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III プレ女王国連合の成立

スピネルの救援部隊とサッワの出所

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 ―タカミー王国。
 王国の城壁は魔ローダー蛇輪の激しい攻撃を受けあちこちが破壊されていた。その後にセレネの軍の魔戦車から魔砲攻撃を受け突入され、さらには魔導士達からも大型攻城魔法攻撃も受け散々に破壊されていた。小規模なタカミー王国に対して所謂力押しの攻城戦だった。
 今はもはや戦いは終わり鎮火はしていたが、まだまだ城内のあちこちから白く細い煙が上がっていた。その城の中は砂緒があちこちの壁をブチ壊し荒れ果てたままとなっている。激しい戦いの後には同盟軍から捕縛され捕虜となった王族始め多数の兵達が輪になって座らされ会話も無く沈黙し、一般人は家から一歩も出ずに固く扉を閉じて息を潜めていた。
 そうした中で当の同盟軍は焚火をしてあちこちで休憩していた。占拠した城の玉座の間では、崩れ落ちた壁や調度品もそのままに砂緒やセレネやイェラ達が休息していた。

「いやあ激しい戦いでした。少なからず犠牲は出てしまいましたが、お陰で早く済ます事が出来ました」

 砂緒がセレネとイェラにインスタントレギュラー粉コーヒーを渡した。

「ありがと。ふふふ、久しぶりに全力で戦えて楽しかった。フルエレさんが居ないとのびのび出来るなあ」
「そ、そうですかあ?」
「私も久しぶりに訛った体を思い切り動かせたぞ。二人に我が剣の冴えを見せてやりたかった!」
「あまり無理をしないで下さい。いつも私が助けに行ける訳ではありませんので」

 イェラも強い事は強いが、それは一般人レベルの話でありセレネや紅蓮には遠く及ばなかった。

「失礼な! 一人でも立派に闘えるぞ!」
「こ、これは失礼……」
「よし! という訳で私達だけでも早速出発して七葉後川に敵兵を叩き落としに行こう!!」
「おおっ今私も全く同じ事を考えていた、早速行こう!!」

 結局タカミーを落とし、夜になっても同じ事を言っていた。これはナメに居たY子ことフルエレが考えた事と結局同じになっていた。

「ど、どうでしょ……今夜は此処でゆっくり眠って休息するというのは……それに捕虜とした敵兵が反乱する可能性だってありえるでしょうし……」

 慌てて二人をなだめようとする砂緒を見て、セレネがふふっと笑う。

「おやあ砂緒さん此処に居ないフルエレさんに気に入られようと必死か?」
「ち、違いますよお、本当に心の底からセレネやイェラの疲れを考えてるんです……」
「ふふ、まあいいよ。今夜は此処で兵達と一緒に休憩と行こう。その代わり、今夜は砂緒にもたれ掛かって寝てもいいよな?」

 等と言ってセレネは玉座の間の床に毛皮や敷物を敷いただけの状態で座る砂緒にもたれ掛かった。

「此処で眠るのですか? 此処は広い部屋なのでなんだか野宿みたいですねえ」
「うんうん、それで良いの、どうせ一緒の部屋で寝ようって言っても逃げるんだろ??」
「いやあ、ええまあ……」
「こらこら砂緒セレネ、私も居る事も忘れるなっ! よしじゃあ反対側は私が貰った! 今夜は私も一緒に寝よう」

 等と言いながら砂緒より身長が高いイェラがセレネの反対側から砂緒をサンドイッチした。大きな胸が砂緒の腕にぐいぐい擦り付けられる。

「わああ、美女二人に私はなんと果報者でしょうか……」
「うふふ、砂緒も他人の顔色を見ながら嘘を付く様になって、ただの人間の男に成り下がったな」
「え、そ、そうですかあハハ」

 戦いが嫌いなフルエレの気持ちを考えて必死にセレネを足止めする砂緒の気持ちを見透かす様にセレネは笑ったが、それ以降は何も言わず三人はそのままの状態で大きな毛布を被って眠りに就いた。


 ―まだまだセレネ達がグルメタウンに差し掛かる前の話。メドース・リガリァ本国本城では目立たない密室で貴嶋とスピネルが密談していた。

「七葉後川の橋が次々落とされ、南側の兵達が戻れないと報告があった。こうした時になると今まではココナツヒメ殿が湧いて出て来た物だが今回は全く音沙汰が無い。スピネルよそなたの元には連絡があったか?」

 同盟軍と敵対するメドース・リガリァの独裁者貴嶋は自慢の魔ローダー部隊がサッワの独断で全滅し、さらには頼りのスピネルまで撃退されてオゴ砦を奪われた事で内心焦りに焦っていた。その上七葉後川南側に派遣していた軍が蛇輪に橋を落とされた事で混乱の中戻れなくなり、神頼みよろしくココナツヒメからの援助が無ければもはやどうしようも無くなっていた。

「貴嶋様、ココナツヒメという女は気まぐれ、あの者をあてにしていては何の計画も立てられませぬ。我が国の技術者の能力も熟練して参りました。破壊された我がデスペラード改Ⅱは修理が完了する寸前、修理が終わり次第大量の船を徴発してチャイムリバー橋南側に集結しつつある兵共を救出に参ります。それでよろしいでしょうか? 御裁可をお願いしたい」

 もともと心が籠っていない剣の修行者のスピネルの事、何の恐怖も国が亡びる事に対する惜しみも無く、ただ淡々と現在の状況を冷静に判断して、機械的に自国に有利になる事だけを実行していた。だが貴嶋にはそんな事は分らず、全て忠義の心から出る物だと思い込んでいた。

「おお、いつもいつも其方には助けられるな。行ってくれるか? 南側のミャマ地域に派遣した兵達を無事帰還させれば、まだまだ七葉後川北側このSa・Ga地域から反転攻勢の機会も伺えるであろう。頼んだぞ」

 貴嶋はスピネルの肩を力を入れてぐっと掴んだ。

「ハハッただ思う所があります……」
「むむっ? 何だ忌憚なく言ってみてくれ」

 貴嶋はてっきり戦略や戦いに関わる事だと思い、気になってすぐさま聞き返す。

「あのココナツヒメという女、サッワの事が妙に気に入っていた様な。あの女をおびき出す為にもサッワを監視付きで釈放するべきかと……」

 スピネルが思わぬ事を言い出して拍子抜けする。しかし貴嶋は部下想いのいいヤツと思い、ますますスピネルに感心した。

「よし良いだろう。サッワを牢から出し、目立つ場所に置いてみよう」
「ハハッよろしくお頼みします」

 スピネルは頭を下げるとすぐさま魔ローダー駐機場に走った。

「貴嶋よ焦るでは無い。貴方は少しせっかちな部分があります、急いては事を仕損じますよ。私はいつでも貴方を信じています。必ず最後は成功しますからね」

 スピネルの会話を隠れて聞いていたメドース・リガリァの女王、アンジェ玻璃音はりねが出て来て男女の仲である貴嶋を励ました。

「……申し訳御座いません陛下。女王陛下におかれましては同盟軍とは和平を、持久の戦いをとご命令されておったのにも関わらずこの体たらく。お詫びの仕様も御座いません。命に代えましてもこの国と女王をお守りします」

 貴嶋は頭を下げに下げた。

「……二人きりなのです、それ程までにへりくだらないで下さい。私と貴方は一心同体なのですよ」

 女王は貴嶋にそっと寄り添った。


 ―同国牢。

「サッワよ、もう戻って来るんじゃねえぞ」
「へい、お世話になりやした……」

 看守が多数の鍵からガチャガチャ選び鉄格子を開け、牢から出たサッワは顔をしかめながら歩いた。

「へへっ約一週間ぶりのシャバかあ、ココナツヒメ様はどうしていらっしゃるだろう……」

 しかしサッワの頭の中は敵陣に置き去りにして来たフゥーの安否で一杯だった。
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