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第二部 嗣子は鵬雛に憂う
第254話 夢月狂 其の八
しおりを挟む(……ああでも……)
こんなものを視せられ続けたら、心を招影に明け渡し、堕ちてしまうのも分かる気がした。
心が抜け落ちて、人の形をしたものに成り果てるのも分かる気がした。
とても耐えられそうにない。
目の前には日のすっかり沈んだ、人気の少ない暗がりの通りが広がっていた。
白虎門を出た楼外、長期休暇の時に使われる大きな屋敷ばかりが並んでいるような場所だった。そんな屋敷と屋敷の間にある狭くて明かりの届かない路地へ、引き摺り込まれて行く影がある。
(……やめて……!)
(お願いだから……視せないで……!)
荒々しく息を吸えば、森の木々の香りで胸が一杯になる。この見えない壁の向こう側に竜紅人がいて、この幻影を視ているのだとしたら。
「──っ!」
身体が凍り付くようだと思った。
冷たい汗が幾筋も背中を伝い、身体と心の寒さに震えが止まらない。
(視ないで……りゅう……! 貴方には)
知って貰いたくない。
成人の儀と真月の晩の出来事は、竜紅人も大きく関係した過去の出来事であり、彼も事情を知っている。
成人の儀では香彩の罪悪感を埋める為に竜紅人の思念体が召ばれ、紫雨と共に香彩を抱いた。
そして紫雨が嬰児の息の通う場所を締めたあの真月の晩こそ、竜紅人が真竜として初めて天から降りてきた日だった。
紫雨の己自身と香彩を否定する、絶望に満ちた深い慟哭と愛憎に溢れた怨嗟の声と禍々しい気配に、まだ地上の陰の気に触れたことのなかった幼い竜は堕ちた。要らないと言った紫雨の言葉に同調するかのように、欲望のままに神気を奮い凪ぎ払う。幼竜とはいえ真竜だ。暴走した甚大な神気を治めたのは、叶だと聞いている。それからだった。紫雨の怨嗟に巻き込まれたにも関わらず、お前達が気になるからと竜紅人が紫雨と香彩に、積極的に接するようになったのは。
竜紅人は過去に何があったのか知った上で、香彩の面倒を見、香彩のことが好きになったのだ。
招影が今まで視せた出来事は今も尚、心の奥で重く伸し掛かっている。
ずっと夢床に仕舞っていた、視たくない物だ。それを香彩が覚えている以上に鮮明に、目を逸らすことも赦されず、目の前で視せ付けられる。
それでも心にまだ余裕があったのは、竜紅人が全てを知っていてくれていたからだ。
(……だけど……)
(これから視せられるものは……!)
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