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I ニナルティナ王国とリュフミュラン国
ひみつの庭園 4 フルエレとあの方は同じ顔をしている… .
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「この辺りがラ・マッロカンプ……王国とかユ、ユティトレッド魔導……王国? やんなあ?」
出会ったばかりの瑠璃ィキャナリーと名乗る女性は、いきなり親しい近所の知人にでも話し掛ける様に馴れ馴れしく聞いてくる。ただし地理不案内なのか地名はたどたどしかった。
「私は地理など全然分かりません。早く教えて追い払って下さい」
「全く違いますよ! こちらは東側、リュフミュランの外れです。貴方達の目的地は大陸の北の中部や西の方に当たります。船で来られたなら、もう一度船で北側の海岸線を行くか、歩きなら海岸線に沿って西に地道に進むしかないですよ……」
砂緒に促された雪乃フルエレも早く追い払い思いは同じだった。少し怒っていた……
「ええ全然違うやんか! 誰がここで降りよ言うたんや罰や。嬢ちゃんありがとな~~? んっんんん?」
突然瑠璃ィがフルエレの顔をまじまじと見つめる。
「あ、あれ……嬢ちゃん……いや、貴方様は!? 何故こんな所に貴方様がっ!! 皆の者土下座や早う土下座やっ!!」
「えっえっなんですかぁ」
ははーっと時代劇の様に、先程まで異様に馴れ馴れしかった瑠璃ィと後ろの怪しいフードの一団が一斉に土下座をする。戸惑うフルエレ。
「んでも……こんな所に『あの方』がいらっしゃる訳あらへんなあ。よう考えたらあの方の髪は烏の濡れ羽色でこんなおしゃれなパツキンやあらへんなあ」
がばぁっと上半身を上げると、またもや馴れ馴れしく今度はフルエレの金色の髪を触り始める瑠璃ィ。横で勝手にフルエレに触られて完全にムッとする砂緒。
「お嬢ちゃんどこの生まれや? 海を渡った事あるんか?」
「私は生まれも育ちもセブンリーフです。一歩も大陸から出た事ありません! 最近ようやく東側まで来たくらいですから」
フードの男が瑠璃ィにひそひそと囁きかける。
「え、あの方よりこっちの方が弱冠可愛くて若くてピチピチしてる? あほ、そんな事あの方に聞かれたら殺されんで、知らんけど……」
次々とまくし立てる様に話を続ける謎の人々にあっけにとられる砂緒とフルエレだった。
「でもホンマに似てるわ~~似てるっていうか同じ顔してるわ! 声も似てる凄い似てるわ」
「ひょっろ、ひゃめてくらしゃい」
今度は瑠璃ィは両手でフルエレの頬をむにょんむにょんして挟む。すかさず砂緒が腕を剥がす。
「でもほんまに可愛いわ~~おっぱいも小さ過ぎず大き過ぎず、美乳タイプや~~」
こんどは易々とフルエレの胸を両手で触り始める瑠璃ィ。赤面するフルエレ。
「ひゃっ! ちょっと何するんですかっっ」
「なあ? 彼氏はん」
突然砂緒に妙なフリをする瑠璃ィ。
「わ、私はその様な局所的な部分を見たりはしていませんので、よく分かりませんでした」
「あ~~~~~~~~~~~~~~?」
今度は瑠璃ィの矛先が砂緒に向かい、馴れ馴れしく砂緒の頬に指先を突き刺しぐりぐりする。瞬間的に砂緒の中で殺意が湧き、指先に電気がバチバチし始めた。気付いて滝汗で首を振るフルエレ。
「似ている人なんていくらでも居ますよ。例えば既に亡くなった某有名俳優とヨ○フ・ス○ーリンだとか、他人の空似なんて探せばいくらでもいますよ。もう帰りましょうフルエレ、猫呼も待っていますから」
「う、うんそうだね! 行こ」
砂緒がフルエレの手首を掴んで連れ出そうとする。
「ちょい待ち! 今ねここ言うたか? 猫呼クラウディア知ってるんか?」
