなことを、渡津海といつかするのだろうか。海璃が成熟したら、考えようというものは、こんなにもはしたないのだろうか。
 考えれば考えるほど、下履きの中の熱が上がり、体全体も熱くたぎっていく。渡津海の手は、まったく止まる気配がない。
 これがなにかわからない。でも、こうされているとすごく気持ちがいい……何も、他に考えられないほどに。

「ッはぁ、ッはぁ……あ、ああ、何か、出ちゃ、うぅ……」
『よい、海璃。そのまま吐き出せば、これは鎮まる――』
「あ、ああ、ン、ンぅ!」

 名を呼ばれ、そう囁かれた瞬間、海璃は下履きごと握りしめられていた性器がぜるように震えるのを感じた。そして、それは脈打ちながらわずかに何かを漏らしていく。
 渡津海の手の中に何かを排出する、そんなやってはいけないことをやってしまった――そんな罪悪感が海璃に中を駆け巡り、目の前が濡れて揺らいでいく。それまで穏やかに晴れていたはずの外の景色が、たちまちに揺らいで不穏になっていく。気が付けば、海璃は涙をこぼし、久方ぶりに子どものように泣き出していた。

「ごめ……ごめんなさい……俺、おもらし、した……」

 幼子のように泣き出した海璃に、渡津海が驚いて目を見開き、慌てた様子で袷から懐紙を取り出して海璃の手を拭う。そして、手際よく汚れてしまった下履きも拭いながら、努めて穏やかな口調でこう告げてくれる。

『ああ、泣くな。大事ない。海璃は大人になろうとしておるのだ』
「……大人? 俺が? おもらしじゃない?」
『違う。これは、精通と言い、海璃の体で精が熟してきたということだ』
「ふぅん……? 成熟したって言うこと?」

 先程の言葉を指しているのかと、確認する意味で問うてみたのだが、渡津海は難しい顔をして黙り込み、やがて、『……いや、それはだな……』と、言葉を濁しながら呟く。

『兎に角、海璃は何一つ悪いことはない。泣く必要も悲しむ必要もない』
「……うん」
『ムツには言い難かろう。儂が下履きを洗ってやろう』

 いままでであれば、渡津海の言葉にうなずき、着替えから何から頼っていたかもしれない。そうしてすぐに渡津海の懐に飛び込み、ぎゅうぎゅうと抱き着いて何かわからないモヤモヤした気持ちを発散させようとしたかもしれない。
 だけど、海璃はいまそうする気になれず、大きく首を横に振って、懐紙にまみれた股間を押さえながら答えた。

「い、いい……自分でやる」

 差し出される渡津海の手を振り切るように背を向け、海璃は隠すように前かがみになる。背を向けられた渡津海からは躊躇うような、窺うような気配がしていたが、あえて気付かないふりをした。
 海璃は悪くない、と言われても、下に関する失敗に違いはないと思えたので、この歳になって渡津海に世話をされるわけにはいかない。海璃にもささやかながらも矜持があるのだ。
 それが渡津海にも伝わったのか、やがて振り払われた手は引かれ、スッと立ち上がり去っていく。

『ならば、着替えを後でもって来よう。洗ったものは庭の裏にでも掛けておけばよい』
「……うん」

 去り際にそれだけを伝え、渡津海は部屋を出て行く。残された海璃は、途方もなく居た堪れない想いに苛まれながら、どろりと特有の粘りとにおいを放つ下腹部を拭い始めた。


 その晩から、海璃はひとりで湯あみをするように言われた。ほんのつい昨日まで渡津海と背中を流し合っていたのに、今宵から一人でやるようにというのだ。
 もう十七という齢なので、ひとりで湯あみができぬわけではない。しかし、突然これまでと違う対応を迫られ、戸惑いがないわけではない。ないわけではないが、やはりか、という思いも海璃にはなくはなかった。
 昼間の事情を知らないらしいムツは、「湯船で溺れないように気を付けてくださいね。あがったらすぐに体を拭くこと」など、幼子に言うような注意事項を並べ立てていたが、それがかえって海璃の戸惑いを紛らせてくれる。
 ひとりで浸かる湯船は、いつになく大きくて広い。そんなつもりもないのに、溺れてしまいそうなほどだ。

