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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

父と子と弟とサッワ…… ③

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 ひゅるるるーーーーーーーっ!
 曲線を描いて上空に飛んでくる火の弾を、スピネルの白鳥號はくちょうごうは難なく避けて行く。

『何のつもりだ!?』

 しかし他の弾は仮宮殿の残骸をついばみ続けている千岐大蛇チマタノカガチに全弾命中してしまった……
 ビシャッビチャッ!!
 数発が偶然にも首の根本に当たり、頭が飛んだ。

「くおおおおおおーーーーーんん!!」

 ヒヨンッカッッ!!
 途端に怒りを露わにしたカガチの瞳が真っ赤に光り、同時に赤い光線が光の速さで飛んでいた。しかし苦しむ大猫乃主おおねこのぬしの様子を看ていた兎幸うさこは魔ローンの展開処では無かった。
 
『危ない!!』

 ドシュウ!! 
 しかし間一髪の所で超反応をしていたフゥーがヌの片腕を犠牲にして赤い光線を遮った……というのは間違いで、いくらヌッ様でもフゥーでも光の速さで動く事は出来ず、カガチが光線を撃ちル・ツー漆黒ノ天の危機を予感したフゥーが事前に腕を伸ばした直後、本当に偶然光線が直撃したのであった。
 ズバアッ!! ドカーーン!!
 赤い光線がレーザーカッターの様に伸びてヌッ様の太い腕を切り裂き地面に叩き落とした。
 ドサッッ

『ぐぐううううう』

 フゥーが途端に肩を押さえて苦しむ。

『フゥーくん!?』
『大丈夫かよ』

 猫弐矢ねこにゃとセレネが自分達も痛みが走りながらフゥーを庇った。

『だい、じょうぶです……それよりカガチを!』

 フゥーが懸念する様に、魔砲ライフルを乱射したメランのル・ツー目掛けカガチがゆっくりと仮宮殿からはみ出始めた。

『しまった! すぐに元に戻さないとこのままじゃあウインドゥ川に向かって元の木阿弥になってしまうぞ』
『大変だね……』
『冷静だなお前は』

 どこか他人事の様な紅蓮アルフォードにセレネは突っ込んだ。
 

『ど、どうしよう私のせいで!? そ、そうだわっ回復(強)回復(弱)!』

 メランはバシャッとハッチを開けて、巨大な掌をかざすと操縦席内部に立て続けに魔ローダー回復スキルを掛けた。
 パシュウッキラキラキラ……
 操縦席内部に派手にキラキラ粒子が舞い散り、すぐに雪の様に消えて行く。

『ぐうう、うう……も、もう大丈夫じゃ! 心配するな! ワシがカガチを反対方向に誘引しなお……』

 苦しんでいた大猫乃主が顔をしかめながらも途端に起き上がった。

『猫乃大丈夫!?』
『おじさん、ごめんなさい我を忘れてしまった』 
『良いのだよ……』

 大猫乃主はゆっくりと立ち上がり、操縦席に座り直した。

『うおりゃああああああ!!!』

 が、猫乃が座り直した途端、再び上空から飛来したスピネルこと長男猫名ねこなのル・スリー白鳥號はくちょうごうが飛び蹴りを食らわして、ル・ツーは何回転もして地面を転がりまわった。
 ゴロゴロゴロゴロビシャッ!!

『きゃーーーーーっ!?』
『ぐはっ』

 地面に叩き付けられ、再び動かなくなるル・ツー。

『ル・ツーの皆!? 大丈夫かっ』

 先程他人事みたいだなと言われた紅蓮が気にして大声で叫んだ。

『もういい加減、あの白いのをハエ叩きの様に叩き落としていいですか!? でないとカガチが』
『そうですぞ、兄か何か知らぬが手加減しておるのか!? カガチを押さえておるこっちの身にもなって欲しいものですぞ』

 先程からの混乱の中、ひたすら絶対服従を掛け続ける夜叛やはんモズの桃伝説ももでんせつだが、仮宮殿から体全体が飛び出そうになるカガチを、かろうじて防いでいたが限界が近かった。

『どうすればいいんだよもう!? 分からないよ』

 もともと荒事が嫌いで混乱気味の猫弐矢ねこにゃはくしゃくしゃと頭を掻きむしり続けた。

「情けないやっちゃなー、しっかりせえや」
(こういう時砂緒なら躊躇なく敵を攻撃するからなあ……)

セレネが呆れる程、頼りなさを露呈したその様子を見て、フゥーは自分が何とかしなければと焦りに焦った。

(ヤバイ、猫弐矢さまがキャラ崩壊しかかってる……凄くテンパッてらっしゃる)


『もう蹴り続けていても埒が開かんな。何か武器は無いのか?』
「スピネルさん?」

 白鳥號が体をまさぐると、背中に柄だけの剣が見つかった。

『何だこれは、刀身が無いではないかっ!』

 ブンッ!
 怒りに任せて柄を振ると、柄から青白い魔法の光の刀身が飛び出た。

『お、おいおいアイツなんかヤバイの出したぞ!?』
『もう放っておけません、先手必勝おりゃあああああああ!!』
『気を付けてフゥーちゃん!!』

 ヌッ様は走り出して残りの腕をブンッと振って、白鳥號を叩き落とそうとした。
 ズバアッ!!

『きゃああああ!?』

 ズダーーーン!
 白鳥號が魔法の剣を振り下ろすと、一瞬長く伸びてヌッ様の残りの腕があっさりと斬り落とされた。この瞬間、またヌッ様は両腕を失ってしまった。

『なんという威力! これならル・ツーも簡単に叩き斬れるなククク』

 スピネルは白鳥號の魔性に囚われた様に不敵に笑った。その姿はサッワからも危険に見えた。

「さっきからおかしいですよスピネルさん! 一体どうしてしまったんですか!?」

 サッワはスピネルにすがり付いてガックンガックン揺らした。

『何をする! 手を離さんか』

 バシッとサッワを突き飛ばしたスピネルはびゅんっと剣を振りながらル・ツーに襲い掛かった。

『ちいっ』

 上空からの斬撃を転がりながらかろうじて交わす猫乃。こんな状態ではカガチを誘引しなおす処では無かった。

『あんな武器振り回されちゃ迂闊にカガチを誘引出来ないよ!』
『安心せよ、なんとかする!』

 不安がるメランに猫乃は叫んだが、具体的に何かプランがある訳では無かった。


『ふっ手も足も出んか!? そろそろ終わりにしようかオヤジよっ!!』

 上空のスピネルは再び魔法の剣をブンッと振って、魔法の翼を広げくるくる回転して突入しようとした。

「止めて下さいスピネルさん! そんな強力な武器で切り掛かったら本当に殺してしまいますよ!? お父さんなんでしょう??」

 今度はサッワはガッチリとあらん限りの力でスピネルの腕諸共羽交い絞めにした。慌てて照準が狂い掛けて白鳥號を急上昇させる。

「離せっ! お前だとて許さんぞ?」
「僕達は別に正義の味方じゃないけど、あれはお父さんと、あっちには弟さんが乗ってるんですよね!? 家族くらいせめて話し合いで解決出来ませんか!?」
「出来んわっ! お前が口を差し挟む事ではないわっ!」

 急に上空で白鳥號はきりもみ飛行を始めて、一団は何事かと眺めた。

『よし、今の内だ、カガチを誘引するぞ!』

 ル・ツーは動きかけたカガチの反対方向に移動すると、カガチもそれを追ってゆっくりと仮宮殿に乗っかり始めた。

『う、な、何とか私達も両腕を再生しないと……こんな時あの子が居れば……』

 フゥーは顔をしかめながら美柑ミカの事を思い出した。

『ヤベーな、あたしが外に出てアイスベルグ連発するか?』
『いや、魔力が多い君が出ると僕の魔力だけじゃもたないよ』
『面目ない、僕の魔力は微力で……』

 猫弐矢はうな垂れた。

「ええい、奴らがまたちょこまか動き出したぞ、離せサッワ! お前だとて許さん斬るぞっ本当に!!」
「だから離しません! みなしごの僕には家族も居ないんです! 沢山家族がいてそんな事ばかり言うスピネルさんを許しませんよ!!」

 サッワはうっすら涙を滲ませながら叫んだ。

「知るかっ! 斬らぬと分からぬ様だな!?」

 スピネルは強引に剣を握りサッワを斬ろうとし始めた。

「エカチェリーナさんだって、あの人達だって同じ家族じゃないんですか!? エカチェリーナさんとまた会えなくなっても良いんですか!?」
「なっ……エカチェリーナとあいつらとは違う!」

 だが、実はスピネルにとって彼女も本当に心から愛している訳では無く、何か理由があればぷいっと捨てて出て行くつもりであった。しかし突然恋人のエカチェリーナと憎き父や弟と比べられて、スピネルこと猫名は少し混乱した。

(エカチェリーナとこいつらが同じ訳が……)

「止めて下さいスピネルさん、乾いた所に魔呂は危険なんです!!」
「!!??」

 一瞬逡巡するスピネルをサッワがなんとか説得しようと咄嗟に叫んだ言葉だが、まだ上手く内容が練られていなかった。

「……乾いた所とは何だ?」
「良く分かりませんが乾いた所なんです!! 魔呂は危険なんです!」
「……やはり離せっ!」
「僕は絶対に離しません!!」

『隙ありぃいいいいいいい!!』

 二人が揉み合っている間、白鳥號の不可解な動きを見てとった大猫乃主はヌッ様の肩と頭を飛び、再び黒い羽を噴出しながら大ジャンプをして、渾身の力で空中で回転すると白鳥號の後頭部に強力なかかと落としを決めた。
 ビシュッッ!!
 中の二人の目から火花が出る程の衝撃を受けて、ビューーーンッと地面に飛んで行く。

『まだだっ!!』

 咄嗟にフゥーが落ち行く白鳥號に、ヌッ様の脚でさらに斜め下に蹴り付けた。
 ドギャアッ!!

『ぎゃーーーーっ』
『うあああああーーーー』

 ドシャーーーーン!!
 凄まじい土埃を上げて地面に叩き付けられる白鳥號。それでもサッワは必死でスピネルを掴み続けた。
 ガシャッ!!
 衝撃で緊急ボルトが開き、操縦席が露出した。


「むっちょっと行って見て来るよ」
「お、おい? あたしも行くよ」

 いきなり飛んで行こうとする紅蓮をセレネが止めた。

「いや、どんな相手かも知れない危ないよ。セレネちゃんは此処にいててね。フゥー開けて」

 紅蓮はにこっと笑うと、フゥーが言われて咄嗟に開けた口から、三百Nメートルの高さをぴょんぴょんと飛び降りて行った。

「砂緒みたいなトコがあるな……」
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