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Ⅳ セブンリーフ新北中同盟女王選定会議

七華の妹 中 新たな気持ちで……

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 ガチャッギギギッ
 既に暗くなり掛けの中、砂緒達は鍵を開けて旧冒険者ギルド館に入ろうとした。

「それでは私はこれで……」

 七華しちかの妹リコシェ五華いっかはペコリと頭を下げた。

「おや、リコシェ殿もうお帰りか? てっきり今夜は我らと一緒に眠る物だと」
「んな訳ねーだろが」
「はい……お供します」

 リコシェは頬を赤らめて一緒に館に入ろうとする。

「お供しちゃダメ」
「お姫さま……いけません」

 侍女が慌ててリコシェの腕を掴んだ。

「何でこの子、砂緒にいきなり好感度MAXなのよ!」
「皆、砂緒とリコシェちゃん二人きりにさせない様に気を配って」
「そうだな!」

 フルエレとセレネが険しい顔で目配せした。

「危険人物みたいに言いますなあ」
「フルエレ様の自室のみ定期的に掃除や手入れをしております。どうぞそこでお休み下さいませ」
「マジで?」
「これはお城のおにぎりとおかずです。つまらない物ですが、どうぞお食べ下さい」
「おお、これはありがてえ」

 そしてリコシェは頭を下げて侍女や従者と共に馬車に乗り城に帰って行った。
 パチッ
フルエレの魔力で魔法ランプを付けると、館の内部は短期間ですっかり荒廃していた。

「また蜘蛛の巣がっ!!」
「なんだろこの記念碑、アレスさんに捧ぐ??」
「……それは」

 猫呼が途端に悲しい顔になり、フルエレが彼女を抱き締めた。

「早くフルエレさんの部屋を見てみましょう!」
「そ、そうね行きましょう!!」

 セレネが言い、フルエレが急いで猫呼を連れて階段を上がった。砂緒はアレスの記念碑を横目で見て、慌てて三人に付いて行った。

 ガチャッ
 ドアを開け魔法ランプを付けると、館内で例外的にこの部屋だけが綺麗に整えられていた。

「あーー良かった! 此処なら普通に寝れるな! ベッドは一つしか無いけどな」

 セレネがフルエレのベッドに勝手に寝転ぶ。それを笑顔で見つつ、フルエレが窓を開けると外の景色は既に夜になっていた。

「あのう……この部屋一つって事は全裸になった私はフルエレとセレネと猫呼の間に入って川の字で雑魚寝する……という事ですかな?」
「何故全裸だ? 川の字より一本多いだろが」
「んな訳無いでしょう、砂緒臨時代用お兄様は廊下か汚い自室で寝なさい!」

 砂緒の提案にセレネと猫呼が一斉に突っ込んだ。

「いいじゃない! 四人で寝ましょうよっ」

 フルエレが笑顔で手を合わせて言ったので、猫呼とセレネは呆気に取られた。

「フルエレ……理解ありますね」
「何言ってるのフルエレ?」
「フルエレさんコイツは常識も遠慮もないぞ」
「大丈夫よ!」

 等と言いつつ、お城おにぎりを食べてしばらくして眠る時間となった……

「砂緒、目を閉じて頂戴!」
「は、はい?」
 
 フルエレに言われ砂緒は期待して目を閉じた……
 ギリギリギリ、ギチギチギチ

「あ、あのフルエレ……何を?」

 全身に走る痛みを感じて砂緒が目を開けると、フルエレが足を掛けて縄でグルグル巻きにしていた。丁寧に手首と足首にも巻いていた。

「フルエレさん、さっき言ってた事と微妙に違うんだが」
「ううん、このくらいしないと間違いがあっちゃ駄目でしょう」
「安心して、四人で川の字になって眠る為よ!」
「フルエレ、そこまでするなら廊下で寝る方がマシですよ」
「ううん私、皆で一緒に眠りたいの」
「フルエレ……そうですね眠りましょう!」
「納得するんかい」


 そして縄でグルグル巻きにされた砂緒を中心にその両側にセレネと猫呼が、さらに一番端っこの窓側にフルエレが、皆ギチギチになって一つのベッドで眠った。

「う~~ん、砂緒ダメだろ……皆見てるぞ……バカぁ」
「おにいさま……お兄様が三人も……うふ、むにゃ」

 砂緒は自分の両側ですっかり眠って夢を見ている二人を呆れて見た。

「……良くこの状況で寝れますね。ふふしかしセレネも猫呼も可愛いです、むふふ」

 いつしか砂緒は縄でグルグル巻きにされている状況でも美少女二人の寝顔を眺めて楽しんでいた。

「……アルベルトさん……ううっ」

 しばらくして砂緒も遂にうとうとし始めていて、ふとフルエレの声がして顔を上げると、彼女のみ起きて窓から星空を眺めていた。星明りに照らされて金髪のフルエレの後ろ姿は幻想的に美しく見えたが、それ以上にそのままスーッと夜空に同化して消えて無くなりそうな不安感に襲われた。

(フルエレ……言い出しっぺの癖に自分だけ眠らずに……)

 砂緒はなんとか上半身を起き上げ、二人を目覚めさせない様にずりずりとベッドから脱出した。

「フ~ルエレさんっ!」

 ドンッ
 砂緒は縄で巻かれたまま、フルエレの肩にぶつかった。

「アウチッ! 何するの? 危ないわよ、今窓から落ちかけたわっ」

 フルエレは急いで指先で涙を拭いながら、振り返って砂緒を見た。

「また……一人で泣いていたんですか? もう泣くのは止めて下さい。私が……いえセレネも一緒に面白い物をどんどん見せて上げましょう。だからもう泣かないで下さい」

 砂緒に言われてフルエレはしばし黙ったままだった。

「面白い物ってスナコちゃんとか?」
「スナコちゃんだけでは無いです。もっと面白い物も見せますから元気出して下さい」
「そう……じゃ期待しなきゃね。でも泣いてただけじゃないのよ、此処の館に来て久しぶりに窓から夜空を眺めて、七華の上げた花火を見てたあの時と同じ様に、なんだか新たな気持ちで出発出来そうな気がして……」

 砂緒は久しぶりにフルエレの自然な笑顔を見れて嬉しかった。

「では……私達もあの森で出会った時の様に、出会った頃の二人に戻れますか」
「出会った頃には戻れないけど、あの時の気持ちには戻れるわ。セレネ共々三人で仲良くしましょ」

 フルエレに言われて、砂緒は猫呼と抱き合って眠るセレネを見返した。

「そうですね、フルエレと私とセレネはいつも一緒です……ついでに猫呼も」
「そうね……」

 そうして今度は抱き合う猫呼とセレネを中心に、砂緒は壁側にフルエレは最初と同じく窓側に横になって同じベッドで眠った。
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