「……渡津海に汚いことさせちゃったから、湯あみ、一緒にしてくれないのかな」

 幼子ではないから、大人になってきているのだと言われたから。理由はいくらでもあるし、納得もいっているはずなのに、海璃は何故か妙に胸の奥がすかすかし仕方ない。寂しいに近いような、それよりも一層切ない、キリキリとした痛みを伴う。
 じわりと視界が滲み、泣きそうになっていく。きっといまここで泣いたら、渡津海が湯上りに抱きしめてくれるだろう。それはいつもと同じで嬉しくて安心するはずなのに……それだけでは物足りない気もしてしまう。寂しい。でもそれよりももって深いところがすかすかしている。
 寂しいと思うと、反射的に渡津海の姿が目に浮かび、わずかばかりに心がホッとする。そして同時に、もっと、と思ってしまう。もっと、渡津海を見ていたいし、いつものように触れて欲しい、とも。

「……え? なん、で……」

 ただ渡津海のことを考え、少し触れて欲しいと思っただけなのに……海璃の湯船の中の性器がゆらりとち上がりかけている。慌てて手で抑えようとすると、それすら刺激になるのか、性器はひくりと反応して硬度を増していく。
 硬度を増したそこは、湯の中でもわかるほど熱を持ち始めており、まるで先程の書庫でのようだ。

「ダメ、ダメ……汚しちゃう……」

 海璃は慌てて湯船から上がり、洗い場の椅子に座ってそれを見つめる。湯の中よりもはっきりと天を向いたそれは、またしても先端から透明な蜜をあふれさせていた。
 蜜をからめとり、そっと、海璃は勃起するそれに触れ、握りしめる。あの甘い痺れが腰を中心とした下腹部に走り、小さく声をあげた。
 やっぱり、気持ちがいい――そう、感じた時には、海璃は自分の性器をぎこちなく扱き始めていた。下履きの布地越しに触れるのとは違う、生々しい熱が、海璃の中の劣情を煽っていく。

「あ、あ、ンぅ……あ、ああ……渡津海……」

 性器を扱きながらよぎったのは、先程処理をするために触れていた渡津海の指先のぬくもり。それが、もし、海璃のそこ全体をもっと触れてくれたなら、包むように握りしめてくれたなら。そう考えるだけでどんどん手筒の中の熱は昂っていく。

「渡津海……渡津海……もっと、もっと、して……」

 何をどうしたいのか、海璃は解っていたのだろうか。それとも、本能が求めていたのだろうか。それすら海璃にもわからない。わかっているのは、海璃が渡津海を求めているということだ。
 幼い頃の口付けや頬ずりの延長のように、ただ無心に海璃は渡津海の名を呼び、もっとと乞う。その姿は湯に中てられただけでない赤さで彩られ、艶めかしくさえある。
 腰を無意識に揺らしながら、海璃は夢中で性器を扱いて熱をあげていく。先程味わった快感を、再び得るために。
 海璃――低く甘く、渡津海が囁くところを脳内に映し出したその時、海璃の手筒の中が爆ぜ、書庫の時よりも勢いよく白濁が吹き出してくる。

「あッ、ああ、う、ンぅ……!」

 震えながら、性器の先端からあふれる白濁を見つめ、海璃は暫し放心していた。細くしなやかな足のつま先まで真っ赤に染め上げて得た快感は、いまじわじわと彼の中で渦巻いている。
 なんて、気持ちが良くて……後ろめたくなってしまう行為なんだろう。まぐわいではないことで渡津海を想像して求め、手を、身体を汚してしまうなんて。

「こんなことさせちゃったから、渡津海、もう一緒に湯あみしないって言ったのかな……」

 そうなのだとしたら、あまりに悲しくてつらい。どうしようもなく渡津海のことを考えてしまうし、考えれば心地よさを伴うのに、ここに触れ、こうして汚してしまうし、渡津海には嫌がられてしまうなんて。

「……ごめんなさい」

 海璃は泣きながら湯船から湯をくみ上げ、白く汚れた体に浴びせ続ける。流れていく白濁は渦を巻きながら暗い溝の中へと吸い込まれていった。


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