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第三部 降誕す
第385話 求愛 其の四
しおりを挟む香彩は複雑な思いに駆られたまま、顔に朱を走らせた。
自分が貴方の傍にいてはいけない。そう思うというのに、追い掛けて捕まえると言われたことに、心の奥で昏い悦びを感じている。
そんな香彩の様子に、再び深い深いため息を吐き、頭を抱えて首を小さく振ったのは竜紅人だった。
「へぇ? 蜘蛛に四肢を拘束されたことはちゃあんと覚えてるっつーのに、俺の言葉は覚えてないって?」
どこか棘のある物言いをしながら、彼が香彩の前に座って胡坐をかく。
「……っ!」
竜紅人の言葉に息を詰めたのは香彩だ。
だがすぐに彼の言葉に対して頭を振る。
覚えていないわけじゃない。
(あんなに……愛に満ちた情を、真っすぐに僕にくれた)
ただ夢床であった『自分に都合のいい出来事』を、自分自身が作り出したわけではないのだと、どうして言えるだろう。それにあの世界は本来は抽象的なものが多く、明確な答えを示すことの方が少ないのだ。
竜紅人の言葉に対する応えを、上手く言の葉に乗せることが出来ない。もどかしい気持ちで、彼の視線に捕らえられたままでいると、竜紅人の口から仕様のないと言わんばかりの大きなため息が漏れた。
「俺から逃げようとした理由も、その辺りに原因があるんだろうなって分かるんだけどな。出来たらお前の口からちゃんと聞かせてくれないか? 香彩。まさかと思うが人形の俺が人形の『生身』だから、とは言わねぇよな」
「──っ!」
香彩は今度こそ言葉を詰まらせて、絶句する。
問い掛けのように聞こえるが、彼の言葉は確信を持った言い方だ。まるで香彩の思っていること、行おうとしていることが全て分かっていると言わんばかりに。
きっとお見通しなのだろう。この手の駆け引きに勝てた試しがない。
「だって……」
「──ん?」
竜紅人の相槌の声がやけに優しくて、どきりと高鳴る自分の胸が憎らしいと香彩は思った。たった一音で自分の心は翻弄される。好きなのだと心の奥底が叫んでいる。
だからこそ。
「……怖かった。夢床であったことはちゃんと覚えてる。だけどそこにどれだけ自分の願望が入っているのか、自分にとって都合の良い夢を見ているのか分からない。だから現実に戻ってきて生身の人形になった竜紅人が、生身の僕を見てどう思うのか。伽羅色の瞳がどんな感情を浮かべるのか、怖くて仕方なかった」
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