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act34 蛍子ちゃん
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今この瞬間もそのときの指輪が左手の薬指で光っている。
自分のではなく、匠の誕生石を選んだのは慧眼だと蛍子は思う。
3月生まれの魚座の匠。
誕生石はアクアマリン、石言葉は「沈着・聡明・勇敢」である。
元々魔除の意味があったであろう装飾品だ。
いつも匠に護られている気分で悪くない。
匠は指輪はつけない。
もちろんギターの邪魔になるからだ。
「結婚式は和式?洋式?」
「トイレかよ!?」
爆笑。
結婚式してないんだよね
察しのいいのがいるようで、一瞬教室が静まり返る。
写真だけ撮って、バンドのみんなにお祝いしてもらった
教室の空気がまたほどけて、
「ロマンチック!」
と、生徒たちは喜んでくれたが、実のところ、
彼らがワケアリかと気遣ってくれた通りだったのだ。
一族のお姫さまの結婚となると、祖母やおばたちが
大コ―フンで、たいへん盛り上がったようだが、
匠のところには、披露宴に招べるような親戚が居ない。
母は家付き娘、父方の祖父母は既に他界、
父には姉が居たが、疎遠であったし、
独身だったので、匠にはいとこも居ない。
ほぼ天涯孤独である。
そんなことで、蛍子が匠に遠慮をして、
入籍だけすることにした。
原家の女たちはたいへん落胆したが、祖母と母は、
蛍子のウェディング・ドレスを選ぶことで満足を
してくれた。
ウェディング・フォト用のスタジオで、花嫁さまを作ってもらい、
「馬子にも衣装」
と蛍子は、鏡の中のウェディング・ドレス姿の自分に見入った。
シフォンのドレープを活かした軽めのドレスだ。
髪もヘッド・ドレスも、ガーデン・ウェディング向けの
ナチュラルなアレンヂである。
匠はグレーのタキシード、シルクハットつき。
「コスプレみたい」
と照れくさそうに笑う。
「アリスを思い出すね」
そう。
文化祭のときだった。
「不思議の国のアリス」をフィーチャーして
演奏をしたことがあった。
ドラムのヨーコ先輩は、もちろんハートの女王。
ドラムセットに隠れて衣装がよく見えないのが
残念だった。
ベースの先輩は、ウサギ。
ヴォーカルの先輩がチェシャ猫。
匠がマッド・ハタ―で、蛍子がアリス。
ヨーコ先輩がロリータ・ファッションのレンタルで
選んでくれたアリス風の衣装だった。
「あれ、かわいかったね」
容姿端麗といわんよりは、眉目秀麗な蛍子である。
「かわいい」という形容詞とは、小学校上がって以降は無縁で、
ロリータ・ファッションなど、選択の余地はなかった。
しかし、バンドのコスチュームとして着るなら、やぶさかでない。
変身願望が満たされ、楽しかった。
そのときのはっちゃけ写真は、蛍子の宝物である。
そして、また宝物が1枚増える。
後から目も当てられない、結婚式ハイのラブラブ写真は
ご勘弁という匠の強い意向もあり、
スタジオの外のイングリッシュ・ガーデンの中で、
いたって自然な感じで撮ってもらった。
これなら年賀状にしても、引き伸ばして飾っても
恥ずかしくないだろう。
多分。
どんな格好をしてもスマートな匠に惚れ惚れとして、
「胡散臭い英国紳士みたいだね」
と蛍子が照れ隠しにからかうと、
「きれいだよ」
匠がそっと囁いた。
「蛍子ちゃん」
「せんせい、来週でオシマイだね!」
あいさつでも、そんなことを言って名残を惜しんでくれる
生徒が愛おしい。
このまま、終わりたい!!
蛍子は切に願った。
次は、最後の地獄が待っている。
自分のではなく、匠の誕生石を選んだのは慧眼だと蛍子は思う。
3月生まれの魚座の匠。
誕生石はアクアマリン、石言葉は「沈着・聡明・勇敢」である。
元々魔除の意味があったであろう装飾品だ。
いつも匠に護られている気分で悪くない。
匠は指輪はつけない。
もちろんギターの邪魔になるからだ。
「結婚式は和式?洋式?」
「トイレかよ!?」
爆笑。
結婚式してないんだよね
察しのいいのがいるようで、一瞬教室が静まり返る。
写真だけ撮って、バンドのみんなにお祝いしてもらった
教室の空気がまたほどけて、
「ロマンチック!」
と、生徒たちは喜んでくれたが、実のところ、
彼らがワケアリかと気遣ってくれた通りだったのだ。
一族のお姫さまの結婚となると、祖母やおばたちが
大コ―フンで、たいへん盛り上がったようだが、
匠のところには、披露宴に招べるような親戚が居ない。
母は家付き娘、父方の祖父母は既に他界、
父には姉が居たが、疎遠であったし、
独身だったので、匠にはいとこも居ない。
ほぼ天涯孤独である。
そんなことで、蛍子が匠に遠慮をして、
入籍だけすることにした。
原家の女たちはたいへん落胆したが、祖母と母は、
蛍子のウェディング・ドレスを選ぶことで満足を
してくれた。
ウェディング・フォト用のスタジオで、花嫁さまを作ってもらい、
「馬子にも衣装」
と蛍子は、鏡の中のウェディング・ドレス姿の自分に見入った。
シフォンのドレープを活かした軽めのドレスだ。
髪もヘッド・ドレスも、ガーデン・ウェディング向けの
ナチュラルなアレンヂである。
匠はグレーのタキシード、シルクハットつき。
「コスプレみたい」
と照れくさそうに笑う。
「アリスを思い出すね」
そう。
文化祭のときだった。
「不思議の国のアリス」をフィーチャーして
演奏をしたことがあった。
ドラムのヨーコ先輩は、もちろんハートの女王。
ドラムセットに隠れて衣装がよく見えないのが
残念だった。
ベースの先輩は、ウサギ。
ヴォーカルの先輩がチェシャ猫。
匠がマッド・ハタ―で、蛍子がアリス。
ヨーコ先輩がロリータ・ファッションのレンタルで
選んでくれたアリス風の衣装だった。
「あれ、かわいかったね」
容姿端麗といわんよりは、眉目秀麗な蛍子である。
「かわいい」という形容詞とは、小学校上がって以降は無縁で、
ロリータ・ファッションなど、選択の余地はなかった。
しかし、バンドのコスチュームとして着るなら、やぶさかでない。
変身願望が満たされ、楽しかった。
そのときのはっちゃけ写真は、蛍子の宝物である。
そして、また宝物が1枚増える。
後から目も当てられない、結婚式ハイのラブラブ写真は
ご勘弁という匠の強い意向もあり、
スタジオの外のイングリッシュ・ガーデンの中で、
いたって自然な感じで撮ってもらった。
これなら年賀状にしても、引き伸ばして飾っても
恥ずかしくないだろう。
多分。
どんな格好をしてもスマートな匠に惚れ惚れとして、
「胡散臭い英国紳士みたいだね」
と蛍子が照れ隠しにからかうと、
「きれいだよ」
匠がそっと囁いた。
「蛍子ちゃん」
「せんせい、来週でオシマイだね!」
あいさつでも、そんなことを言って名残を惜しんでくれる
生徒が愛おしい。
このまま、終わりたい!!
蛍子は切に願った。
次は、最後の地獄が待っている。
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