異世界で黒猫やってます

チェス

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家族

6.始め!

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  魔法陣の中から、徐々に姿を現す鳥がいた。
  人間より遥かに大きく、ついばまれた瞬間に肉が抉れるだろうと容易に想像できるくちばしは立派だった。
  
  「ふむ。大方予想通りだが、しかし“タンドリス”か……随分と君に似た、良い召喚獣じゃないか。」
  「あっはは!  そうだろうそうだろう!  俺のタンドリスは最強だからな!!」

  いや、恐らく皮肉で言ってるんだと思うぞいじめっ子。例えば……そうだな。このタンドリスとかいう怪鳥。体躯は鶏に近いし、『三歩歩けば忘れてしまう鳥頭』と揶揄されていると見た。
  いやこの世界に鶏いるかどうかわかんないし、そもそも鶏の記憶力なんかに興味ないかも知れないから全く別物かも知れんけど。

  もう一度、ちらりとタンドリスなる鶏を見る。
  赤い鶏冠のようなものがある。しかしその先端はどれも尖っていて、刺されればひとたまりもないことは一目瞭然だ。
  体毛は緑と黄色のグラデーション。若干白い筋のような色もあるが、全体的に毒々しい。
  ここファンタジー世界みたいだし、毒のブレスとかも出すやつがいるんだろうなぁ。と冷や汗をたらしながらどこか他人事のように思案する。

  というか、待ってほしい。俺今からこいつと勝負しなきゃいけないわけですか?  ホワァイ?  死ぬよ?俺即死するよ?
  この三日で理解できたことは、俺が本当にただの猫だと言うことで、魔法も使えない、身体能力もしなやかさと俊敏さと動体視力がお高いくらいの歴とした愛玩動物ですよ?
  いや勝てんじゃろうて。勝てませんよ?  そのくらいわかるよね、わかってくれるよねレイ!

  「デリムル=ウィターソン。僕のクロンを見くびったこと、未来永劫、輪廻の回帰に至るその刹那でさえ後悔させてやる。」

  分かってくれてない!  何故だ……力の差は明白だろうが!  というかお前難しい言葉好きなのか!?  中二病なのか!!

  「あ、頭おかしい文言並べてんじゃねぇよ!  何言ってんのかさっぱりわかんねぇ!」

  伝わってねぇぞレイ!  というか、正直俺もデリムルと同意見だ!!
  そんな俺のツッコミを他所に、彼女は頭をコテンと横に倒しながら答える。

  「?  何故わからんのだ?  デリムル=ウィターソンは君の名前だ。僕のクロンというのはクロンは僕の隷属に位置するという然り気無い自慢だ。見くびるという言葉は君も使っていたが、要するに甘く見ることという意味で、未来永劫というのは」
  「うるせぇ!  んなこと言ってんじゃねぇよ気味悪いな!」

  お前ら実は仲良しだろ。
  最初の険悪な雰囲気はどこへやら。正直俺はもう面倒になってこのまま眠りこけてしまいたくなった。
  というかレイ。
  お前絶対友達いないだろ。
  寧ろこうやって曲なりにもお前に話しかけてくるこのデリムルなる者は貴重なのではないか?

  やいのやいのと言い合うレイ達は、しかしこの勝負を有耶無耶にして無かったことにするつもりはないらしい。もうすでに俺の飼い主は『僕のクロンの方がその訳もわかんない怪鳥より強いもんねー!  』とか言い始めてるし。というか化けの皮が外れてるぞレイ。口調が素に戻ってる。

  はぁ、とため息を一つ吐き、俺はカウンターから床に着地する。そのまま店のドアの前まで歩き、くるりと後ろを振り替えった。

  「あー、おほん。仲良く喧嘩している最中申し訳無い、まず最初に勝負内容について決めておこうと思ってな。」

  俺が声を発すると同時に、人間二人はこちらに振り向いた。
  仲良く喧嘩、という部分に遺憾を覚えている様子だったが、まともに取り合っては埒が明かないので無視して続きを喋る。

  「俺は正直言って面倒だしやりたくはない。が、こちらの出した勝敗条件を飲むというのであればその勝負、やってやらんこともない。」

  普通に戦ったら死ぬしな。

  「ほぉ、ならば貴様の出す勝敗条件とはなんだ。言ってみろ。ん?」

  人を小バカにした笑い。いやまず俺は人ではないんだけど、しかし腹が立つな。まぁいい。少なくともこちらを舐め腐っているのに漬け込ませてもらおう。

  「制限時間を設ける。ただこれだけだ。時間は十分。その間にそこの鶏が俺を戦闘不能にさせればお前の勝ち。そうでなければ俺の勝ちだ。」

  「ふ、ふっははは!  楽勝じゃないか!!  十分もあれば貴様なぞ百回は殺せるぞ!」

  不吉なこと言うなよ。こえぇわ。
  ともあれ乗ってくれて助かった。あとは死なないようにするだけだな。……めちゃくちゃ気が重いけど。

  ちらりとレイの方を見る。彼女は不安そうな面持ちでこちらを見ているが……いやお前心配そうにする権利無いからな!?  売り言葉に買い言葉で人をポ○モンみたく扱うんじゃねぇ!
  尻尾をぴしゃりと床に打ち付けて、俺は抗議の念を示す。しかしレイは可愛らしく首を横に傾げるだけで、意図を汲み取ってくれた様子はない。

  よし、あいつ後で引っ掻くか。地味に痛い猫の引っ掻き舐めんなよ……。

  「それじゃあ始めるとするか。」

  デリムルは静かにそう言うと、右手を上にあげて宣言した。

  「勝負、始め!!」
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