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第一章 Suicide Seaside
第2話 いにしえの天使 其のニ
しおりを挟む優也自身、何故自分がこの道に進んだのか未だに疑問が残る。高校入学時にはあまり将来のことなど、考えずに日々を過ごしていた。なまじ表情が明るく口が上手くおまけにそこそこ頭も良かったため、何気に進んだ研究学科で研究見習いになり、気づいたら研究員かつ教授だ。
考えが変わったの『天使』に会ってからだ。生命の神秘に近づきたいと解き明かしたいとこの時初めて思い、今ではその道の第一人者になってしまった。成り行きで、といえばそれまでだが、神璃の気持ちが未だ掴みきれていないというのも事実だ。
神璃のいう『夢』というものが違う捉え方のように思えたのだ。
(全ては俺の勝手な解釈だけどな)
神璃を見ると、とても怪訝そうな顔をしていた。
「……佐々木……教授?」
おそるおそる神璃は優也に声をかける。
「難しい顔をして、どうしたんですか? お疲れになったんですか?」
どうやら考え事をしていたものが顔に出てしまっていたらしい。
咳払いをひとつして、優也は今考えていた内容をとりあえず切り替えることにする。
「――……娘が、泣くなぁ。神璃」
優也の言葉にきょとんとしていた神璃だが、あっと何かを思い出し、すみませんごめんなさいと優也にぺこぺこと頭を下げて平謝りをする。
「『優也さん』でしたね」
そうそう、と優也は笑いながら頷いた。
優也には架稜良という名前の十歳になる娘がいる。母親は架稜良が幼い頃に亡くなり、優也が男手ひとつで娘を育てている。自宅でひとりにさせていることが気が気でないらしく、優也は仕事の終わる時間まで、娘を自分の研究室の一室に預けているのだ。架稜良は生まれつき身体が弱く、学校も登校できるときに登校し、後の教育は通信のものか、研究員の誰かに教えて貰っている。優也は仕事がら忙しい毎日のため、架稜良になかなか時間を割いてやることができない。そしてそんな研究員、教授という立場の父親を架稜良は決して好きではなかった。
神璃はまだまだ見習いということもあり、課題さえ終わってしまえば時間が空いてしまう。そんな時、架稜良の遊び相手になりに行くのだが、優也のことを『教授』と言うと泣き出してしまうのだ。
──父さんのことは名前で呼んでよ。
──じゃないと架稜良、脱走するもん!
泣かれても困るし、脱走されても困る。神璃は先輩である優也を、優也と架稜良の前でだけ名前で呼ぶことにしたのだ。
それともうひとつ、と優也がにこりと笑う。
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