353 / 409
第三部 降誕す
第353話 蒼竜との御契 其の一
しおりを挟む「……あ……あ……」
法悦の境地にした香彩は、中々その頂点から降りてくることが出来なかった。
頭の中が真っ白になり、石畳に付いた膝ががくがくと震えている。
内に残った白濁を最後まで吐き出そうとして、意識せずとも腰が揺れた。
誰にも何もされていない。
ただ匂いを嗅いだだけで、こんな風になってしまった自分が恥ずかしくて堪らない。堪らないというのに未だにその若茎から、つつと透明な蜜が溢れている。
そして後蕾の奥の蕾が花開いた気がした。熱の楔のような蒼竜の雄を求めてひくつき、とろりと後蕾からも蜜が溢れ出すのが分かる。
そのあまりの気持ち良さと戸惑う心の乖離に、香彩の頬を、一筋の情慾の涙が伝った。
「はぁ……あ、ぁ」
吐く息はとても熱くて、そして甘い。まるで息までも御手付きの香りに染まってしまったかのように、甘い匂いがする。春宵に咲く春花のようなそれは、今まで嗅いだ中で一等強く、妖艶で濃厚な香りがした。
まるで蒼竜の発情を匂いで知った身体が、御手付きの本能で蒼竜の為に受け入れる準備を整えているかのようだった。そんなことを心内で思ってしまえば、身体は更に熱くなり、熱を放ったはずの若茎が再び兆し始める。
自分でも分かるほどの匂いだ。
御手付きの香りにとても敏感な蒼竜が気付かないはずがない。
「──っ!」
香彩は息を詰めた。
聞こえるのだ、蒼竜の声が。
まるで遠雷だった。
空があの竜を胎蔵し、低く低く轟き響いて唸っているかのようだ。竜の唸り声は周りの空気ごと、胸の奥を、肚の底を震わせる。
幾度も、幾度も。
それは来るな、という拒否の響きのようでもあり。
おいで、という懇願の響きのようでもあり。
来い、という命令の響きのようでもあった。
まさにそれは『竜の聲』に違いなかった。
聲に含まれる、蒼竜の全ての思意を身体の奥底で感じ取った香彩は、堪らなく疼く快楽に身を震わせながらも立ち上がった。
『竜の聲』は御手付きを服従させる。
譬えどんなに心と身体が拒否をしていても、御手付きの本能が主の命令に対して従うことに、深い悦びを感じさせるのだ。
前屈みになりながらも、香彩は一歩、また一歩と歩き出した。
ようやく屋敷の中へ入ることが出来ると、今度は木壁に身体を凭れさせながら引き摺るようにして歩く。足を踏みしめる度に後蕾から、どぷりと蜜が溢れ出す感触に、香彩は堪らず奥歯を噛み締めた。
「……っ、はぁ……」
だんだんと口元に力が入らなくなる自分を自覚していた。我慢出来ずに口の端から零れ出る艶声と甘い息、そして蜜のような唾液がつつと伝い顎から首筋へと流れていく。拭う余裕もないほどに、色付いた唇から洩れ出す喜悦の声が居た堪れなくて、香彩は誤魔化すかのように名前を呼んだ。
求めて止まない想い人の名前を。
「はっ……、りゅう……」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる