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I ニナルティナ王国とリュフミュラン国

ゴーレムさんに出会った!! 2 硬化

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「商品を戻せ! 全額弁償しろ!!」

 激しい語気で叫び、憤怒の表情で目は光らせながら、ずんずんと男達の前に歩み寄って来る。

「なんだコイツ、ガキの癖に急に正義に目覚めたか、バカが」

 少女を掴んでいた手を離すと、少女はどさっと地面に落とされ倒れこむ。すかさず子分格が逃げない様に羽交い絞めに抑え付ける。そのまま大男は目の前まで来た全裸の少年の華奢な首をがっしり掴むと、またもや軽々と持ち上げた。しかし持ち上げられた少年は、少しも動じず無表情で男を睨む。

「どうした、何か言ってみろよははは」

 無言で睨む少年の全裸の肌のあちこちが、シュワシュワと炭酸水の泡が弾ける様に白い乳白色に変わっていき、見る見るその白い面積が増えていく。

「なんだあコイツ、ビビリ過ぎて真っ白になっていくじゃね、あ」

 バキッグチャッ森の中に鈍い音が響く。少年の肌が乳白色に変わっていくと同時に、加速度的にとてつもなく重くなり、手を放して落とすよりも先に腕を折り、さらにはそのまま落下した靴を履いていない少年の足は、大男の足の甲から指先まで全てを軍靴の上から粉々に粉砕していた。

「ぎゃー」

 大男は情けない声を上げて、立つ為に力を込める部分を粉砕され尻もちをついて倒れこむ。なおも倒れこんだ大男の太もも辺りを、すかさず凄まじい重さで容赦なく無言で踏みつぶして行く全裸の少年。少女は恐怖で顔を背ける。

「ぎゃあああああ」

 大男は一瞬で片腕、片足の大腿部と足の甲と指を粉砕され、のたうち回る事しか出来ない。

「やめろコラ!」

 パシュパシュパシュパシュ。慌てて子分格の男が背負っていた銃で全裸の少年を撃ち始める。銃と言っても火薬で鉛玉を飛ばす銃では無く、魔導士が弾丸に魔力や魔術を込め、魔力が使えない者でも魔法が使える様に開発された銃だが、全身大理石の乳白色に変わった少年には何の手応えも無く弾き飛ばされるだけの様だ。あまりに少年に効果が無さ過ぎて玩具の銃にしか見えない。

「う、うそだろ」

 全弾を撃ち尽くし弾薬が込められていたクリップが飛び出したのに、子分格の男はまだカチカチとトリガーを引き続けている。

「現状回復しろ」

 女神への怒りも重なって、というよりも八つ当たりで少年は子分格の男に近寄ると、首を掴み片手で軽々と持ち上げる。持ち上げると言っても、もともと身長差があったので無理やり腕を伸ばして数センチだが。

「うぐうう、は、離してくれ」

 苦しむ男を睨み付け、首を絞める力をさらに強めようとした時だった、後ろから小柄な男がようやく決心したのか、剣を振りかぶると背中から切り付ける。カキーンと響く音。

「う、うわあ」

 小柄な男が渾身の力を込めて振り下ろした剣は、いとも簡単に中央からぽっきりと折れて刃先は回転して飛んでいく。小柄な男は折れた剣の柄を震えながら見つめる。

「ご、ゴーレムだ! 石の様な硬い体、黒目よりも白目のが面積の広い三白眼、何を考えてるのか分からない虚ろな瞳、こいつはじっちゃんが言ってたゴーレムだ! わー」

 三白眼がゴーレムの特徴などと聞いた事も無いが、小柄な男は剣の柄を放り投げ、本当にわーと言いながら一目散に逃げだした。賢明な判断だろう。

「きゃあっ離して下さい」

 目を離した隙に今度は最初に各所の骨を粉砕された大男が、片膝をつき片足を引きずり、片腕をダランと垂らしながら、苦悶の表情で少女を抱き寄せ、細い華奢な首を折る体勢に持ち込んでいる。少女よ何故いとも簡単に捕まる?と少年は少しイラッとした。

「へ、へへ、この子の可愛い首を折られたくなかったら……」

 大男が最後まで語るまでも無く、無言で少年は掴んでいた子分格の男の首をそのままぶんと投げ捨て、飛ばされた男は木の幹に頭を下に激しく背中を打ち付けられると、気を失いそのままズルズルと頭から地面に落ちる。

「お、おい聞けよ」

 構わず少年は小柄な男が投げ捨てた剣の柄を無造作に拾うと、野球のピッチャーのフォームで両手を振りかぶり、片足を上げた。

「聞けーーー!!」

 大男がぶち切れて後先考えず腹いせに少女の首を折ろうとした瞬間、少年は冷静に無言で剣の柄を美しいフォームで素早く投げつけると、どすっと柄頭が大男の額に突き刺さり、大男は白目を剥いてどさっと倒れこんだ。

「あ、あ、あああ」

 眼前で恐らく大男が死ぬ瞬間を見た少女は、感謝どころかこの無機質な少年ゴーレムが、今度は自分自身に怒りが向かい何かするんじゃないかと恐怖で腰が抜け、逃げ出す事も出来ずにガタガタ震えた。

「これは……もう売り物になりませんか?」

 しかし少年は身を屈め、地面に散らばったポーションの割れた瓶などをかき集めていた。少女は少年がすっかり怒りの表情が消え、元の肌色に戻っている事に気付いた。

「あ、あの……ご、ゴーレムさん? ありがとう。でもそれはもう……だめだと思うの」

 少女は勇気を振り絞り、ゴーレムと呼ばれた少年にお礼を言った。少年、元デパートで今ゴーレムと呼ばれた者が振り返ると、ちょうど木々の間から陽光が差し込み、金色の髪を一層きらきら輝かせた。その下には緊張から解放され、目を潤ませながらも柔らかく微笑む少女の顔があった。

(……これが、私が飛ばされた異世界?)

 少女にゴーレムと勘違いされた少年は、自分自身が此処までに辿った道を思い返した。
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