今までの親戚の様な馴れ馴れしい口調から一転、急に険しい顔と厳しい口調になった。
「い~え? 僕の可愛い子猫ちゃ~んと言っただけですが、何か?」
「はい私は常時、僕の可愛い子猫ちゃ~んと呼ばれていますわ」
二人して豪快に嘘をついた。
「ほ、ほんまか、ほんまに子猫ちゃん言うてたか?」
「ねえ、子猫ちゃん?」
「は~い子猫、この地獄を早く脱して帰りたいです!」
「今地獄言うたか? 何が地獄なん?」
少しムキになりかけた瑠璃ィにフードの男が耳元でひそひそ話し掛ける。
「何やて? こんな所で道草食ってる訳には行へんて? 第一村人にべらべらしゃべり過ぎやて?」
二人は心の中でナイス、フードの男! と親指を立てた。
「そうやなあ、なかなか愉快な第一村人に出会えて浮かれてもうたわ~~お嬢ちゃんまた会おな~」
二人は『いやもう金輪際会いたくないです』と心の中で強く思った。
「ほんならな! 若君~~~何処へ~~~~~!」
そう言うと、瑠璃ィキャナリーを先頭にフードの怪しい男達は、空手の鍛錬で砂浜を進む集団の様に、異常に組織的に手足を揃えてザッザッと走り出した。
「やっと行ってくれましたねえ、何者達なのでしょうか」
「ほんっとに今頃腹が立って来た」
折角砂緒と……と思ったが雰囲気はぶち壊しだった。
「猫呼の事を知っている様でしたが、あんなのが知らない内にうじゃうじゃ海を渡って来ているとすれば不気味ですね」
「貴方に……言われたくないでしょうけど、そうね。でも、よく耐えたわね砂緒!」
「当たり前ですよ。相手は良く分からない野蛮人です、文明人の紳士として当然の大人な態度でした。連中きっと他人との距離感が異常な、笑いの絶えない国から旅して来たのでしょう」
「そうね、でも私達も今度は王都の北の海にも行ってみたいなあ……」
フルエレはにっこり笑いかけた。もうすぐ日が暮れそうな雰囲気だった。差し込む夕日で金色の髪や白いドレスが透けて見え、フルエレの華奢なスラッとした肩や手足がはっきり判る。砂緒は瑠璃ィの『胸が……』という言葉を思い出す。砂緒は眼球が下を向かない様に必死に瞳を見つめた。
「ん、どうしたの?」
「い、いいえ何でも無いです。深夜になる前に帰りましょうか」
「は~い! じゃあ乗って乗って」
二人はサイドカー魔輪に乗り込むと家に向かって走り出した。
(あの方って誰なんだろう……)
フルエレは言わなかったが、瑠璃ィの言葉がずっとひっかかっていた。
来た道と逆に海から南西に進み続けたが、途中天球の庭園は通り過ぎなかった。あるいはすっかり夜となり魔輪の魔法ランプの灯かりだけが頼りだったから、気付かずに通り過ぎただけかもしれないとも二人は思った。ようやく王都の東面に達してライグ村に帰る為に今度はひたすら南に向かう。
「もうすっかり深夜ですが、猫呼やイェラが心配してるでしょうかねえ」
「二人には悪い事しちゃったね。でも私は来て良かったと思っているのよ」
「私もです」
途中妙な地獄に突入するまでの記憶が蘇る。
「ま、またどこかに行きたいわね」
「そうですね……」
ようやく村に入り、南の玄関口に近い冒険者ギルドの館に辿り着く。館の灯かりは消えて村内の他の家屋と同様にシンと静まり帰っている。
「あはは、寝ちゃってるのね。当たり前かあ」
「あの二人が泣きながら玄関前で立って待っていてくれてるとでも思いましたか? 甘いですよ。私達二人はよっぽど何があっても大丈夫だと信じられている証拠です。静かに入りましょう」
「う、うんそうだね」
二人は魔法ライトを消し、手押しで車庫に入れようとした時だった。急に闇夜から声がした。
「お帰りなさいませ。雪乃フルエレさま、砂緒さま」
「誰ですか!」
さっとフルエレを後ろに庇い、砂緒が声の方を向く。だんだん砂緒の行動が普通になって来ていた。
「驚かせてしまい申し訳ありません。王女警護の騎士、スピナで御座います。お二人のお帰りが遅い為に心配してお待ち申しておりました」
いつも言葉は手寧だが心の籠っていないあの美形の剣士だった。それにしても七華の命令でいつも監視しているのかと不気味になる言葉だった。
「不気味な奴ですね」
「こら、それは有難う御座います。それではお休みなさいませ」
そそくさと通り過ぎようとする。
「お待ちを。これをご覧下さい」
突然目の前に宝飾ケースを取り出し、パカリと開けると、中に月明りでも煌びやかなネックレスがあった。
「あの、何ですかこれは」
フルエレが不信感丸出しで聞く。
「七華王女から貴方様にお預けになられた、三毛猫仮面なる怪盗に狙われている王家伝来のヘッドチェーンについて、大変危険で心的負担を強いる物ではないかと憂慮して、代替の宝物をお持ちしました。どうか心置きなくご返却を」
「え、どういう事ですか? それは七華の命令ですか?」
「……いいえ、私の一存で御座います」
「バカにするのか! ヘッドチェーンは返却しないが、それも置いて行け!」
「貴方は黙って。もし七華王女の命令でなければ、あの大事にしまっているヘッドチェーンは私がまだ預かっていたいです。大好きな七華王女と私の友情の証なんです!」
ヘッドチェーンは無造作に雑貨に紛れてポシェットに入れているし、七華との友情というのも怪しい大嘘だった。この丁寧で慇懃な言葉に全く心が籠っていない為に、なにもかも信用出来なかった。
「所でヘッドチェーンを三毛猫仮面が狙っているとどこで知ったのですか?」
砂緒でもあまりにもうさんくさい話だと思った。
「…………皆さん言っていますよ。では私は城に戻りましょう。それでは」
すっと闇夜に消える騎士。
「もう寝ようよ、今日はなんだか急に色々な人に会ったわね」
「そうですね……おやすみですね」
車庫横の裏口から静かに入り、二人はそれぞれの部屋に戻って行った。
出会ったばかりの瑠璃ィキャナリーと名乗る女性は、いきなり親しい近所の知人にでも話し掛ける様に馴れ馴れしく聞いてくる。ただし地理不案内なのか地名はたどたどしかった。
「私は地理など全然分かりません。早く教えて追い払って下さい」
「全く違いますよ! こちらは東側、リュフミュランの外れです。貴方達の目的地は大陸の北の中部や西の方に当たります。船で来られたなら、もう一度船で北側の海岸線を行くか、歩きなら海岸線に沿って西に地道に進むしかないですよ……」
砂緒に促された雪乃フルエレも早く追い払い思いは同じだった。少し怒っていた……
「ええ全然違うやんか! 誰がここで降りよ言うたんや罰や。嬢ちゃんありがとな~~? んっんんん?」
突然瑠璃ィがフルエレの顔をまじまじと見つめる。
「あ、あれ……嬢ちゃん……いや、貴方様は!? 何故こんな所に貴方様がっ!! 皆の者土下座や早う土下座やっ!!」
「えっえっなんですかぁ」
ははーっと時代劇の様に、先程まで異様に馴れ馴れしかった瑠璃ィと後ろの怪しいフードの一団が一斉に土下座をする。戸惑うフルエレ。
「んでも……こんな所に『あの方』がいらっしゃる訳あらへんなあ。よう考えたらあの方の髪は烏の濡れ羽色でこんなおしゃれなパツキンやあらへんなあ」
がばぁっと上半身を上げると、またもや馴れ馴れしく今度はフルエレの金色の髪を触り始める瑠璃ィ。横で勝手にフルエレに触られて完全にムッとする砂緒。
「お嬢ちゃんどこの生まれや? 海を渡った事あるんか?」
「私は生まれも育ちもセブンリーフです。一歩も大陸から出た事ありません! 最近ようやく東側まで来たくらいですから」
フードの男が瑠璃ィにひそひそと囁きかける。
