22 / 46
act21 吾想フ故ニ吾在リ
しおりを挟む
「ねえ、聴いてないよね?」
匠がキッチンに立つ蛍子の後ろから腰を掴んだ。
今日は珍しく早帰りで、一緒に夕食をとることができる。
「大学時代もそうだったよね」
蛍子は指摘されるまで気づかなかったが、
よく上の空で軽音部屋の窓から外を眺めていたらしい。
「あのとき何観てたの?」
なんだろう。虫?鳥?空…
多分、そこに在るもの、は観ていなかったように思う。
原は哲学者なのです!
と、強がってみた。
蛍子はいつも何かを考えている。
考えようとしなくても、脳内にふつふつと湧き上がってくる
命題たち。
服を着替えるとき、トイレで、風呂で、
歩く道々、電車の中、スーパーで買い物をしているときも、
寝る前も。
ひとつの想念がさらに別の想念を呼び、常に頭が思考の大運動会である。
逆に、世のひとたちは、思索にふけることはないのだろうか。
思い返せば、子どもの頃からずっと心ここに在らずだった。
何かに没入するタイプの人間には多い傾向だと思うが、
今なら、「発達障害グレーゾーン」くらいの診断が下るかもしれない。
少なくとも、日常生活に著しく支障をきたすわけではないから
問題ない。
と、本人は思っているが、周りが判断することかもしれない。
なんといっても、匠が
「そういうところも面白かった」
と、笑ってくれるので、好しとする。
何も考えていないのは、楽器を触っているときと…
匠と睦みあっているときだけ、か。
蛍子は耳が熱くなるのを感じた。
「何考えてたの?僕のこと?」
匠が蛍子の腰に腕を回し、そのまま抱き締める。
「原家のハヤシライス、おいしいよね」
そう言いながら、匠は蛍子の首筋に軽く噛みついた。
蛍子は、ルーをかき回していたお玉を鍋の中に取り落とす。
何を考えていたかって、今日学校であったことや、
子どもたちの置かれている危機的状況と
フェミニズム的観点における課題、世界平和。
なのに、
もう!
と、怒る声に媚態が混じってしまうのが情けない。
匠は腰に巻いていた手を胸に移してきた。
蛍子の口から吐息が漏れる。
ハヤシライスは、後、だ。
匠がキッチンに立つ蛍子の後ろから腰を掴んだ。
今日は珍しく早帰りで、一緒に夕食をとることができる。
「大学時代もそうだったよね」
蛍子は指摘されるまで気づかなかったが、
よく上の空で軽音部屋の窓から外を眺めていたらしい。
「あのとき何観てたの?」
なんだろう。虫?鳥?空…
多分、そこに在るもの、は観ていなかったように思う。
原は哲学者なのです!
と、強がってみた。
蛍子はいつも何かを考えている。
考えようとしなくても、脳内にふつふつと湧き上がってくる
命題たち。
服を着替えるとき、トイレで、風呂で、
歩く道々、電車の中、スーパーで買い物をしているときも、
寝る前も。
ひとつの想念がさらに別の想念を呼び、常に頭が思考の大運動会である。
逆に、世のひとたちは、思索にふけることはないのだろうか。
思い返せば、子どもの頃からずっと心ここに在らずだった。
何かに没入するタイプの人間には多い傾向だと思うが、
今なら、「発達障害グレーゾーン」くらいの診断が下るかもしれない。
少なくとも、日常生活に著しく支障をきたすわけではないから
問題ない。
と、本人は思っているが、周りが判断することかもしれない。
なんといっても、匠が
「そういうところも面白かった」
と、笑ってくれるので、好しとする。
何も考えていないのは、楽器を触っているときと…
匠と睦みあっているときだけ、か。
蛍子は耳が熱くなるのを感じた。
「何考えてたの?僕のこと?」
匠が蛍子の腰に腕を回し、そのまま抱き締める。
「原家のハヤシライス、おいしいよね」
そう言いながら、匠は蛍子の首筋に軽く噛みついた。
蛍子は、ルーをかき回していたお玉を鍋の中に取り落とす。
何を考えていたかって、今日学校であったことや、
子どもたちの置かれている危機的状況と
フェミニズム的観点における課題、世界平和。
なのに、
もう!
と、怒る声に媚態が混じってしまうのが情けない。
匠は腰に巻いていた手を胸に移してきた。
蛍子の口から吐息が漏れる。
ハヤシライスは、後、だ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる