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*序章

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 赤い……朱色、とでも言うのだろうか。朱色の絨毯の敷かれた道を、ぼくは薄紫色の髪に同じ色の三角の耳を生やした白い着物を着た小さな女の子に導かれて歩いて行く。
 しかも、彼女は白いきつねのお面をつけていて、ぼくは和装の花嫁姿なのだ。いくらぼくが女の子みたいに華奢で背が低めだからと言って、花嫁姿だなんて。

 ――どこまで行くんだろう?

 手を牽かれながら、奥へ奥へと進んで行くその薄紫色の女の子の後ろ姿が段々と薄く白くなっていく内に、気が付けば手を牽いているのは、やっぱり狐のお面をつけた、輝くように白くて長い髪の若い男の人になっていた。

 ――あなたは、誰?

 白銀とも言える長いきれいな髪のその人は、よく見るとさっきの女の子のように三角の耳をつけている。色は髪と同じ輝くような白銀だ。

 ――犬……もしかして、狐の耳?

 ぼくの呟きが聞こえたのか、その人はぼくの方を振り返って嬉しそうに口元をほころばせる。 
 あ、笑った…… そう思った次の瞬間、彼はお面を取って切れ長な美しい目許を露わにしてぼくにこう告げてきたんだ。

『――……に、あなたを嫁に迎えにゆく……』
「え……?」 

 遠い鐘の音のように静かにお腹の中に響く声で、何かをぼくに囁かれた――というところで、目が覚める。 

 ――ぼくが……お嫁に……?

 不思議な夢を見て、まさに狐につままれるたような不思議な気分で目覚めたあの日……まさかあんな運命が待ち受けているなんて思ってもいなかった――

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