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I ニナルティナ王国とリュフミュラン国

ゴーレムさんに出会った!! 1 逃げる少女(再編1)

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「はぁはぁ」

 ふわふわの金髪をなびかせ、時折後ろを気にして振り返りながら必死に森の中を逃げ惑う少女。陶器の様に艶やかで真っ白い肌の華奢な手足を必死に振り、そしてどこまでも深く透き通る泉の様なエメラルドグリーンの瞳は、今は怯えきって焦点が彷徨っている。派手ではないが纏っているふわりとしたドレスは、貴族の物ほどではないにしろ上品さが漂う。よほど女性に興味が無い場合を除き男なら憧れるだろう美少女その物だった。ただし少し似つかわしくない麻袋を背中に背負っている事以外は。

「ひひゃははははは」

 その後ろをわざと追いつくか追いつかないかの速度で、サイドカー付きのオートバイと一頭の馬に便乗した同じ軍服を着た、3人の男が笑いながら追いかけている。その着崩した制服や野卑な表情からもあからさまにガラの悪い連中に見える。

「あぁ」

 遂に少女は足を躓き、したたかに転びうつ伏せに倒れる。

「あうっ」

 すかさずサイドカー付きと馬で前後を挟むように囲むと、馬から飛び降りたリーダー格らしき大男が、少女の倒れて前に突き出した細い両腕を豪快に掴み、まるで両耳を縛られて吊られぷらぷらと振られる兎の様に、いとも簡単に少女を持ち上げる。

「う、痛い、お願いです離して下さい」

 酷い虐待を受けそうな場面でも、丁寧な言葉遣いが離れない美少女の態度が一層男たちの加虐心を掻き立てる。

「こりゃたまんねえな」
「哨戒なんてつまんねえ役だと思ってりゃ、とんでもねえ特典だなこりゃ」

 子分格のオートバイを運転していた男が、やはり野卑た表情を浮かべ少女に近づく。男たち二人の視線は妙に大きかったりする訳ではないが、恐怖と緊張の中激しい息で上下する若々しく膨らんだ少女の胸に注がれているのは明らかだった。

「いや、やめて下さい、お願いです」

 薄っすら目に涙を浮かべた少女は次に何をされるか、男たちの腕がどこに伸びて来るか想像しただけで、血の気が引いて白い肌が余計に蒼白になる。

「ややっぱりまずくないですか? 大丈夫ですかこんな事して」

 それまで何も発して無かった、サイドカーに乗っていた小柄な気弱そうな男が少し狼狽えた様子で言ったが、上下関係なのか男も内心期待しているのか本気で制止する様子もなく、身を乗り出す様に少女のしなやかな肢体をみつめた。

「へへへ、堅苦しい事言うなバカが。このくらいは役得なんだよ新人、覚えとけ」

 男のごつごつした手が、まだ誰にも触れられた事がないだろう膨らみにかかる直前だった。

「しばし」
「しばし?」

 この男達の中ではとても『よいところ』をぶち切られる様な、突然の第三者の声に少女も含めて全員が声の方向に振り向くと、少女と同じ歳くらいのひょろっとした全裸の少年が居た。男達にはそっちの気が無かった為に良い所をぶち切られた挙句、男の裸を見せられて顔が不快で歪む。

「ご歓談のところ申し訳ない。ここはどんな世界で私はどんな姿をしていますか?」
「へ?」

 一瞬男達は何を言っているのか理解出来ず固まったが、直後に腹を抱えて笑い出した。

「な、なんだコイツ、頭がイカレてやがる! ここはワンダーランドかよ、いくら何でもこりゃリュフミュラン軍の者じゃねえな」

 二番目の子分格の男が頭の横で指先をくるくる回しながら、大笑いして途切れ途切れに言った。この軍服3人組はニナルティナ王国軍の軍人でリュフミュラン国に侵攻中だが、少年と少女二人には与り知らぬ所だった。

「ご歓談じゃないです! 助けて下さい襲われてるんです!」
「おいおい、あんな奴に助け求めるか普通よお」

 少女が哀願するように助けを求めて叫ぶが、腕を掴む大男は笑いながら玩具を振り回す様にぶら下げる少女を軽々と振った。

「……」

 全裸の少年は状況がよく理解出来ないという感じで、キョロキョロ周囲を見渡すと唐突にシュッと中年サラリーマンの様に手刀を切った。

「では私はこの辺で失敬」

 石と鉄筋の塊、無機質の今人間に生まれたばかりの元デパートとしては、最大限過去見た事がある中の人達の行動を自然にトレースしたつもりの物だった。

「ちょっと待って下さい! 助けて」

 少女が絶叫するも全裸の少年はくるりと踵を返すと、すたすたと何の余韻も無く立ち去っていく。

「あれは……本物だな。ほっとけ、こんな上物が一人でうろついている偶然もありゃ、あんなのも居合わせる偶然、二つの偶然が同時に起こったって事だ」

 ガラの悪い不良軍人の癖に、妙なまとめをして綺麗に収めようとする。

「よし仕切り直しだ、その前にこの袋はなんかやっぱり邪魔だな取っとけ」

 変に腰を折られて調子が狂ったのか、これまで大男は無視して来た背中の麻袋が気になりだして、強引にむしり取ると無造作に放り投げた。

「返して! 返して下さい、大切な商品なんです!」
(……商品?)

 スタスタと歩き去っていた全裸の少年の耳がピクッと反応する。

「ははははは、こんなもんが商品だって? 今時こんなガラクタ売れる訳ねーだろ!」

 大男は少女を掴んだまま、地面に散らばった普及品のポーションや聖水らしき瓶を、鉄板入りの軍靴でバキバキと簡単に踏みつぶしていく。

「待てい」

 再び全員が振り向くと先程の全裸の少年が戻っていた。少年になったばかりの元デパートは、当然ただの容れ物だから実際に働いていたのは中の人達だが、その中の人達が時折味わった態度の悪い客、商品の盗難やアクシデントなどが走馬灯の様にフラッシュバックして来て、我が事の様に怒りが沸き上がって来ていた。



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