「え、あの方よりこっちの方が弱冠可愛くて若くてピチピチしてる? あほ、そんな事あの方に聞かれたら殺されんで、知らんけど……」
次々とまくし立てる様に話を続ける謎の人々にあっけにとられる砂緒とフルエレだった。
「でもホンマに似てるわ~~似てるっていうか同じ顔してるわ! 声も似てる凄い似てるわ」
「ひょっろ、ひゃめてくらしゃい」
今度は瑠璃ィは両手でフルエレの頬をむにょんむにょんして挟む。すかさず砂緒が腕を剥がす。
「でもほんまに可愛いわ~~おっぱいも小さ過ぎず大き過ぎず、美乳タイプや~~」
こんどは易々とフルエレの胸を両手で触り始める瑠璃ィ。赤面するフルエレ。
「ひゃっ! ちょっと何するんですかっっ」
「なあ? 彼氏はん」
突然砂緒に妙なフリをする瑠璃ィ。
「わ、私はその様な局所的な部分を見たりはしていませんので、よく分かりませんでした」
「あ~~~~~~~~~~~~~~?」
今度は瑠璃ィの矛先が砂緒に向かい、馴れ馴れしく砂緒の頬に指先を突き刺しぐりぐりする。瞬間的に砂緒の中で殺意が湧き、指先に電気がバチバチし始めた。気付いて滝汗で首を振るフルエレ。
「似ている人なんていくらでも居ますよ。例えば既に亡くなった某有名俳優とヨ○フ・ス○ーリンだとか、他人の空似なんて探せばいくらでもいますよ。もう帰りましょうフルエレ、猫呼も待っていますから」
「う、うんそうだね! 行こ」
砂緒がフルエレの手首を掴んで連れ出そうとする。
「ちょい待ち! 今ねここ言うたか? 猫呼クラウディア知ってるんか?」
今までの親戚の様な馴れ馴れしい口調から一転、急に険しい顔と厳しい口調になった。
「い~え? 僕の可愛い子猫ちゃ~んと言っただけですが、何か?」
「はい私は常時、僕の可愛い子猫ちゃ~んと呼ばれていますわ」
二人して豪快に嘘をついた。
「ほ、ほんまか、ほんまに子猫ちゃん言うてたか?」
「ねえ、子猫ちゃん?」
「は~い子猫、この地獄を早く脱して帰りたいです!」
「今地獄言うたか? 何が地獄なん?」
少しムキになりかけた瑠璃ィにフードの男が耳元でひそひそ話し掛ける。
「何やて? こんな所で道草食ってる訳には行へんて? 第一村人にべらべらしゃべり過ぎやて?」
二人は心の中でナイス、フードの男! と親指を立てた。
「そうやなあ、なかなか愉快な第一村人に出会えて浮かれてもうたわ~~お嬢ちゃんまた会おな~」
二人は『いやもう金輪際会いたくないです』と心の中で強く思った。
「ほんならな! 若君~~~何処へ~~~~~!」
そう言うと、瑠璃ィキャナリーを先頭にフードの怪しい男達は、空手の鍛錬で砂浜を進む集団の様に、異常に組織的に手足を揃えてザッザッと走り出した。
「やっと行ってくれましたねえ、何者達なのでしょうか」
「ほんっとに今頃腹が立って来た」
折角砂緒と……と思ったが雰囲気はぶち壊しだった。
「猫呼の事を知っている様でしたが、あんなのが知らない内にうじゃうじゃ海を渡って来ているとすれば不気味ですね」
「貴方に……言われたくないでしょうけど、そうね。でも、よく耐えたわね砂緒!」
「当たり前ですよ。相手は良く分からない野蛮人です、文明人の紳士として当然の大人な態度でした。連中きっと他人との距離感が異常な、笑いの絶えない国から旅して来たのでしょう」
「そうね、でも私達も今度は王都の北の海にも行ってみたいなあ……」
フルエレはにっこり笑いかけた。もうすぐ日が暮れそうな雰囲気だった。差し込む夕日で金色の髪や白いドレスが透けて見え、フルエレの華奢なスラッとした肩や手足がはっきり判る。砂緒は瑠璃ィの『胸が……』という言葉を思い出す。砂緒は眼球が下を向かない様に必死に瞳を見つめた。
「ん、どうしたの?」
