かりそめの永遠ーアナタに逢えてよかった

てるる

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act23 匠の秘密

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「自滅してくれてよかった」


匠は蛍子をいつになく乱暴にベッドに押し倒し、きつく抱き締めた。

匠は無駄な肉の一切ついていない、しなやかな身体の持ち主だ。
触ると服の上から見るよりは、筋肉に量感がある。
喘息があったので、子どもの頃から水泳を続けていたらしい。

蛍子が息苦しくなって逃れようとすると、さらに腕に力をこめた。
痛いから嫌だと言うのに、力を緩めようとしない。
いつもと違う荒々しい匠の様子に蛍子は気圧され、
小さく叫び声を上げて、匠をはねのけようとした。
自分でも意外なほどの拒絶的な反応である。

匠は身体を起こし、蛍子に背を向けて座り直した。


「僕のこと、嫌いにならないで」


蛍子は呆気にとられた。

しばしの沈黙の後、
声を詰まらせながら、匠が語ったのは、かいつまんで言えば
つまりこういうことである。


匠は父と死別して、今は母子家庭だ。
きょうだいは居ない。
父は優秀なSEで(と、言われても、近しい親族で
会社勤めをしている者がいないので、蛍子にとっては
未知の世界だが)ストレスのせいか匠が生まれる前から
妻に対する暴言・暴力が耐えず、散々暴れまくった挙句、
ある日突然自ら命を絶った。
匠が高校生のときのことである。
幸い、両親ともに実家が裕福であったことから、
経済的な困窮に陥ることはなかったというが、
長年面前DVにさらされてきた
匠は精神的に結構なダメージを受けていただろう。


「本当は、つきあう前に言わないと
いけないと思ってたんだけど」


蛍子に拒否されるのが怖かったという。

愛情深い家庭で何不自由なく育った蛍子に、
そんな自分は、相応しくないとはわかっていたけれど、
どうしても蛍子と一緒になりたいと思ったから、と
肩を震わせた。


「どこにも行かないで」

はらはらと涙をこぼす背中に、蛍子はそっと
身を寄せて、後ろからしっかりと抱き締めた。

ひとを寄せ付けようとしない孤高のギタリスト、
匠にまとわりつく翳りとは、そういうことであったか。



先輩、大好きですよ
これからもずっと


「涙は女の最終兵器」

というが、蛍子にすれば、男の涙のほうが威力が高い。

弟以下、いとこはみんな太郎である。
男の子がぴーぴー泣くのは見つけているし、慣れている。
逆に女の子が泣くと、めそめそするな!と思うくらいだが、
成人した男が泣くのを見るのは初めてである。
1学年とはいえ、先輩として見上げている男に涙を
見せられると、たまったものではない。


わたしがこのひとを護らないといけない


匠が恐らく自分にだけ開示した「弱さ」。
それが意味するところを思い、すべて受け止める
覚悟を固めた。


蛍子は、自ら身につけているものをすべて脱ぎ去り、
ベッドの下に落とすと、
匠の胸のボタンも外しにかかった。

いつの間にか日は落ち、カーテンを閉め切り電気をつけていない部屋は
いい感じの薄暗がりになっている。

たっぷりと塩はゆい口づけを交わした後、身体を離すと、
蛍子は匠をシャワーに誘った。
決してスタイルがいいというわけではない
自分の裸身を匠の目の前にさらすのは、ずっと
気づまりだったが、匠の勇気ある告白の前では、
そんな羞恥など些末なことだ。
自分の肌身で匠の傷ついた心が少しでも慰められるなら、
そうしたいと、蛍子は心から思った。


そのまま匠の部屋で、ふたりは初めて夜を共に過ごした。

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