7 / 409
第一部 嫉妬と情愛の狭間
第7話 背中の痕 其の一
しおりを挟む唾液に含まれる神気が濃くなったのか、森の木々にも似た神気の香りが鼻腔を掠めれば、それだけで背筋をぞくりとしたものが駆け上がる。
同時に。
再び、ぐうるりと。
そしてどくりと、蠢く腹の奥。
直接、神気を取り込んだわけではない。ただ舐められただけだというのに、最奥の残滓が神気に反応して、身体が熱くなる。
「……知ってる……よ」
この切なくも感じる熱さに、灼かれ続けたいと思ってしまう。
「でもね……とっても痛そうだから……」
だから治したい。
背中にくっきりと付いた八本の引っ掻き傷。下へいくほど、皮膚が抉れたようになってしまった傷を、治したかった。
竜紅人の唇が、耳元から離れる。
欲の孕む伽羅色が、とても近い。
ふっ、と息を吐くように、彼が笑う。
熱い吐息が唇にかかるほどの近いところで、紡がれる言葉。
「この傷は痛みを感じる度に、お前を思い出すから……堪んねぇんだけどなぁ」
「──……っ!」
「言い出したら聞かないもんな、お前は」
いつの間にか顔に手を添えられて、重なる唇。
「……んっ」
深く深く合わさりながら、やがて口腔内に、甘水のような唾液が送られてくる。
それは今までのどれよりも、濃厚な神気を含んだ唾液だった。
きゅう、と腹の奥が反応して締め付けられる。香彩は無意識の内に、臍部の下辺りを押さえた。
卑猥な水音を立てて唇が離れる。
口の端から含み切れなかったものが、顎から首筋に伝うが、香彩は構うことなく、与えられた甘いものを飲み込まないように気を付ける。
竜紅人が背中を向けた。
目の前に現れた、生々しい八本の引っ掻き傷に、どきりとする。
使いすぎてふるりと揺れる、内股の震えに耐えながら香彩は、竜紅人の背中の前に座った。
おずおずと、背中に触れる。
ぴくりと竜紅人が動いた気がした。
丁度、肩甲骨の辺りだろうか。
与えられた神気を含んだ唾液を、塗り付けるようにして、香彩は引っ掻き傷の一本を、ゆっくりと舐め上げた。
舌に残る真竜の血液の味は、人形を執っているからだろうか。人と同じような味がした。
ただ違うのは。
「──……っ、はぁ……っ」
真竜の体液には、催淫の効果があることだ。
それは血液も同様だった。
幸いにも引っ掻き傷の一本は、綺麗に消えていた。だが神気を取り込んだことで、最奥に潜む竜紅人の熱が反応して、腹の奥は畝るような動きが増すようだった。
腹の蠢きの所為なのだろうか。
どぷ、と音を立てて、後孔から熱が溢れ出してくる。
その音すら、竜紅人は聞こえているのかもしれない。考えるだけで恥ずかしくて、身体は嫌でも熱くなる。
(……これを……あと、七回……)
言い出したのは自分だ。
痛そうな引っ掻き傷を、治したいと思ったのも本当だ。
だが果たして、全ての傷を治し終えた後に、自分がどんな風になっているのか、全く想像が付かなかった。先程の交わりの途中を、あまり覚えていないことが悔やまれる。
竜紅人が何かを聞いていた。それに対して自分が何を口走ったのか、本当に記憶にない。
それほどまでに、乱れてしまったのだ。
(……竜紅人に、すごく迷惑をかけてしまうかもしれない)
傷を治したいと言い出したのは、自分だと言うのに。
湯殿に一緒に入る為に、背中の引っ掻き傷を治していたけれども、やはり運んで貰うだけにしようと香彩は思った。
湯殿で色々と洗い流して、自身を慰め鎮めれば治まるはずだ。
本人を目の前にして、快楽のあまりに縋って、何を口走ってしまうか分からない。もう一度求めてしまうかもしれない。
香彩は小さく息を付いて、引っ掻き傷に少し掛かっている竜紅人の伽羅色の髪を、手でそっとよける。
少し湿っているような気がした。
あれっと香彩が口に出せば、竜紅人が納得したように、ああと呟いた。
「さっきな少し、水を浴びた」
「水? どうして?」
「……ちょっとな。まぁ、無駄だったけど」
「?」
香彩がきょとんとした表情を浮かべる。
自分の身体を拭く為の湯を取りに行った時に、どうして水を浴びる必要があったのか、分からなかったのだ。汗を流すにしろ、身体を清めるにしろ、湯殿があるのなら、湯に浸かった方が気持ち良いだろうにと、香彩は心の中でそう思う。
そんな心情が香彩の表情にでも、現れていたのだろうか。竜紅人は面白そうに、くつくつ笑いながら背中越しに振り返り、香彩の頭を撫でる。
「──熱を鎮めるには、手っ取り早いだろう?」
「熱って……──!」
そう言葉にした途端、竜紅人の言っている意味が分かってしまって、香彩は再び顔に朱を走らせた。
熱の意味も、無駄だと言った意味も。
何故なら面白そうに笑う彼の、細めた伽羅色の目の奥は先程から、ぎら、と揺れているのだ。
劣情の熱に。
(……ああ、やっぱり)
足りなかったのかと香彩は思った。満足出来てなかったのだと心内で思いながら、香彩は竜紅人の伽羅色を見つめていた。
水を浴びなければいけない程、熱を持て余していたのだと思うと、申し訳ない気持ちで一杯になる。
「……か~さい」
香彩の表情と声の内にある翳りを見破られたのか、竜紅人は小さくため息を付いた。
軽く額を指で弾かれて、痛いと香彩が呻く。
「ま~た変な風に考えてるだろう、お前」
「だって……」
「だってじゃねぇよ」
そう言いながら竜紅人が、香彩の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「……お前に無理をさせたくないんだ。これからはずっと共にいられるんだから、ゆっくり行こうって──……まあ、さっきまではそう、思ってたんだけどなぁ」
「……えっ……?」
「言っただろう? 無駄だったって」
1
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
黒の執愛~黒い弁護士に気を付けろ~
ひなた翠
BL
小野寺真弥31歳。
転職して三か月。恋人と同じ職場で中途採用の新人枠で働くことに……。
朝から晩まで必死に働く自分と、真逆に事務所のトップ2として悠々自適に仕事をこなす恋人の小林豊28歳。
生活のリズムも合わず……年下ワンコ攻め小林に毎晩のように求められてーー。
どうしたらいいのかと迷走する真弥をよそに、熱すぎる想いをぶつけてくる小林を拒めなくて……。
忙しい大人の甘いオフィスラブ。
フジョッシーさんの、オフィスラブのコンテスト参加作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる