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*終
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「渡津海、今日はどこまで行くの?」
良く晴れた朝、出来立ての朝餉の焼き魚を口にしながら、海璃は向かい合う渡津海に今日の予定を尋ねる。小首をかしげるその首筋をはじめとする美しい肌には、虹色の鱗がきらめている。
渡津海は煮物をつついていた箸を止め、少し考えたのち、ひっそりと微笑んで答える。
『久しぶりに、都留の方へ行こうと思う。海璃も来るか?』
随分と久しく出向いていない土地の名を聞き、海璃は箸を停めて目を瞬かせ、やがて少し伏せた。もう何年も前に出てきた村であり、楽しい思い出や記憶があるわけではない。それでもそこは、海璃が母親に産み落とされ、そして渡津海と出会った場所でもあった。
海璃の胸中と想いを察したのか、渡津海はそっと手を伸ばして海璃の手に触れ、やさしくさすりながら、訪問を提案した理由を口にする。
『宇美月の墓が、見つかったのだ』
「え……母さんの?」
海璃の母であった宇美月は、骨まで食べられたと思われていたのだが、最近になって街に出た海の者が、都留に伝わる人魚の伝説を聞き、そのゆかりの地を訪ねたのだという。
『小さくてささやかなものだが、都留の者が立てたらしい墓碑があるのを見つけた話を聞いたのだ。墓参りの代わりに、行っては見ぬか? その……海璃がイヤでなければ、だが……』
渡津海が気遣うような目で海璃を窺ってきたが、海璃は思ってもいなかった母親の痕跡に、胸がいっぱいになっていく。
溢れそうになる感情と涙をこらえながら、海璃は微笑んで答えた。
「母さんのところ、行きたい。行って、俺、渡津海のこと話したい!」
海璃の言葉に、渡津海は目を細めて微笑んで頷き、すぐさま控えていたムツに言いつけて支度を命じる。きっと、上等な着物を用意してくれるのだろう。
思いがけない知らせにまだ信じられない想いがしている海璃は、渡津海の手を握り返し、小さく微笑む。
「母さん、喜んでくれるかな……渡津海が、俺の伴侶なんだよって言ったら」
『そうだな。きっと、喜んでくれるだろう』
愛を知らなかった子が、不器用だった神に愛され、愛を知り、しあわせに暮らしている姿を見てもきっと喜んでくれるだろう――そんな想いを分かち合うようにふたりは手を繋ぎ合い、そっと顔を近づけて口付けをした。
それは幼い頃からの習慣でもあり、あの頃よりもさらに濃密に愛し合うふたりの愛情表現でもあった。
(終)
良く晴れた朝、出来立ての朝餉の焼き魚を口にしながら、海璃は向かい合う渡津海に今日の予定を尋ねる。小首をかしげるその首筋をはじめとする美しい肌には、虹色の鱗がきらめている。
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『久しぶりに、都留の方へ行こうと思う。海璃も来るか?』
随分と久しく出向いていない土地の名を聞き、海璃は箸を停めて目を瞬かせ、やがて少し伏せた。もう何年も前に出てきた村であり、楽しい思い出や記憶があるわけではない。それでもそこは、海璃が母親に産み落とされ、そして渡津海と出会った場所でもあった。
海璃の胸中と想いを察したのか、渡津海はそっと手を伸ばして海璃の手に触れ、やさしくさすりながら、訪問を提案した理由を口にする。
『宇美月の墓が、見つかったのだ』
「え……母さんの?」
海璃の母であった宇美月は、骨まで食べられたと思われていたのだが、最近になって街に出た海の者が、都留に伝わる人魚の伝説を聞き、そのゆかりの地を訪ねたのだという。
『小さくてささやかなものだが、都留の者が立てたらしい墓碑があるのを見つけた話を聞いたのだ。墓参りの代わりに、行っては見ぬか? その……海璃がイヤでなければ、だが……』
渡津海が気遣うような目で海璃を窺ってきたが、海璃は思ってもいなかった母親の痕跡に、胸がいっぱいになっていく。
溢れそうになる感情と涙をこらえながら、海璃は微笑んで答えた。
「母さんのところ、行きたい。行って、俺、渡津海のこと話したい!」
海璃の言葉に、渡津海は目を細めて微笑んで頷き、すぐさま控えていたムツに言いつけて支度を命じる。きっと、上等な着物を用意してくれるのだろう。
思いがけない知らせにまだ信じられない想いがしている海璃は、渡津海の手を握り返し、小さく微笑む。
「母さん、喜んでくれるかな……渡津海が、俺の伴侶なんだよって言ったら」
『そうだな。きっと、喜んでくれるだろう』
愛を知らなかった子が、不器用だった神に愛され、愛を知り、しあわせに暮らしている姿を見てもきっと喜んでくれるだろう――そんな想いを分かち合うようにふたりは手を繋ぎ合い、そっと顔を近づけて口付けをした。
それは幼い頃からの習慣でもあり、あの頃よりもさらに濃密に愛し合うふたりの愛情表現でもあった。
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