蒼竜は泡沫夢幻の縛魔師を寵愛する

結城星乃

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第一部 嫉妬と情愛の狭間

第11話 中庭の情交 其の二★(※挿絵あり)

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(……そういえば)


 竜紅人りゅこうとは暑がりで寒がりだったことを思い出す。竜形になればそれが、顕著に現れるのだろう。
 ここは竜形になった時に過ごす屋敷なのだから、確かにそんな結界を張られていてもおかしくない。
 おかしくないのだが。


(……駄目だ……なんか……)


 とても悪いことをしているかのような気持ちと、気恥ずかしい気持ち、気まずい気持ちが混ざったような、複雑な思いが心を占める。
 結界は張り続けている間、内部に行使した者の気配が残香のように残る。
 香彩かさいが感じ取ったそれは、とてもよく知る人の気配もの、父親の気配ものだった。


(……紫雨むらさめ……)


 複雑に揺れる感情は、身体の中に残る熱と相俟って、ふわりと芳しい香りへと変化する。
 神桜の香によく似たそれ。
 更に濃い芳香を放つ、『御手付みてつき』の証。
 



 竜紅人りゅこうとが何を思ったのか、香彩かさいを抱えたまま、中庭に降りて石畳の上を歩き出した。
 首筋にあった唇は、ゆっくりと耳裏へと移動して、香りを堪能するように息を吸う。

 やがて痛いくらいに神桜の幹に、背中を押し付けられた。






「……りゅ……!」


 勢い良く上掛けを捲り上げられて、露になる白い足は、いつの間にか竜紅人りゅこうとの肩に掛けられていて。
 太腿から臀部の境目を力強く掴まれて、抱えられて。

 後蕾に擦り付ける熱い雄に、ぞくりとしたものが背筋を駆け上げる。


「──っっっっ!」


 竜紅人りゅこうとは容赦もなく、香彩かさいの一番奥の奥まで、その剛直で一気に貫いたのだ。




 ふたりを包んだのは、濃厚な『御手付きかれのもの』の証である甘い香りだった。
 全てを竜紅人りゅこうとに、持って行かれた気がした。
 一瞬だったが目の前が真っ白に染まって、火花が散る。
 背中が木の幹で擦れる痛みや、無理な体勢を取らされる苦しさ。
 それらを全て凌駕したのは、全身を支配する、声も出せない、深淵の奈落に堕ちて行きそうな、深い深い快感だった。
 身体に齎された悦楽に、内腿が痙攣して震えているのが分かる。
 奥の奥までを、たった一度、貫かれただけだというのに。
 香彩かさいは達していた。


「……ぁ……っ、ゃ……」


 上掛けに包まれていて見えないが、その薄い腹には、自身が放った白濁とした物で汚れている。
 喉を仰け反って、竜紅人りゅこうとの目の前に露にしながら、香彩かさいは戸惑い気味に喘ぐ声を詰まらせた。
 はくはくと口を動かすその姿は、まるで空気を求め、苦しむ姿に似ている。
 やがて太腿にだけあった痙攣は、身体全体に広がり、香彩かさいは快楽の余韻に打ち震えた。
 達してしまった衝撃で、無意識の内に竜紅人りゅこうとの雄を、強く締め上げてしまったのだろう。
 くつくつと彼が笑う。


「……挿入いれただけで、った?」


 肉欲に掠れた声で、そう耳に吹き込まれて、香彩かさいの身体は一層びくりと震えて反応する。
 恥ずかしくて堪らなかった。
 奥の奥まで暴かれ、たった一突きで達してしまったことに、香彩かさいは自分の身体が、どうにかなってしまったのだろかと、戸惑う。
 結腸の肉輪を越えたところにある、竜紅人りゅこうとの熱い男根に、感じる深い愉悦。
 それは歓喜であると同時に、どこか羞恥であり、屈辱的でもあった。そんな捉えどころのない融けた意識に、生理的な涙が流れる。
 それを唇で掬われて、舌で舐め上げられたのと同時だった。
 竜紅人りゅこうとの雄が香彩かさい胎内なかで激しく抽挿する。刻にしてほんの僅かだったが、艶声すら出せないほど感じ入る。
 やがて。


「……っ──ぁぁやぁぁっ!!」


 ようやく香彩かさいは啼き声を上げた。
 奥を灼くあまりの熱さに、強く目を瞑る。
 媚肉なかへ残らず注ぎ込もうとする腰の動きに、堪らずかぶりを振った。
 聞こえるのは、お互いの荒い息と、淫らな水音。
 竜紅人りゅこうとが腰を動かす度に、ぐちゅ、と音を立て、受け切れなかった精が後蕾から零れる。それはぽたぽたと落ちて、中庭の土に染みを作った。
 やがて媚肉なかに精を、擦り付けるような腰の動きが止まり、結腸の肉輪を外れる。
 だが竜紅人りゅこうとは、その剛直を抜こうとはしなかった。
 
 
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