異世界で黒猫やってます

チェス

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家族

5.勝負

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  「な、なんだよ……。」

  目の前の彼でさえ、レイの形相にたじろいだ。
  怒りというのはここまで表面に出てくるのかと、俺は戦慄する。普段のこいつの性格や立ち振舞いを、一緒に暮らして日が浅いとはいえ把握しているつもりだった。
  だから、こんなにも体裁を取り繕うことなく顔を歪ませ怒りに燃えているのが、少なからず俺を驚かせる。

  「まぁ、僕の事については今まで通りだから多目に見るつもりではいたけど……」
  
  ゆらり。とレイの体が揺れる。椅子から立ち上がっただけなのだが、まるで毒蛇が鎌首をあげたような、そんなイメージを叩き込まれた。
  彼女はゆっくりと、そのいじめっ子の近くへと歩き、頭一つ分高い男に、一切の躊躇を見せることなく堂々と睨み返し、言い放つ。

  「クロンは僕の家族だ。小さくて愛らしいのは事実だが、それを愚弄するのは許さない。家族だけは、馬鹿にするな。」

  ロリっ娘の迫力とは思えない、これだけは譲れないという信念のような重みを、その言葉から感じた。
  家族だなんだと、レイから言われている俺としては、かなり居心地が悪いのだが、嫌な気はしない。しかしやっぱりちょっと恥ずかしいので、レイの方をみていた俺は、顔をそらすようにいじめっ子の方を向いた。

  「──っは!  馬鹿にするななんて、良くそんなことが言えたなぁ落第生!!  本当のことを正直に言って何が悪い!  」

  レイの形相におののいていた彼は、気圧された雰囲気を取り払うかのように叫ぶ。言いたい放題のこいつにはかなり頭に来ているが、正直もうその辺にして帰って貰いたい。
  と、いうか、よくよく考えれば何故こいつは此処にいるのか。暇なのか?  それともレイの事が好きでちょっかい掛けているのか?  だとすると逆効果も逆効果。レイより身長は高いが、恐らく年齢的には15,6か……。
  
  「そうだ……お前、恐らく今年の練磨祭は出席しないんだろう……?」

  お前その年齢で好きな子へのアプローチ下手くそ過ぎるのどうなのとか考えていると、彼がしたり顔で話し掛けてきた。練磨祭……?  祭なのか?
  だとしても何の……?

  「毎度毎度、お前には苦渋を舐めさせられているがな……。純粋な戦闘力が試される練磨祭は、てめぇみてぇな雑魚は尻尾巻いて逃げるしかねぇだろうよ!」

  あぁなるほど、天下一○道会みたいなものか。この世界にはそんなものがあるんだな。しかも学生も参加できると。んー、てことは、ここは暴力が推奨される世界……?いや、ただ単純に必要になる世界か?

  「使い魔が強ければ或いは。そんな風に考えてた俺がバカだったよ!  あっはははぁ!!  そうだよなぁ、無能が呼ぶ使い魔なんて、所詮は無能だよなぁ!!!  」

  こいつ……単純に煽りスキルが高い!  この世界は煽りの英才教育でも受けているのか!?  

  「……何が言いたい。デリムル=ウィターソン。」

  ほらー、そんな風に煽るとうちの主人が買うでしょー。見た目通りにちょろかったり頑固だったりするんだからさ……。はぁ……。
  絶対零度と呼んで差し支えないレイの声に、しかしデリムルと呼ばれた男はたじろぐことなく言葉を重ねた。

  「俺が言いたいのは事実だけだ。あと、そうだな。お前と俺じゃあ圧倒的の力量差で俺が勝つ。これは当たり前だ。天地がひっくり返ってもこの事実がひっくり返ることは無いだろうよ!  」

  ほーん、単純に力だけじゃレイはあのくそ野郎に勝てねぇのか。まぁだからどうしたって話だけどさ。

  「だが、昨日召喚した俺の使い魔とお前の使い魔なら、話は別だと思ってな。」

  あ、嫌な予感。

  「お、おい、レイ…」
  「レイテクト=クローム。俺の召喚獣とお前のペット、どちらが強いか勝負がしたい。何、勿論断ってもよいのだぞ?  どちらに白星が光るか、もはや明白だからな!  あっはははははは!!」


 こいつ!  俺の台詞に被せて!!  いや本人は邪魔をしたと気付いてはないだろうけどムカつくな!!
  まぁ、伊達に三日間一緒に過ごしてないからな。流石にレイも俺が戦えないことは知って──

  「望むところだ……貴様が負けたらとりあえずクロンに謝罪しろ。」

  「──ちょっっっと待てぇぇぇぇぇぇぇ!!??  え、嘘だよな!?  嘘でしょ!?  戦うの?  俺が??  猫なのに!?」
  「はっ!  万が一、億が一俺が負けようものなら地べたに這いつくばって『僕は哀れな豚でございますぅ!  』と良いながら謝ってやるよ!  そんな未来こねぇけどな!  」
  「いや、いや待て!  なんでトントン拍子に俺が決闘しなきゃいけない流れになっている!!  俺の意思は!?  おいレイ!  聞いてるのか!!  」

  俺がわめき散らしていると、レイはちらりとこちらを伺い、すぐにあらぬ方向へと顔を背けっておいおいおいおい無視してんじゃねぇよこのロリっ娘がぁぁ!!

  「よし、決まりだな……。吠え面かくなよ底辺共!  」

  このムカつく野郎は気障ったらしく指を弾くと、彼の後ろに魔法陣が現れた。幾重にも重なった紋章。紫色のその陣は、目映いほどの光を放ちながら回転を始めた。

  「む。この紋様は『鳥』。色は紫故に『中層』クラス。文字は現代語の『オール』か。しかしでかいな。」
  
  レイの呟きに、彼はぐっと唸る。しかしすぐにその顔に余裕の笑みを張り付け、叫ぶ。

  「気味は悪いが正解だよ底辺……。こいつがてめぇのペットをズタボロにする怪鳥。“タンドリス”だ!!」
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