「い、いいえ何でも無いです。深夜になる前に帰りましょうか」
「は~い! じゃあ乗って乗って」
二人はサイドカー魔輪に乗り込むと家に向かって走り出した。
(あの方って誰なんだろう……)
フルエレは言わなかったが、瑠璃ィの言葉がずっとひっかかっていた。
来た道と逆に海から南西に進み続けたが、途中天球の庭園は通り過ぎなかった。あるいはすっかり夜となり魔輪の魔法ランプの灯かりだけが頼りだったから、気付かずに通り過ぎただけかもしれないとも二人は思った。ようやく王都の東面に達してライグ村に帰る為に今度はひたすら南に向かう。
「もうすっかり深夜ですが、猫呼やイェラが心配してるでしょうかねえ」
「二人には悪い事しちゃったね。でも私は来て良かったと思っているのよ」
「私もです」
途中妙な地獄に突入するまでの記憶が蘇る。
「ま、またどこかに行きたいわね」
「そうですね……」
ようやく村に入り、南の玄関口に近い冒険者ギルドの館に辿り着く。館の灯かりは消えて村内の他の家屋と同様にシンと静まり帰っている。
「あはは、寝ちゃってるのね。当たり前かあ」
「あの二人が泣きながら玄関前で立って待っていてくれてるとでも思いましたか? 甘いですよ。私達二人はよっぽど何があっても大丈夫だと信じられている証拠です。静かに入りましょう」
「う、うんそうだね」
二人は魔法ライトを消し、手押しで車庫に入れようとした時だった。急に闇夜から声がした。
「お帰りなさいませ。雪乃フルエレさま、砂緒さま」
「誰ですか!」
さっとフルエレを後ろに庇い、砂緒が声の方を向く。だんだん砂緒の行動が普通になって来ていた。
「驚かせてしまい申し訳ありません。王女警護の騎士、スピナで御座います。お二人のお帰りが遅い為に心配してお待ち申しておりました」
いつも言葉は手寧だが心の籠っていないあの美形の剣士だった。それにしても七華の命令でいつも監視しているのかと不気味になる言葉だった。
「不気味な奴ですね」
「こら、それは有難う御座います。それではお休みなさいませ」
そそくさと通り過ぎようとする。
「お待ちを。これをご覧下さい」
突然目の前に宝飾ケースを取り出し、パカリと開けると、中に月明りでも煌びやかなネックレスがあった。
「あの、何ですかこれは」
フルエレが不信感丸出しで聞く。
「七華王女から貴方様にお預けになられた、三毛猫仮面なる怪盗に狙われている王家伝来のヘッドチェーンについて、大変危険で心的負担を強いる物ではないかと憂慮して、代替の宝物をお持ちしました。どうか心置きなくご返却を」
「え、どういう事ですか? それは七華の命令ですか?」
「……いいえ、私の一存で御座います」
「バカにするのか! ヘッドチェーンは返却しないが、それも置いて行け!」
「貴方は黙って。もし七華王女の命令でなければ、あの大事にしまっているヘッドチェーンは私がまだ預かっていたいです。大好きな七華王女と私の友情の証なんです!」
ヘッドチェーンは無造作に雑貨に紛れてポシェットに入れているし、七華との友情というのも怪しい大嘘だった。この丁寧で慇懃な言葉に全く心が籠っていない為に、なにもかも信用出来なかった。
「所でヘッドチェーンを三毛猫仮面が狙っているとどこで知ったのですか?」
砂緒でもあまりにもうさんくさい話だと思った。
「…………皆さん言っていますよ。では私は城に戻りましょう。それでは」
すっと闇夜に消える騎士。
「もう寝ようよ、今日はなんだか急に色々な人に会ったわね」
「そうですね……おやすみですね」
車庫横の裏口から静かに入り、二人はそれぞれの部屋に戻って行った。
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