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家族
4.敵の予感
しおりを挟むカランコロン──。
また来客が来た。しかし、いつもの扉の音とはうって変わって、乱暴に開けられたような、違和感のある音だった。
それを不思議に思い、何故かこくりこくりと船を漕いでいる店主のレイを尻目に、俺は扉の方を見る。
男の子だった。まだ幼さの残る、一見して可愛らしい顔立ちの少年だ。
だが、目は人を小バカにしたような生意気な目付きをしていた。口など、笑顔というには程遠い、ニヤニヤした意地の悪い印象を与える形に歪ませている。
少年の愛らしさなど欠片もない、いじめっ子という形容が似合う客だった。
(おいおい……早々にお帰り願いたい相手が来やがったぞ……。)
面倒事はごめんだと思いつつ、船を漕いでいるこいつは未だこの少年の来店に気付いていない。
起こしてからどっかいくかとレイの近くに寄ろうとした時、ふと少年の方を見るとばっちり目があってしまった。
彼はそのまま、俺を凝視しながら近くまで歩いてくる。
はて、そんなに睨み付けられる様なことをした覚えはないのだが。
「おいお前。」
カウンター近くで、少年が立ち止まり声を掛ける。
目と同じく、口調も人をバカにしたような嫌な喋り方だった。
彼は続ける。
「お前、この能無しの召喚獣か?」
その言葉のあとに、彼はレイをちらりと見た。成る程、能無しとはこいつのことか。
「能無しかどうかは知らないけど、俺にとってこいつはマスターだよ。」
正直に答える。俺はここの店員ではないし、客として出迎える必要は無い。質問に答える義理もなければめんどくさいので実は早々に逃げ出してしまいたいというのが本音だ。
しかし、よく考えてみれば、この異世界に来て初めてレイの事をよく知ってそうな人に出会えたことになる。なんだか能無しとも言ってたし、多分年齢も同じくらいだ。恐らく知ってるんだろう。
勿論話を聞こうとしても、いじめっ子の印象もあるから、情報として聞ける部分はかなり脚色されていたり、あることないことしか喋らない気もする。が、もし話を聞けるとするならば、少し聞いておきたい、と思ったのだ。
しかし、その選択をすぐに後悔することになる。
少年はもともと歪ませていた唇を更に歪ませ、喉から絞り出すように息を吐く。
「くっ、くくっ、はっははははははは!!」
最初はなんだが理解できなかったが、いきなり大きく笑いだした。最初の吐いていた息だと思っていたのは、笑いをこらえていたのだろう。
耳にまとわりつくような、卑下た笑いだった。
「こ、こんな小さい、かっわいらしい生き物が隷属かよ……!ひっ、ふははははは!流石無能は違うなぁ……!」
ピクリと、無意識に片眉が動いた。こいつ、薄々感じてはいたが100%俺の嫌いな人種だ。
邪悪な顔に歪ませる彼の顔を見ていると、嫌悪感が襲ってくる。こういう時、身の毛もよだつというが、人間の頃より断然毛むくじゃらの俺は、少しの感情の機微で毛が立ってしまうらしい。頭の片隅で、そんなどうでもいいことを感心しながら、彼の次の行動を待った。
こんなことで怒りに身を任せて殴りかかるほど子供ではないつもりだ。というか、俺目線で見ると子供でも巨人に見える。正直立ち向かって勝てるイメージが湧かない。
ひとしきり罵倒しながら笑い終えた後、彼は落ち着いたのかあまつさえ流していた涙を拭い、こちらに向き直り、息を吸った。
「もう気はすんだかい?全く、随分と長いこと笑ってくれたじゃないか。」
彼が何かを発する前に、今までほぼ寝ていた彼女がいきなり口を開いた。
やっと起きたかとジト目で睨もうとして──驚く。
出会ってから日は立っていないが、こいつはいつも喜怒哀楽の激しい女だった。だが、どこかに余裕があるような、起こることさえ楽しむような気概さえあったのだ。
そんなこいつが、今、彼に対して鬼のような形相で睨んでいる。
それは、今まで見たことがない、激情を露にした顔だった。
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