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カケル恋の指南2

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身近には、誰も居ない。
俺の身近は、職場と読書会と商店街くらいだ。
独女、ゼロ。
居ても、おばあちゃん。


「文子先生」


三度俺はマンガみたいに吹き出してしまった。


「汚いなあ」


「スマン、て、なんで文子先生なんだよ?」


俺は、ひよこ豆の意外な発言に本気で驚いた。


「文子先生は、育休明けで職場復帰されました」


そうですね。
で、それが、何か?


「家庭と仕事の両立がたいへんだと言っていました」


「そんな話、聴いていないよ、俺は」


それはごく当たり前のことだと認識してるしな。
子どもが小さいうちは、母親の手がかかるものだ。
どうしても女性に負担が大きくなる。


「僕たちの後学のために、と
授業のとき、結構赤裸々に結婚生活について
語ってくれるんですよ、文子先生」


「セキララ」


「何期待してるんですか?」


「してません」


俺が、文子先生をそんないやらしい目で見ると
思っているのか、失敬な。
艶笑譚を共有する仲だぞ!


ナマイキなひよこの話では、文子先生のダンナさんというのは、
何をしているのか知らないが、物理的に育児にかかわることが
不可能らしい。
朝早くから夜遅くまでバリバリ働く有能なサラリーマンなのだろう。
土日もほとんど家に居ないそうだ。
ふたり目が欲しいと言ったら、
「ひとりでふたり育てる気?」と訊かれたらしい。
文子先生は、父親がこんな働き方しかできなかったら、
少子化するのは当たり前だ!とご立腹で、生徒たちに、
将来の人生設計をよく考えるように言ったとか。


「産後クライシスです」


それは、1年未満を指すものだと思ったけどね。


「女の先生の離婚率高くないですか?」


うん、そんな気がする。
給料格差がないし、女性に優しい職場ではあるからな。
離婚を決断しやすい環境だと思う。
なんだか皮肉な話だ。


「て、文子先生が離婚をほのめかしていたのか!?」


俺はとても慌てた。
もしそんなことがあるなら、まず俺に相談して欲しい。
そこまで近しい間柄かどうかはわからないけど。


「全然」


「なんだよ、もう」


「でも、そういうことがあれば、せんせいのチャンスです」


「やめてくれよ、そういうの。
俺は文子先生大好きだけどな、自分のために
好きなひとの不幸を願うような卑劣な男じゃないぞ」


「だからですよ」


ひよこは口の端を上げた。


「創作としては、なかなか面白い展開になりませんか?」


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