244 / 409
第二部 嗣子は鵬雛に憂う
第244話 災悪の魔妖 其の九
しおりを挟む困惑する香彩に、病鬼は考える時間を与えない。長く伸ばしていた腕を元の大きさに戻した病鬼は、見せられた『力』の片鱗に敵わないと悟ったのか、赤い大きな口を開けて香彩を威嚇する。
だが紫雨は、それは面白いものをみたとばかりに、くつくつと嗤うのだ。
──オマエガ、オレヲコバムノカ。
だが、またそれも一興、と。
彼は嗤いながら『力ある言葉』を発した。
言葉に反応した招影が、一斉に香彩に向かって襲い掛かる。
「……っ!」
香彩は胸元から祀祗の札を取り出した。
指に挟み、もう片方の手で印を結ぶ。
雨神の儀に使う予定だった物だ。召喚の媒体品ということもあり、札自体にも強力な『力』が込められている。発動させることが出来れば、向かってくる招影を一掃できるはずだ。
「……伏して願い奉る」
ほのかに祀祗の札が彩りを見せた。
蒼白く洗練された光は術力の顕れだ。
「……伏して願い奉る。真竜御名、黄竜、蒼竜。その御名において、我の呼応に力を貸したまえ」
香彩を中心にして、清浄な空気と蒼白い光の波動が、周りに広がる。
(どうか……どうかこのまま)
頼むから消えてくれるな。
「陣!」
香彩は祀祗の札を、招影に向かって投げた。札は術者の意思を持って、真っすぐに突き進む。
──だが。
(ひか……り、が……)
蒼白い光は、招影に祀祗の札が届く前に消え失せた。勢いの失った札は、ただの紙へと戻ったのか、ひらりと木床へ落ちる。
目の前に迫る招影の、心の滅びの手。
それが恰も、心の中で救いを求めている自分自身の手のように思えてくる。
(……ああもしかして)
だから招影だったのかと、そんなことを思いながらも、胸部を貫かれる恐ろしさに、香彩はぎゅっと目を閉じた。
(……)
だがその衝撃は、いつまでたっても香彩を襲っては来なかった。
それとももう貫かれたのか。
『招影に胸を貫かれる感覚』というのは、こんなに穏やかで安らぎを齎すものなのか。
それは幼い頃からよく知っている、懐かしい腕と気配にとてもよく似ていた。
このままもう身を委ねて、堕ちてしまっても構わない。そう思ってしまうほどの心地良さ。
まるで傷付いた心を癒すような、森の木々の香り……。
「──っ!」
その香りがする者など、たったひとりしかいないのだ。
香彩は驚いて目を開けた。
「あ……」
前を見据える端正な横顔が、そこにあった。
自分を庇うように肩を抱く、逞しい腕。
「──竜紅人……」
いま、一番会いたくて。
そして一番、会いたくなかった人が、顕現していた……。
0
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
黒の執愛~黒い弁護士に気を付けろ~
ひなた翠
BL
小野寺真弥31歳。
転職して三か月。恋人と同じ職場で中途採用の新人枠で働くことに……。
朝から晩まで必死に働く自分と、真逆に事務所のトップ2として悠々自適に仕事をこなす恋人の小林豊28歳。
生活のリズムも合わず……年下ワンコ攻め小林に毎晩のように求められてーー。
どうしたらいいのかと迷走する真弥をよそに、熱すぎる想いをぶつけてくる小林を拒めなくて……。
忙しい大人の甘いオフィスラブ。
フジョッシーさんの、オフィスラブのコンテスト参加作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる