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Ⅵ 女王
神話の終わり ⑨ 真の主様……Ⅲ 衝突
しおりを挟む―ヌッ様操縦席内。
『両腕再生完了!』
『じゃっもう一度国引きよっ』
(やっぱり仕切ってる……)
張り切って声を上げた雪乃フルエレ女王をパピヨンマスクの美柑はじとっとした目で見たが、フゥーは文句を言う事無く、神魔ローダースキル国引きを再び発動した。今回は一人除け者にされた猫弐矢は指を咥えて三人娘を見守った。
『行きます、神魔ローダースキル国引きっ!!』
ビキィイイイイイイイッ
国引きなので再びビキィという音が辺りに鳴り響き、ヌッ様の両手から四方八方に光の綱が伸びて行った。
『早速引き寄せましょう!!』
『ハイッ!!』
「……」
雪乃フルエレ女王の掛け声で国引きが始まった。
『心を一つにするのよっ!!』
『ハイッ!!』
「……」
ヌッ様の両手から伸びた光の綱が東の地(中心の洲)とセブンリーフ島を結び、ピィーーンと強く張った。それを見てフルエレが頷くと、フゥーが強く叫んだ。
『はぁあああああっっクニコクニコッオオオオオーーーーーーッッ!!』
『どりゃあああああああ!!!』
「……」
フゥーの叫びと同時にフルエレも一緒に叫び、美柑は冷や汗を流しながら一緒に魔力を放出し続けた。
ギチギチギチ……
ぐんぐんと千岐大蛇に迫って行く大型船を横目に見ながら、フゥーとフルエレは必死に力んだ。ほうぼうに向かった光の綱は再び楽器の弦の様にビィイインと張って行く。
ブチブチブチ……
『くっ!? 負けないわぁあああああっクニコクニコッッ』
『がんばるのよっ!?』
「……」
バリバリバリッぶちぃいいいいんっ
とても嫌な音と共に再びヌッ様の両腕は飛んだ……
『ぎゃーーーーーっ!?』
『フゥーちゃん!?』
「大丈夫かフゥーくん!?」
「……」
思わず猫弐矢もフゥーの身体を心配する程の叫び声を上げて、今回も国引きは失敗した。
ズシャッ
巨大なヌッ様が思わず片膝を着いて、大きな波が起きる。
『……まだまだぁあああああっ!! もう一度やって見ますっ!!!』
しかしフゥーは不屈の闘志で両腕を再び恐ろしい速さで再生させた。
シュバッ!!
『その調子よフゥーちゃん!!』
(こわっこの二人怖いわ……)
しかし色々あってグレ始めていた美柑はまだまだ一人冷めきった目で見ていた。
「でもその前にフゥーちゃんちょっと待って、この部屋に一人だけ心を一つにしていない女の子がいますっ!」
フルエレは怖い顔で美柑のパピヨンマスクの顔にビシッと指を差した。
(ギックッ!?)
なるべく気配を消していたのに、突然怖い顔で指を差された美柑は背中が飛び上がる程ビクッとした……
「貴方、真剣にやってる!?」
「ヒィッ」
美柑の顔に冷や汗が流れた。
―チマタノカガチがル・ツーと戦う海上……
フルエレ達が必死に国引きを再開しようと奮闘する間も、刻一刻と貴城乃シューネとメランが離脱し、兎幸が操船する大型船はカガチに接触間近であった。
ドシューーン! バシーーーン!!
目の前の海中で猫乃の長男、猫名が操るル・ツー漆黒ノ天が水中に突っ込まれたカガチの首を一つ倒す度に巨大な水柱が上がって行く。
『遅かったねっネコノ、ネコノいるの!? ネコノに話し掛けたくて此処まできたよーー』
ブリッジに一人陣取る兎幸は海中のル・ツーに向け、大猫乃主が今も一人で戦っていると信じ魔法通信で話し掛けた。
『どりゃあああああああ!!! ……?』
必死に次々技を繰り出す猫名の耳にも気の抜けた声が響く。
『ネコノ居るのー?』
クイクイと猫名が父王大猫乃主に合図を送った。気にせず話せという事だろうが、当然優しさからでは無く、もはや高齢の父王に羞恥心を与える為である。おずおずと父王は通信に出た。
『何事ですかな、兎幸殿……』
『やっほー! キミって百年とちょっと前に一緒に冒険したネコノだよね!?』
本当か? という顔で猫名は振り返った。
『……い、いいえまさか、そんな昔に会った事など、こんなお爺さんの事など知らないでしょう』
息子の前で猫乃は大変恥ずかしくて、なるべく昔の事に触れたく無かった。
『え、いいえー? ネコノ全然変わらないよ~~?』
兎幸の真意は不明だが、実際に百年とちょっと前に大猫乃主がバックパック一つで諸国を旅していた時に兎幸に出会ったのは、彼がまだ少年の頃であった。当然に髭が生え深いシワが刻まれた今の姿とは似ても似付かない。
「この少女はどんな目をしているのだ」
猫名は戦いながらも片手間にラジオ放送を聞くかの様にいぶかしい顔をした。
『……こんな髭もじゃのお爺さんになってしまって、一緒な訳無いでしょう兎幸さん……でも貴方は少しだけ成長された様ですな……』
遂に大猫乃主は出会った事を認めた。
『やっぱり! ネコノだったんだね、でも全然変わらないよーー? 私は月に放置された時に魔改造されたのっ!』
『ほほう、そんな事が……しかし貴方は以前と同じとてもかわいらしい。実は私はずっと兎幸さんに憧れておったのです、アハハハお恥ずかしい』
(おふくろに殴られるぞ)
猫名は聞き耳を立て冷や汗を流した。
『うん知ってたよーーっだから会いに来たのっ! 一緒に陸地に帰ろうよっ船もぶつけずに曲げるからっ』
この時水中の猫名と大猫乃主は大型船を取り巻く状況を完全に把握した。
『……そのまま大型船をカガチにぶつけて下され、最後までワシは戦いますぞ。それに天空におられる砂緒殿にもその方は有利になろう』
『え? ネコノ一緒に逃げようよ』
兎幸はもう一度聞き返した。
『いえ、我が海中にいるのはこれだけが理由ではありません。もはや引退した身、もう帰る気は毛頭無いのです。しかし最後に兎幸さんに会えて良かった。それだけで良いのです』
『そんな……』
普段殆ど悲しい感情を見せない兎幸の声が沈んだ。
『でも一つだけ最後に兎幸さんに甘えて、願いを言って良いでしょうか?』
突然父王がおかしな事を言い出して、猫名は振り返った。
『う? 何ゞ??』
『今から海上に一人の男が気を失った状態で、ぷかっと浮きまする。その者を兎幸さんの未確認飛行物体で救って頂きたい。それだけ適えば本望です』
「なんだと貴様っ!?」
その言葉を聞いた瞬間、猫名は烈火の如く怒った。が、カガチと戦闘中なのでどうする事も出来ない。
『そ、そんな駄目だよ、一緒に逃げよっ!?』
『いえ、お断り致す。しかし救う者は我が命、この命救えば我も生きると同じとお考えください』
決意は固かった。
『……うん分かった。キミは昔から頑固で言う事聞かない事があったからねー』
兎幸はとても悲しい表情だったが、一回で猫乃の願いを聞き入れた。
『勝手に決めるなああああ!!!』
猫名が振り返った瞬間、猫乃は何かの術を放ち猫名は一瞬で気を失った。
「猫名よ、貴様に運があるならば、海中をカガチの首を避け、海上に漂う大型船の残骸に巻き込まれずに生き残って見せよっっ!!」
バシャッ!!
気を失った猫名は不思議な術で空気の巨大な泡に包まれると、海中で開け放たれたハッチからフワリと放出され、そのままフワフワと浮き上がって行く。
『ネコノ、もう船がぶつかるよ!?』
『それで良いのですよ、さらばです大好きな兎幸さん、あの頃は楽しかったですなハハハ』
猫乃は一方的に魔法通信を切った。
『ネコノーーーッ!!』
大型船のブリッジからは眼前にチマタノカガチの500Nメートルを越える巨体が氷山の様に迫っている。兎幸は後ろ髪惹かれる思いで、貴城乃シューネを引っ張り出した右舷ウイングから飛び出ると、個人用UFOで空を飛んだ。
グギイイイイイイイ、ズドオオオオオオオオンンン……
その直後に鈍い音が鳴り響き、大型船の船首がカガチの海上の身体に突き刺さった。
「くおおおおおおおおんんん!?」
その直後から大量のカガチの首が大型船に襲い掛かった……
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