かりそめの永遠ーアナタに逢えてよかった

てるる

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act31 僕の恋人

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なんとかなだめようと、匠は暴れる蛍子を力尽くで
抑え込みキスして、身に着けているものを引きはがし、
いつもよりさらに優しく、蛍子の中に入っていった。
泣き疲れてぐんにゃりした蛍子の熱い身体を抱きすくめ、
匠はかわいそうに思いながらも、少しばかり嗜虐精神も
満たされていた。
自分の中にも父親と似た暴力性が
潜んでいるのかと思うと、ゾッとしたものだが、
以前それを訴えると、蛍子が笑いながら
「合意なら、いたずら心でいいのでは?」
と訂正してくれたので、以来残念な男の本能として受け止めている。
蛍子はもはや抗うこともなく、匠の下でされるがままである。
匠の動きに合わせて、息を弾ませ、髪を乱す。
堅く絞った目元のまつ毛に宿る涙の粒。
細っそりとした首がのけぞり、
透明感のある肌に赤みが
差していくのに、匠は魅了される。



僕だけしか知らない原蛍子。

普段はひとの様子など気にも留めない匠だったが、
初めて蛍子をサークル・ボックスで見かけたとき、
なんて姿勢のいい子なんだろうと強い印象を受けた。
佇まいが清々しい。
キーボードを弾かせれば、どんなアレンヂにもすぐ応える。
匠のギターの技量に余裕をもってついてくるどころか、
ときに走りすぎるギターとドラムさえ、御してくれる。
蛍子のピアノに卓抜したセンスを感じて匠が
自分のバンドにスカウトしたときは、はにかみながら、

「匠先輩のご期待に応えられますように!」

と、気持ちよく受けてくれた。

バンドや音楽のことで議論になると、
新入生として遠慮がちではあったけれども、
自分の考えを伝えることに物怖じしない。
誰に阿ることもなく、真直ぐにひとの目を見る
蛍子に、匠はどんどん興味を引かれていった。

それは、他の先輩たちも同様だったようで、
夏休み前には、みんなが大なり小なり、
蛍子の隠れファンになっていた。
公言しなかったのは、他の1年生の嫉妬を買うであろうという
彼らなりの配慮である。
蛍子はそのとき自分にそんな人生何度目かわからぬモテ期が
訪れていたとは露も知らず、変わらず先輩たちの輪の中で、
形のいい口を開けて笑っていたのだが。

堂々とファン宣言していたのは、ヨーコ先輩である。

「ケーちゃん、いいよねー」

ドラムスティックをくるくる回して、言う。

「欲しい」

目を細めて舌なめずりする姿は、宛らゴルゴンである。


このひとなら、やりかねん。

匠は本気で怖いと思った。

このままでは、蛍子がヨーコの毒牙にかかる!

さりとて、蛍子には、一切隙がない。
むしろ男嫌いとしか思えない、潔癖なお姫さまだ。
どちらかといえば、エロカッコいいヨーコ先輩の
ほうに分がありそうだ。
匠は、いくらモテると言われても、肝心の蛍子に
振り向いてもらえなければ意味がない、と
歯噛みをする思いだった。
どうにか距離を縮めようと、セッションを提案しても、
目を輝かせてうれしそうではあるけれど、
蛍子はバンド活動の一環としてしかとらえてくれない。

そして、匠には誰にも言えない家の事情があった。
もし、振り向いてもらえたとしても、
このハードルがクリアできるのだろうか。
自分が逆の立場なら、無理、だ。

もういっそあきらめて、先輩と後輩として、
ギタリストとキーボーディストとして、
密な関係を結べばいいのではないだろうか。
自分のような人間には、それで十分ではないのか。

蛍子をあきらめる?

このとき、初めて匠は自分が恋に落ちたことに気づいた。

蛍子を自分のものにしたい。
誰にも奪られたくない、渡したくない。

何故か、心に強くそう響いたのだ。

これが恋というものなら。

小池匠、一世一代の恋だ。
ならば、いつかどこかで当たって砕けろ!

それまで、誰も原蛍子に近づくな!

匠は熱心に蛍子をセッションに誘い、
何喰わぬ顔をして蛍子の時間を巧妙に奪っていった。

いつしか、蛍子の部屋には、学部の友だちが
誰も遊びに来なくなっていた。

「ハラちゃん、軽音忙しそうだもんね」


心の距離は一向に縮まらぬまま、
蛍子は知らず、いつも匠の隣に控えるお小姓のように
なっていた。
多少のやっかみは避けられないが、誰からも意地悪はされなかった。
もはや公認の関係である。バンドの仲間として、だったが。

そして、あの事件が起きたのである。

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